見出し画像

「納得と驚き」を両立する理想の考察をめざして ー 進撃の巨人考察の3つの障壁 ー

私は視聴者の方に「納得感と驚き」の両方をもたらすことを目標に進撃の巨人の考察動画を投稿しています。

今回は考察動画を1年間投稿し続けて感じた進撃の巨人の考察の難しさを(進撃っぽく)3つの「壁」として紹介します。

物語を客観的かつ魅力的に伝えるための思考法として少しでもお役に立てば幸いです。

①「非合理性」の壁(ウォール・マリア)

「非合理性  = 人の感情」

人の持つ非合理な感情を進撃の巨人では忠実に描かれているため、人の非合理な感情に共感できないと進撃の巨人を考察するのが難しい印象があります。

《人が持つ非合理な行動原理》

  • エレン : 自由

  • ユミル : 愛

  • エルヴィン : 答え合わせ

  • ケニー : 力

  • ウーリ : 平和

  • ザックレー : 権力者への憤り

  • アニ : 父親の元に帰りたい

  • ライナー : 他者に認められたい など

以上のように他人から見ると一見非合理な欲求に突き動かされて人は動いており、ケニーはそれを『みんな何かの奴隷だった』というセリフで言い表しました。

©️諫山創/講談社「進撃の巨人」17巻第69話

「非合理な欲求の奴隷」というリアリティ

一見合理的な行動しかしていないように見えたエルヴィンも「幼き頃の答え合わせをしたい」という非合理な欲求の元、自分と調査兵団を導いていました。

ケニーは相手の非合理な欲求を見抜いて落とし所をつくる人心掌握術に長けており、中央憲兵の隊長になった際に自分たちの存在に虚無感を抱えていた部下に「始祖の力でこの世界を盤上からひっくり返す」という大いなる夢(ビジョン)を共有することで部下からの忠誠心を得ていました。

そして欲求の他にも人は非合理を抱えています。

それが「弱さ」です。

  〈天と地の戦いの前にミカサへの未練を漏らすエレン〉
©️諫山創/講談社「進撃の巨人」34巻最終話
  〈天と地の戦いの終盤にミカサと道の世界で会うエレン〉
©️諫山創/講談社「進撃の巨人」34巻第138話

エレンはヒストリアやミカサ、ラムジーや最後の道の世界でアルミンに嘆いていたように、弱さを抱えていながらも「戦え 戦え」と己の理性を焚き付けて突き進んでいました。

エレンが全てを操っていたというエレン黒幕説は、そのようなエレンの人間性(弱さ)を排除した「合理的な思考」から導かれる仮説です。

エレン黒幕説の全てが間違っているとは思いませんが「果たして人(エレン)は合理に徹することができるのか」という漠然的、しかし本質的な納得感を与えることは難しいでしょう。

②「合理性」の壁

「リアリティ = 合理性 + 非合理性」

①で書いた内容と矛盾しているようですが、進撃の巨人は「合理性」を併せ持っており、そこが難解かつリアリティを感じさせる要素であると考えています。

〈進撃の巨人の持つ合理性〉

  • シガンシナのような突出した地区 → 人類と巨人の緩衝地帯をつくって巨人の攻撃目標を絞り込み、防衛費を削減できるメリットがある

  • 調査兵団のブレード → 肉の脂で衰えやすいため折れ筋を入れた「半刃刀身」を採用

  • エレンの未来視能力 → エレンは最後の進撃継承者のため、過去の継承者の記憶しか見ることができない(過去の継承者を経由しないと未来の記憶を見れない)

  • マーレがパラディ島を攻める動機 → 科学力の向上により巨人の力が衰退し、始祖の力と地下資源を奪う必要性に迫られる など

特に人間の作る道具などは合理性の結晶である

合理性 = メリット

人の行動には明確なメリット、合理性が伴っていることもまた現実です。

つまり進撃の巨人を客観的に考察するには、非合理な人の感情に共感する能力と、合理的に練り上げられた構造を理解する能力という相反するベクトルの能力が必要となります。

メタ認知優位の合理主義者にはエレンの弱さは想定されず、共感能力優位の非合理主義者には事実との整合性に欠ける主観と癒着した主張が生まれてしまいます。

あまり学問を文系・理系に分けるのは好きではありませんが、文系が人の持つ非合理性を、理系が自然の持つ合理性を論理的に追求する側面があるといえるかもしれません。

合理と非合理のバランスはどちらかに偏りやすく、中立を保つのは非常に難しいですが、客観的な主張を目指すならまず自分が合理と非合理のどちらが優位な人間なのかという自己分析から始める必要があるでしょう。
(私は非合理的な思考を好みます)

しかし合理と非合理の両方からアプローチする思考を手に入れたとしても「驚き」を与えるまでには至りません。

つまり事実関係の整理(解説)はできても、新たなアイデアを生み出すこと(考察)はできません。

最後に3つ目の壁について迫ります。

③「発想力」の壁

「理想の考察 = 納得(①+②) + 驚き(③)」

①非合理と②合理のバランスを保てる方は、事実関係を客観的に展開する「解説」をするための素地が整っていると言えるでしょう。

進撃の巨人は解説することも難しいからか、連載中は解説動画でも多くの需要(視聴回数)がありました。

しかし独自性や驚きをもたらすには「③発想の飛躍」が必要になってきます。

論理を飛躍させることは時には突破口に、しかしギャンブル性も多分に含んでおり、作中で論理を飛躍させることが得意なのはエルヴィンとアルミンでしょう。

そのことは合理的な思考が得意なジャンの台詞が分かりやすいです。

アルミンの「ライナーたちが壁の中に潜んでいる」という発想の飛躍は、圧倒的に情報量が少ない現状を打破するものでしたが、その場の情報からしか物事を考えられないには到底不可能な発想です。

