令和3年司法試験・選択科目(経済法)第2問 再現答案
経済法第2問の再現答案です。
本文
第1 設問1
1 まず、X社による措置1について、不公正な取引方法の一般指定14項(以下、項数のみ記載)の競争者に対する取引妨害に当たり、X社は独占禁止法(以下、「法」)19条に違反しないか。
⑴ X社は、甲製品(以下「甲」)のメーカーであり工業を行う者であるため「事業者」(法2条1項)に当たる。
⑵ 14項の行為要件は、①自己と国内において「競争関係にある他の事業者」の、②取引相手方との取引を「妨害する」ことである。
ア ①について。Y社は、X社と同一の需要者である甲販売店に対し「同種」の甲を供給しているから、X社と「競争」関係(法2条4項1号)にあり、Y社への妨害は①を満たす。
イ ②について。取引を「妨害する」というためには、競争関係にある事業者とその相手方との取引に実質的な悪影響を及ぼすことが必要である。
本件において、X社はY社製甲を取り扱う取引先販売店に対しY社製甲の積極的な推奨をすればX社の家庭用電動器具の販売促進や技術面の支援(以下、「本件支援等」)において不利な扱いをする旨を示唆したにすぎず、Y社製甲の取扱いをやめるよう要請した訳でも、要請の実効性を高めるためX社製甲の販売を取りやめる可能性を示唆した訳でもない。
もっとも、Y社が甲の販売市場に新規参入したこと、甲のユーザーは販売店の助言や推奨によってメーカーを選定する傾向が強いことから、Y社製甲を取り扱う販売店にとってはユーザーに対しY社製甲を積極的に推奨できることはY社製甲を効率的に販売するため、ひいてはY社製甲を取り扱うか否かを決定する上で重要な前提となっているといえる。一方で、X社は家電用電動器具の総合メーカーとしてのブランド力やユーザーからの知名度が高いために甲の販売店にとってX社製甲を取り扱うことが不可欠であった。また、甲の販売店にとってはメーカーによる本件支援等が重要な意味をもっており、特にX社は特約店制度の下取引先販売店の60%に本件支援等を行っていることからすると、X社の取引先販売店にとっては本件支援等で不利な取扱いを受けないことが他の販売店と販売競争を行う上で重要と解される。
このような事情の下で措置1を行うことにより、X社の取引先販売店は本件支援等で不利な扱いを受け、販売競争上の不利益が生じないようユーザーに対するY社製甲の積極的な推奨を取りやめることを余儀なくされることになる。実際に、X社から不利な扱いを受けた販売店が出現したことや、X社の取引先販売店の間にX社から不利な扱いを受けた販売店があるとの情報が流布されたことも相まって、販売店の中にはY社製甲の積極的な推奨を取りやめる販売店が出てきている。
そして、Y社製甲を積極的に推奨できない結果、Y社製甲の効率的な販売が見込めないと考え取扱いを断念するX社の取引先販売店が現れており、Y社とこれら販売店、ひいては甲のユーザーとの取引に実質的な悪影響が生じているといえる。
以上より、本件においてY社と取引相手方との取引が「妨害」されたといえる。
⑶ では、措置1は「不当に」なされたといえるか。
ア 法19条の禁止の趣旨は公正な取引秩序の維持にあることから、「不当に」とは「公正な競争を阻害するおそれ」(法2条9項6号柱書、以下「公正競争阻害性」)があることをいう。そして、本件のようなあからさまな妨害でない行為については、当該行為が市場において競争回避又は競争排除による競争制限のおそれをもたらす場合に、公正競争阻害性が原則として認められる。
イ 競争制限効果を判断するために、市場を確定する必要がある。市場は問題となる取引及びこれにより影響を受ける範囲を検討し、必要に応じて需要者にとって代替性のある商品・地理的範囲を考慮した上で、そこでの競争が行われる範囲として画定される。
本件ではY社製甲の販売に係る取引への妨害が問題となっている。そして、Y社製甲はX社、A社及びB社製の甲と代替性があり、他方で甲との代替性は存在しない。よって、市場は国内における甲の販売市場(以下、「本件市場」)として画定される。
ウ 前述の通り、甲の販売店にとってX社製甲を取り扱うことが不可欠であること、Y社製甲の積極的な推奨ができないことがY社製甲の取扱い断念につながりうることを鑑みると、要請1はY社と販売店、ひいてはユーザーとの取引の機会を減少させ、本件市場での事業活動を著しく困難にするおそれがあるため競争排除による競争制限のおそれが認められる。また、Y社製甲はX社らの甲と比較して低価格であり、安売りによるY社のシェア拡大に対抗してなされた措置1には競争回避による競争制限のおそれも認められる。
エ よって、本件において公正競争阻害性が原則として認められる。
