Forked road 28/41

結花が高木に向き直り話し始めた。
「あれからね、一人で金沢行ったの、」
「え?  金沢へ・・・、そうか、」
高木は固まった。
結花にそんな実行力があったのか。
しばらく強く降る雨音だけになった。
いや、あるかも知れない、一人で路上生活して来たんだ、案外しっかりしている部分があるのかも知れない。
板前修行の件だと思った。
「なかなか出来る事じゃない、その行動力、大したもんだよ、自分で話、付けたの?」
「うん、親の承諾書がいるって言われてど~しようと思ったんだけどこれをクリアしなきゃ修行出来ないと思って母親のとこへ行ったんだ、そしたら、」
「そしたら?」
「金、渡せって、承諾書、代だって。」
「いくら?」
「100万、」
「100万? ひどいな、そんな金無いだろ?」
「ないよ・・・働いて返すからって、」
「書いてもらったのか?  承諾書?」
「うん、」
「そ~か、」
また光った! 今度のは辺り一面真っ白になった。すぐに地面さえも揺らすほどの雷鳴が来た。
結花は高木の胸の中へと飛び込んだ。
高木は結花の顔を覗き込んだ。
「怖い?」
結花の腕は高木の腰に回された。
「怖いよ・・・、、会えなくなるのが、」
結花は泣きそうだった。
気付くと雷雨でまわりに人影が見えなくなっていた。
高木は結花の手を引き柱の影に連れ込んだ。
結花の息が荒い。それは真剣に話している証拠だと高木は思った。
「私ね、木曜日が大好きなの、次の日の金曜日、洋ちゃんに会えるから、そして金曜日の夜が大嫌い、」
高木は黙ったまま結花を抱きしめた。
結花の体温を感じた。
「板前修行、ツラいってネットに書いてあったし料亭旅館の採用の人も生半可な気持ちじゃ出来ないって言ってた、でも私はやっていける自信ある、どんなことだって堪えられる、だって生きてく技を身に付けたいから、、投げ出したりしない、でも会えないのは無理、」
シャワーのような雨の音だけになった。
考えてみればたまたま野に咲く一輪の花を見つけた。
シオれて今にも枯れそうだった。
だが良く見るとどことなく可憐だった。
水をやり養分を与え暴風から守ってやるとみるみるうちに色艶を取り戻し美しい姿に変化した。
すると一気に花に心奪われたのだ。
しかも厄介なことにその気持ちは日を追う毎に増長していった。
最初のうちは会っている瞬間の気持ちが高まっていたのだが、今は会っていない時の方が気持ちが高まってしまっている。
スマホをいつも傍らに置き事務所の女子職員に「女子校生みたい」などとカラかわれたこともあるし既読と通知音に敏感になっている自分に呆れたこともある。
38のおじさんだろ?  相手は16の子供だ、付き合う?まさに犯罪だぞ、第一、妻子があるだろ?選択の余地などないはずだ、彼女には将来がある、ホームレスだった彼女が今、自立しようとしているんだ、好きも嫌いもあるか、ここは身を引き彼女の門出を支援してやるしかないはずだと高木は自分自身に言い渡した。

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