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連載⑩ Phoebe Bridgers 『Punisher』 多くの出会いを経て生まれた理想的な2ndアルバム

すっかり更新が遅くなってしまいました。あっという間に9月目前で、2020年はこのまま不思議な感覚で過ぎてしまうのだろうと覚悟を決めている今日この頃です。

さて前回までは2回にわたってFiona Appleを取り上げ、ジャーナリズムとチャートという2つの観点から最新作の考察を行いました。
今回は、そのFionaともコラボレーションを行った私が世界一好きなアーティスト、Phoebe Bridgersの新作について書いていこうと思います。

去る6月、LA出身のシンガーソングライターPhoebe Bridgersの3年ぶりとなる新作『Punisher』がリリースされました。

前作『Stranger in the Alps』でインディ・フォーク界隈の再注目株に躍り出た彼女ですが、この2ndアルバムには前作の路線を踏襲する楽曲がある一方で、フォークに留まらず、より幅の広い楽曲が収録されています。結果として、本作は自身のアイデンティティを確立しながら、さらなる期待を聴き手に抱かせてくれる理想的な2ndアルバムになっているように感じました。

Phoebeはリリースまでの3年間で数々のコラボレーションを行ってきましたたが、少し調べてみるとその他にも続々と驚くような出会いの連続があり、そうした出会いが制作の原動力となり作品を形成しているようです。
今回は、Phoebe Bridgers の2ndアルバム『Punisher』が理想的な2ndアルバムとなり得た秘訣の一つである、彼女と数々の出会いをまとめたいと思います。

まずはこの3年間、コラボレーションとしてリリースした作品を振り返りましょう。
1stアルバムリリースから1年後の2018年11月、Julien BakerLucy Dacusとのグループ”boygenius”名義で6曲入りEPをリリース。それからわずか3か月後の2019年2月には、1stアルバムでもすでにコラボしていたConor Oberst(Bright Eyes)とタッグを組み、”Better Oblivion Community Center”として10曲入りのアルバムをリリース。驚異的な制作スピードです。

この2つのコラボレーションは現在に至るまでPhoebeにとって非常に大きい出会いであったようで、2ndアルバムリリース時のインタビューでは必ずこの3人の名前を挙げており、制作によく聴いていた音楽としてMitskiと並んで彼らの作品を挙げています。本作でJulienとLucyは”Graceland, too”に参加。Conorは制作の良きアドバイザー的な立場としてデモテープの段階からPhoebeの相談役となり、最も完成に苦労した(彼女曰く、「最初に生まれて、最後に完成した」)“I Know the End”終盤の特徴的な「叫び声コーラス」とでも呼ぶべきパートのアイディアを生み出したそうです。

この時点でも非常に豪華な面々ですが、ここから更に興味深い出会いが続きます。なかでも特筆すべきはレコーディングスタジオである「Sound City Studio」におけるBlake Mills、そして彼女自身がアルバムのプロデューサーとして関わったChristian Lee Hutsonとの出会いでしょう。

数々の多くのアーティストが制作を行った由緒あるLAのスタジオ、Sound City Studioで、PhoebeとBlake Millsは隣同士でお互いの新作をレコーディングしていたそうです。今を時めくプロデューサー(ギタリスト)とシンガーソングライターが、同じスタジオでレコーディングしているという、聞くだけでもワクワクするあまりに豊饒な環境であったわけですが、作中においても“Halloween”のギターパートで参加するなど、実りのあるコラボレーションとなっています。

Christian Lee Hutsonは共通の友人を介して出会い、その出会いから1週間後に“Halloween”を制作、また制作にあたって“Moon Song”の原型をChristianの家で聴いてもらい意見を求めたそうです。その中で、50曲以上のストックからアルバムを完成させることに難渋していたChristianに対し、Phoebeが的を射たアドバイスを投げかけたことからプロデューサーとして迎え入れられ、完成の日の目を見ることになりました。

その他にも前作から引き続いてプロデューサーとしてクレジットされているTony BergとEthan Gruskaをはじめ、”Better Oblivion Community Center”にも参加していたHans Zinner(Yeah Yeah Yeahs)、Jenny Lee Lindberg(Warpaint)、Tomberlinなど多くのアーティストが制作に参加しており、Phoebe自身も制作期間にThe NationalやThe 1975の作品に客演していました。

こうした数多くのコラボレーションを通じ2ndアルバム『Punisher』が完成しました。リリースにあたってのインタビュー記事などを読んでいて印象的だったことが、Phoebe自身が制作、そしてツアーを心から楽しんでいる様子です。1stアルバムはデビュー前から溜めてあった楽曲からピックアップして制作に臨んだこともあり、孤独さが全体を覆っている印象を受けますが、本作では”Kyoto”や”Chinese Satellite”のような、最初からライブで演奏することを念頭に置いて制作した楽曲があるなど、外に向けて開いた作品になっています。

一人のシンガーソングライターが多くの出会いを経て、自身の才能を開花させていく様は非常に感動的だといつも思います。残念ながらこの状況下でThe Nationalとの来日公演も中止になってしまいましたが、Phoebeもツアーを心待ちにしているようです。ライブで観れることを願いながら、今はこの素晴らしいアルバムを心ゆくまで堪能しましょう。

参考:
・Consequence of Sound
https://consequenceofsound.net/2020/06/phoebe-bridgers-interview-2020/
・EW
https://ew.com/music/how-phoebe-bridgers-and-friends-came-together-to-make-punisher/
・Stereogum
https://www.stereogum.com/2086915/phoebe-bridgers-interview-punisher-conor-oberst-1975-boygenius/franchises/interview/footnotes-interview/
・monchicon!
http://monchicon.jugem.jp/?eid=2310


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