ベルギーの
こんにちは。
とんぺてぃーずのたかしろです。
今回は、僕がNSC(吉本の養成学校)にいた頃の話を書きたいと思います。
僕は2005年に大阪のNSCに入学しました。
知ってる人もいると思いますが、NSCの主な授業は、
ネタ見せです。授業が始まる前に予めホワイトボードにコンビ名を書いておいて、講師の方が来られたら、書いた順番にネタを見せていく。
講師の方からダメ出しをもらったら、次のコンビ…、
その他の生徒は体育座りで他のコンビのネタを見て、ダメ出しを一緒に聞く…というシステムです。
ある日、そんないつもの授業が始まる時にスタッフの方からアナウンスがありました。
「今日はこの授業に海外のテレビ取材が入ります。
ベルギーではすごい有名な芸人さんが、皆さんと一緒に授業を受けます。
日本でいえば明石家さんまさん並みの人気芸人の方が皆さんと同じようにネタを見せて授業を受ける様子がベルギーで放送されます。
ですのでいつも通りの感じでお願いします。」
明石家さんまさん並みの人気芸人、それはすごい。
要は向こうで超売れっ子のスターが海外のお笑い学校で一緒に授業を受けるという企画だ。
その人が、たまたま僕らのいるクラスで授業を受けるという事だった。
そして授業直前、ベルギーのさんまさんが入ってきた。
テレビクルー5人ほどを引き連れて。
見た目は、まずデカい。
180cm以上はあり、ガタイもそこそこよかった気がする。顔は何となくだが、タランティーノがちょっとだけ太ってちょっとだけ揉み上げが濃くなったような顔だ(った気がする)。
授業が始まり、まずは普通にホワイトボードに書いた順にコンビがネタを見せていく。
それを講師がダメ出しをする。
ベルギーのさんまさん(名前は覚えてない)はみんなと一緒にネタとダメ出しを見ている。
僕らも含めて何組かのネタ見せが終わり、いよいよベルギーのさんまさんのネタ見せの番になった。
ネタが始まり、漫談のようなスタイルで話し出す。
ただしもちろん向こうの言語なので、理解できる者は誰1人いない。
笑い声が全くないまま開始から1分を過ぎ、教室の空気感は入学当初の授業のようなとてつもなく重たい状況になっていた。
2分が経っても何を言ってるかもちろんわからないので状況は変わらない。
3分に近づこうかという時、ついにネタに「動き」が入り出した!
アヒルのような動きをしながらアヒルぽい声を出し始めた。手を、口とお尻に見立てて、右に左に移動する。
時たま何かセリフを言っているが、それはわからない。
おそらく教室内にいた何人かは同じ気持ちになったはず、
『笑うならここや!』
3人くらいの吐息のような小さい笑い声が教室内にこだました。
僕もその時吐息くらいの声量は出したかもしれないが、心の中で『ああ、よかった』と思ったことは覚えている。
言語が通じないとはいえ、海外でネタを見せてスベリ倒すのは誰だってきつい。
気を遣って笑うのは違うかもしれないが、ベルギーのスターがわざわざ日本まで来てくれてる事に対しての、
謎のおもてなし精神が働いていた。
しかしピークはそのアヒルの部分で、その人のネタ見せは終了した。
他の芸人と同じように講師のダメ出しをもらうコーナー。その時ばかりは先生もコメントが無くて笑ってごままかしてような気がする。
でもベルギーのさんまさんは、ちゃんと直立不動でダメ出しを聞く姿勢を示していた。
同行したテレビクルーも含め、どんな気持ちだったのだろう。
ダメ出しがすぐ終わり、ベルギーのさんまさんはみんなが座ってる中に戻ってきた。
偶然、僕の目の前に座った。
しかもなぜか正座。
大きいので、目の前のネタ見せが見えないくらいその人の背中で視界が覆われた。
でも周りはほとんど体育座りなのに、外国の人が正座して聞くなんてすごいなと思った。
前が見えないので、何の気なしにその人の足元を見た。
靴下に穴が空いていた。
本当にスターだったのだろうか。
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