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KINGを小説にしてみました。

硬いコンクリートの壁。
分厚い鉄の扉。

『牢獄』と呼ばれる場所で

私が愛し、尊敬する人は
無慈悲なその日を待つ。

つい先日までそこに君臨し、

世のため、人のためと尽くした人は
たった一度の過ちで『不自由なモノ』へと
姿を変えた。

鉄の錠に、重い足枷。

彼に『自由』は許されない。

人皆様がお祭りのように騒ぎ立てる。

「早く刑を執行しろ!」
「早く消してしまえ!」

お祭りを盛り上げるかのように、
民衆の中に潜む悪魔が顔を出す。

悪魔にとってこれは、単なる劇なのだ。

『人』を見せ物とした、

悪魔のみが喜ぶお祭りなのである。

私は彼に

「お願いですから振る舞いを
考え直してください。
さすれば悪魔は顔を隠し、
民衆があなたの味方をします。」

そう頼み込んだが、
彼は依然と振る舞いを正さなかった。

硬いコンクリートと分厚い鉄の扉の中、
手には鉄の錠に足には重い足枷をつけている。

しかし彼は、
胸を張り、凱旋かのような立ち振る舞いで
民衆の前に立ち、

以前と変わらぬ、
『不自由な者』として話す。

彼と民衆との間には
張り詰めた緊張感という名の壁がそびえ立つ。

彼は左から右へと首をゆっくりと振り、
その場で声を荒らげる民衆と目を合わせる。

一通り民衆の顔を見終えた後
彼は胸を張り、一点を見つめた。

蛇に威嚇された蛙のように

彼から発せられる緊迫した空気が
民衆の口が閉した。

「民衆諸君。
私は過ちなど冒してはいない。

ただそこに並ぶ貴殿らのためにと、
行動したまでである。

貴殿らが思う行動をせよ。
さすればこの国はより良いものとなる。」

彼は口を閉ざし、
ゆっくりと寝床へと戻る。

口を閉ざしていた、

いや、閉ざされていた民衆は
ぽつりぽつりと言葉を発し、

ゆっくりと大きな罵声へと変えていった。

これが彼なのだ。
これがそこに君臨していた者なのだ。

一瞬にして、
民衆の口を閉ざし、自らの意志を表現する。


寝床に戻った彼は、
近くの者共を呼び、

楽しげに話している。

表情とは裏腹に。

私は彼に問うた。

「死ぬことは怖くないのですか。」と。

そうすると彼は

「死ぬ時の痛みは一瞬である。

今の苦しみや葛藤からも解放され、
民衆の願いを無様な形でも叶えられる。

私にできることはそれだけだ。
だから私は今を存分に生きる。」

依然と振る舞いを変えず、
民衆のためと生きた彼は
『ここ』へ来ても変わらなかった。

民衆の声も変わらず、
彼の振る舞いも変わらず、

ついにその日が来た。

幾度となく振る舞いについて頼み込んだ私は

彼の手錠を引き、
無様の頂点へと続く長い階段を共に歩いた。

口を開かぬ私と、
ただ一点を見つめる彼。

頂点に達した彼はいつもと変わらず

左から右へとゆっくり首を振り
民衆一人一人と目を合わせる。

昨日まで騒ぎ立てていた民衆は
嘘のような静けさで彼を見つめる。

「私の大いなる時代は終わり、
また新たな時代が始まる。

私を笑った者に来るのは幸せか不幸

さぞ見ものであろう。

私は先に逝き、
民衆の今後を上から見守るとしよう。」

彼は変わらぬ振る舞いで、最後の時迎える。

私は重い刃の紐を手から離し、
彼の最後を見届けた。

「ありがとう。」

民衆ではなく、私に向けた

彼の最後の言葉だ。

左右から鳴る歓喜の声が地面を揺らす。

それに気づいたのは
彼が逝った数秒後のことだった。

地面に落ちる水を見て我に返る。

地面に溢れている
青と赤のシミを一滴ずつ見つめて、

空を見上げ彼に言葉を返した。

「やはり、あなたはこの国の王であった。」

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