第四話 一つの末路

仲間二人が外回りに出たのを確認してから署でコーヒーをくんでいると、先輩のにんじんさんは頭を抱えていた。

「どうしたんですか先輩。神妙な顔して。」いつもは自信満々な笑顔で仕事に取り組むにんじんさんには珍しいので、コーヒーを振る舞いつつ少し声をかけてみた。

「ああ、ありがとう。最近の連続殺人あるだろ。公開していないにも関わらず手口が一致していることからして同一人物、少なくとも同組織の犯行であると踏んでいるんだが一切の手がかりが掴めない。これまでもこのような事件はあったが何ひとつとして残らないのは俺も初めてで困惑している。」と先輩は言った。

先輩のにんじんさんすら経験したことない事態だ。新人の俺も当然初めてのことであり、署全体でも捜査に難航していた。

被害者は無職ニートや多浪中の若者、ブラック企業の社員、他にも家族関係が良好でない男が中心だ。必ず同じメッセージが残されていること以外に手がかりはない。一応考えられる犯人像としては、世のお荷物となっている人々を無用とする過激な思想の持ち主か、同じような境遇にいる若者の謎の同族嫌悪か、くらいである。社会的に地位が高い人間の連続殺人ならなんらかの経済的裏組織の働きや単なる嫉妬など分かりやすい動機が思い付くが、社会的弱者が標的なことに違和感を感じざるを得ない。一体その殺人が犯人になんのメリットを与えるのか、それが分かれば操作も進むはずなのだがそれがいまいち分からないのが現状だ。

プルルルルルル

電話が鳴った。お客様からの情報用の電話だが、冷やかしや謎の不安からの電話が多く有力なものは今のところない。仕方なく先輩が受話器を取った。いつも通りの流れ拒否の展開かと思いきや、今回は先輩の顔が違う。

「はい、はい。なんと… それでは今からキケッツ町のキケッツ警察署に来てくださいますか?詳しくお話を聞きたいので。はい、ありがとうございます。失礼致します。」先輩はハラハラした顔で受話器を下ろした。

「何か有力な情報が得られたんですか?」と聞いてみた。

「情報どころではない。例の犯人に遭遇した方のようだ。これが本当なら犯人の特徴などが分かるはずだ。」

「なぜその人は遭遇した人物が犯人であると分かるんですか?証拠があるのでしょうか。」

「む、たしかに…言われてみれば」先輩はハッとした顔をしかめ始めた。

おいおい…とも思ったがとりあえず話を聞くに越したことはないだろう。例のお客が来るまで黙って待っていた。


トイレで用を足して席に戻ろうとすると、なんとそこには騒ぐ男をなだめる先輩の姿があった。

「い、いる…だろ。いるだろうそこに!笑った男の子がぁぁ!そいつが犯人だ…そいつが。」男は目を充血させてその場の椅子を蹴り騒ぎ立てた。ここには男と僕と先輩以外誰もいない。薬物乗用者の疑いありと、なんとか先輩がなだめるのを眺めていた時我に帰り、自分も止めに入ろうとしたが遅かった。

男は、恐怖に支配された顔で舌を噛みちぎり、後に病院で死亡が確認されたのだった。






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