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第三話 怪事件

その少年は私を見るなりニヤリと笑った。まるで私のこれまでの無様な経緯を嘲笑うかのように。

「えっと…」 黙りこくるボロボロの少年に第一声を投げようとした。しかしその瞬間、彼は私が言い終わるより先に何かを話し始めた。小さな声なので耳を傾けてみると、少し低くてガラガラになった声が聞こえる。

「お前は、なぜ、俺を呼んだ。俺はお前から、俺を呼ぶような、そんなオーラが感じられない。無気力で、生きる希望を完全に失った抜け殻の雰囲気が感じられない。」

そんな風に煽られた。私は既に希望なんて失っているはずだった。パチンコに溺れ、仕事も家族も信頼も失いこうしてホームレスとなった。今更希望もクソもあるものか。あるのは腐り切った社会への不満のみ。この子は一体私の何を汲み取ってそう言ったのだろう。いや、私は何を考えているんだ。こんなのは頭のおかしな子供の勝手な妄想に過ぎない。私が本当に希望を失っているのかどうかなど分かるはずもないし、私はこの子を呼んだ覚えなどない。

「坊主、何を言ってるのか知らねえが私は君なんて呼んでいない。だいたい君はどこの子なんだ?親は?そんなにボロボロなら、何か事情があるのか?」本来ならあまり踏み込むべきではないかもしれないところまでズカズカと聞いてしまったが、最初に私を詮索しようとしてきたのはこの子だ。このくらいの問いかけは許されるはずだろう。

俺の問いかけを無言無表情で聴き終えた少年は、ニヤニヤしていた顔を素に戻し、「親はいない。」とだけ言い残すとその場を去っていった。



あれから一ヶ月が過ぎた。奇妙だと思いつつもあれを契機だと思った私は、少年の言葉のレールに従うかのようにホームレスを辞め、土木工事の仕事をなんとか貰い、寮で生活を始めた。昔のやうな生活は出来ないものの、ギリギリ人生をやり直せているとは思う今日この頃だ。

その日の作業が終了し、寮の大部屋でくつろいでいると、職場の仲間が私に声をかけてきた。

「しょこおさん見て下さいよ。最近話題の事件がまた起きたらしいっすよ。」

「どんなのですか?」ここ最近ニュースもあまり見ていないので把握していなかった。

「知らないんですか?無職ニートや、多浪中の学生、ブラック企業の社員とかが被害の中心で連続殺人が起きてるんですよ。なのに犯人は一向に分からず、手がかりすらあんまり掴めていないらしいっす。ただ、現場には必ず一つの同じメッセージが残されているみたいです。」

仲間の説明で、前に嫁と見たニュースの事件のことかと納得した。「それで、なんて書かれているんだ?」と聞いたことを、私はこの後少し後悔したと同時に、力が抜けて椅子から崩れた。



「"呼んだのはお前だ"らしいですよ。」


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