一本の歯に対する考え方の違い
僕が大学の歯学部5回生、病院実習のときのことです。
口腔外科のM先生は、大学病院の受付カウンターで、ものすごいけんまくで受話器に向かって怒鳴っていました。
『お前、こんなええ歯、わしに抜け言うんか、ボケ!』
M先生は僕のインストラクターでした。
持っていく器具を間違えたせいで、僕はその鋼の器具で頭をなぐられたことが何度かあります(なぐられても、また間違えてしまった。。)
患者さんの処置中で両手がふさがっているときは、足でけられる始末…
でも、何故か嫌な気持ちは全くありませんでした。
歯に対して熱いものを、M先生に感じていたからです。
『死んどる4番抜いて、お前が抜け言うた5番を生えささんかい。
できへんのか。アホ!』
このときは右下の歯でした。
5番(前から数えて5番目の第二小臼歯という歯)は、4番の裏に隠れていて、外からは見えませんでした。
5番は全く虫歯がありません。。
4番は歯の頭が崩壊していました。
レントゲンを見ても、ボロボロになっているのは明らかです。
どうも受話器の向こうはM先生の後輩らしい。。
その後、M先生は少し落ち着いて、電話でアドバイスしていました。
『予後不良(もう使えそうにない歯)の4番を抜いて、
虫歯のない舌側転位(内側に倒れていること)している5番を
4番のところに矯正治療して動かしてきたらどうや?
4番にクラウン(かぶせもの)を作るために邪魔になっている5番を抜け言うんやろ?
そんなんしても4番はもたんで。。
歯根(歯ぐきに隠れている歯の根っこの部分)も悪いし。
5番残して使えるようにした方がよっぽど長持ちする。
天然歯には、かなわんやろ。
お前できへんねやったら、俺がやったるわ。』
僕は、M先生が一本の歯を大切にする姿勢がすごく好きでした。
『口』は最高に悪かったですけどね。
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歯科に限らず、医師によって診断が変わることはザラにあります。
病院実習の時、私の目の前で怒っていた歯科医は、入り込んでいる歯を抜かないで、虫歯になっている歯の代わりに、外に出してくるよう言っていました。
このように、内側に入り込んでしまっている歯を抜かずに、矯正で使えるようにできる可能性は充分にあります。
もちろんこれ以外にも歯科治療のプランは色々と考えられます。
例えば、抜こうとしていた内側に入っている歯も、虫歯になってしまっている歯も、どちらも抜かずに矯正治療によって活かす方法。
本来あるべき姿としては、どちらの歯も上下の歯の咬み合わせに参加させることです。
元々は、どうあるべきかの理想的な状態を考えた上で、いくつかの策を考えてから、歯科治療に取り掛かるのが良いと思います。
隠れているからと言って、内側に入った歯でも安易に抜いたりしないで!
役に立ってない?
いや、まだまだ使い道はあるかもしれん。
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