鮮魚店内無断倒立罪

魚屋で逆立ちした罪で裁かれることになった。

ひんやりと新鮮な命の香りの中で、薄緑の塗装が剥げかかって斑になったコンクリートの床の湿り気と僅かな凸凹が、身体の重みで推されて手のひらに染み込んでいく感じが心地よかった。段々腕が痺れきて、もういいかなと思ってその床に足を付けたときには既に大勢の警官に囲まれていた。

正しそうな建物で、正しそうな人々が私のことを扱った。そうされると、魚屋で逆立ちなんかして逮捕されてしまったことも、魚屋で逆立ちするのは逮捕される程悪いことなのかどうかが分からないことも、急にひどく恥ずかしくなってしまってずっと黙っていたらそのまま有罪になった。
放り込まれた牢獄は、案外居心地が悪くない。一生出られることはないらしい。

夜になった。独房のベッドの上から、鉄格子の外で大木が激しい風に揺られているのを見た。うねりながら暴れる沢山の葉が、網に掛かりわけも分からないまま引き揚げられる鰯の群れのように見えて、もしかして大変なことをしてしまったのではないかと一瞬思ったけれど、どうにも眠たくて、私はそのまま眠ってしまった。

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