エルヴィンの考案した長距離索敵陣形は、従来の「いかに敵を倒すか」から「いかに敵に遭遇しないか」に発想を転換した陣形ですが、これによって調査兵団の生存率を劇的に向上させました。

ピクシスに関してはエレンに大岩を運ばせるアルミンの賭けや革命を起こすエルヴィンの賭けに同調する目利きはありますが、ピクシス自身が発想の飛躍をすることはなく、あくまで合理的な思考を好む指導者でした。

発想の飛躍は賭けの要素が多く、通常ならジャンやピクシスのような合理性を優先すべきですが、圧倒的なリターンを得る時や現状を打開するためには飛躍が必要です。

注意として発想の飛躍はハイリスクハイリターンの諸刃の剣で、失敗すると相手からの信頼を失い、飛躍の内容によっては反感を与えてしまう可能性があります。
(反感を生みかねない飛躍例 : エレン父親説)

〈私の動画における発想の飛躍〉

  1. エルディア帝国の元年 → 初めて王家の血を引くユミルの民の王の誕生

    〈根拠〉
    ・ユミルの子孫と王家の子孫は元々分離していた
    ・クサヴァーが記憶研究で不戦の契りの破り方を発見
    ・エルディア帝国全盛の時代にはユミルの民の血を取り込むことが高貴の証となっていた

  2. 記憶シンクロ説 → 記憶を覗かれている者の意識が薄れている時に覗いている人と記憶が同期する現象

    〈根拠〉
    ・グリシャが居眠りをしている時に覗いていたエレンと記憶が同期していた
    ・木の下で居眠りをしていたエレンが未来の記憶を見た&木の下の居眠りをエレンが覗いていた
    ・無垢の巨人の中の人間は悪夢を見ている&ダイナ巨人の記憶をエレンは覗いていた

  3. エレン不全能説 → 始祖の力はユミルの意思に合うものしか発動できない

    〈根拠〉
    ・エレンは巨人化したピクシスたちを制御しなかった
    ・エレンは自然に救えるはずのハンジを救えなかった
    ・仲間を道の世界に呼び出す時に鳥を遣わせた

以上からも分かるように、発想を飛躍させる場合においても根拠がないと所謂「あなたの感想ですよね?」が付き纏います。

私はまず、疑問が残っている事例を日頃からストックしておき、それらを解決するアイデアを発想する手順で独自の説(仮)を出しています(帰納法的)

そして今度は逆の演繹法的に(仮)の説を論理的に補強するような根拠をさらに探します。

根拠は最低3つは用意することを念頭において、動画内で提示する順番を考えます。

信憑性の低い根拠から順番に積み上げる形で構成する場合や、逆に信憑性の高い根拠から伝えて、補足的に他の根拠を提示する場合など、視聴者の方の驚きをより演出できる順番を考えることが重要です。

3.エレン不全能説の根拠として信憑性が高い順は以下の通りです。

  1. エレンは自然に救えるはずのハンジを救えなかった

  2. 仲間を道の世界に呼び出す時に鳥を遣わせた

  3. エレンは巨人化したピクシスたちを制御しなかった

しかし実際の動画では3→1→2の順に説明しています。

この動画で主張したいエレン不全能説の定義は
「エレンはユミルの目的に不要な力は使えない」
というものだったので、その事例として分かりやすいのが3だったので、巨人化したピクシスの事例から説明を開始しました。

しかしエレンがアルミンたちと敵対関係を明確にするために「あえてピクシスたちを制御しなかった」という可能性も十分考えられるため、エレン不全能説の根拠としては信憑性には欠けます。

そこであくまで3は導入という体にして、すぐさま最も信憑性の高い1のハンジの事例を出します。

なぜ2が信憑性が高いかは動画をご覧頂くとして、最後におまけ程度に2番目に信憑性の高い2の根拠を提示する流れになります。

ここで伝えたいのは「根拠は信憑性の高い・低いに関わらず、初めて聞く人に入ってきやすい順番を模索すべき」ということです。

論理性がすべてを成り立たせる

合理性と論理性は似ているようですが、論理性はもっと包括的な概念です。

合理的な論理は当然存在していますが、それと同時に非合理的な論理も存在しています。

非合理の欲求、エレンでいう自由や弱さ、ケニーでいう力に論理的に彼らは行動しています。

ケニーがウーリに出会えたのも、ケニーが力を求めて始祖の力を狙っていたからであり、ウーリの死後もロッドに仕えていたのも同じ理由でした。

欲求自体は非合理なものですが、行動原理と言い換えれば人はそれに矛盾なく論理的に行動することも多いです。

そして発想力に関しても、飛躍した発想を人に聞かせるにはやはり客観的な根拠が必要で、論理的に道筋を描く必要があります。

今回は物語の考察の難しさを3枚の壁「①非合理の壁」「②合理の壁」「③発想の壁」として表現しましたが
「論理性」は(進撃の巨人の世界に喩えると)3枚の壁や街を結ぶ「運河」のような役割です。

①〜③を貫く「論理性」は運河のようなインフラ


①非合理性と②合理性に欠けると「リアリティ」に欠け、
③発想力に欠けると「驚き」に欠け、
④論理性に欠けると「納得感」に欠けます。

個人的に①〜④の全ての達成をめざして動画投稿をしていますが、達成に近づいたと感じる動画を5本抜粋します。

これからも驚きと納得をめざした動画作成とnote投稿を続けますのでチャンネル登録やフォローをよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?