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第一話 空虚

ある夜ビールを買いにコンビニへ行き帰っている時、向かいの方向からボロボロの服を着て痩せ細っている少年と出会った。


「生きがいもないのに生きてる意味なんてあるのか」

これは俺が学生時代の頃から抱えていた疑問だ。淡々と仕事をこなし、帰り道に公園で笑顔で遊ぶ子供達を見る。もしここで話す機会があった時、「良い笑顔だ。将来もその笑顔を忘れずに生きてくれ」というか、はたまた「アホそうに笑うな。楽しいのは今だけだからな」と言うか迷えるくらいには、俺の心は空虚だ。

心理系受かっててん、ワンチャンこれ縁があるんかもなーとか考えてまうねんな…
将来もしAIが仕事を代行する日が来るって言われてるけど(2050年までには9割の人が失う)心理系だけは失わないならあり、まぁ大学内でも臨床心理士とか取るために勉強だいぶいるねんけどなw

こんな事を考えて心理系の大学に進んだ俺だったが、当然こんなことは何の意味もない机上の空論に過ぎず、明らかにそのジャンルに才能がなかった俺は結局四年間でやったことを一切生かせず、そのままブラック企業まであと足一歩の中小企業に就職した。

それからは地獄だった。何のやりがいも感じられない仕事をこなし、安い給料で一生独身。28歳なのに彼女すら出来たことがない有り様だ。しかし変わりたいと思って何か行動するような勇気や気力もなく、色のない毎日を送っていた矢先、この少年に出会った今だ。

「こんな時間にどうした、それにだいぶ顔色も悪いが。」とりあえず声をかけてみると、少年は無言で俺の方をじっと見ると、後ろに立ったのだ。

「家に帰らないのか?」そう聞いても返事はない。仕方なく警察に届けようとしたが、その素振りを見せると一瞬「あ…」と声を出し、それからは無言で抵抗した。おそらく何か訳ありなのかと察した。どうせ家には誰もいない。まずいと思いながらも家にあげた。

それにしても酷い。顔や手にはアカが目立つし、ガリガリすぎる。身長はまぁ、低くはない。小学生高学年か中学生くらいだろうと思った。

「そのままじゃ部屋に入れらんねぇ、風呂入れ」そういうと一瞬戸惑ったがすんなりと入った。その間にインスタントラーメンにもやしだけ入れて晩飯の用意をしてやった。

親に虐待されているのか、それとも反抗して出てきたのか、それはまったく分からないが、とりあえず今日は聞かないでおこう。大学で勉強した心理学がもしかしたらいきるかもしれない。

風呂からあがる音がした。俺の服を貸してやったが、ダボダボだ。ラーメンを見ると少しニヤッとした後、いただきますの手真似だけしてすすり始めた。

「俺はいばって言うんだけど、お前は?」

聞いてもこっちを見るだけで答えはしなかった。まあしばらくはこんな感じだろう。しょうがないと思って布団を敷き、俺はフスマに入りこいつに布団を譲ってやった。

食べ終わったら少年は眠い顔をし、俺になんの確認もせずすぐ布団に入ったね眠りについた。図々しいが、まあ良いだろう。こんなことを思いながら、明日のことは特に考えず、今はとりあえず俺も寝た。



朝だ。昨日は馬鹿な大人が道で彷徨っていた俺をかくまってくれた。一夜が終われば、もう用済みだ。 「いばって言ったか?もう息してないから教えてやる、俺はさかなやだ。昨日はありがとよ。おかげで助かった。」


空虚な人生に、最後は良いことをしたと思いながら逝く。悪くない人生だったんじゃないか?


第一話 空虚 完

第二話へ続く。






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