⑷ しかしながら、問題となる行為が公正かつ自由な競争の促進により消費者の利益を確保する等の方の目的(法1条参照)に照らし正当な目的のための必要かつ相当な手段と認められる場合には、正当化事由があり公正競争阻害性が否定される。
もっとも、本件においてはY社製甲の伸長が甲全体の価格水準に影響を及ぼすことからこれを防止するという競争回避の目的で措置1に及んでおり、正当な目的とは評価できない。よって、正当化事由も認められない。
⑸ 以上より、措置1は14項の取引妨害に該当し、X社は法19条に違反する。
2 次に、X社が措置2を行った上で取引先販売店と取引を行うことは、不公正な取引方法の一般指定12項の拘束条件付取引に当たり、X社は法19条に違反しないか。
⑴ 前述の通り、X社は「事業者」である。
⑵ 12項の行為要件は、相手方の事業活動を「拘束する」条件を付けて当該相手方と取引をすることである。そして、「拘束する」とは、ある取引条件に従うことを契約上の義務として定めているか、又はその取引条件に従わない場合に経済上の不利益を伴うことにより現にその実効性が確保されているときに認められる。
本件において、X社は取引先販売店に対し、リベート供与に当たってユーザーに対して専らX社製甲を推奨するという販売店の「事業活動」に係る「条件」を課しているものの、同条件がX社製甲の取引自体に対する契約上の義務として定められている訳ではない。もっとも、1⑵イで述べたような、本件市場におけるX社の地位や販売店にとってX社製の甲を置くことの重要性を踏まえると、他の販売店と販売競争を行うためには上記条件を約束した上でリベート供与を受けることが重要といえる。そして、約束が履行されない場合にはリベートを供与されない他本件支援等の削減がなされて取引先販売店は大きな経済上の不利益を被るおそれがあり、約束の履行について実効性が現に確保されている。
したがって、本件においてX社は取引先販売店を「拘束」しており、措置2の下での取引は12項の行為要件を満たす。
⑶ では、上記取引が「不当に」なされたといえるか。
ア「不当に」とは公正競争阻害性を指すことは前述の通りである。そして、本件において専らX社製甲を推奨することは、他社製の甲を推奨しないことを意味し、前述したY社製甲の販売における積極的推奨の重要性を踏まえると、措置2は流通業者である取引先販売店に対し事実上Y社製甲をユーザーに販売しないことを条件とするものといえる。
そうすると、排他条件付取引に準じ、①市場で有力な事業者が行う場合で、かつ②市場閉鎖効果が生ずる場合、すなわち既存の競争者にとって代替的な取引先を容易に確保できなくなり、事業活動が著しく困難になるおそれがある場合には競争排除による競争減殺のおそれがあるため、公正競争阻害性が原則として認められる。
イ 問題となる市場は1⑶イで述べた理由から本件市場となる。X社は本件市場において販売シェア45%で第1位の事業者であり、有力な事業者といえる(①)。
②については、対象商品のブランド間競争の状況、行為者の市場における地位、行為の相手方の数・割合及び市場における地位、制限の実効性を総合して判断される。Y社が甲の販売拡大を図る中で、有力な事業者であるX社が甲の販売店の約60%を占める特約店に対し、上記の通り実効性の高い措置2に及ぶことで、約束をした特約店がY社製甲を取り扱わなくなりY社が代替的な取引先を容易に確保できなくなるおそれがある。実際、X社製甲を取り扱う特約店の約半数が上記の約束をしており、Y社による新たな取引先販売店の獲得に懸念が生じている。
したがって、本件において市場閉鎖効果が生じており(②)、競争排除による競争減殺のおそれが認められる。また、1⑶ウで述べた通り競争回避による競争減殺のおそれもある。
ウ よって、本件において公正競争阻害性が原則として認められる。
⑷ また、1⑷と同様の理由から本件において正当化事由は認められない。
⑸ 以上より、措置2を行った上で取引を行うことは12項の拘束条件付取引に該当し、X社は法19条に違反する。
第2 設問2
設問2の事情が認められる場合、X社による措置1及び措置2について排除型私的独占(法2条5項)が成立し、X社は法3条前段に違反しないか。
1 前述の通り、X社は「事業者」である。
2「排除」とは、①正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有し、かつ②他の事業者の事業活動又は市場への参入を著しく困難にする効果を持つ行為をいう。
⑴ ①について。不当な取引方法に該当する場合、独禁法上違法な行為として正常な競争手段の範囲を逸脱する人為性を有するといえるところ、設問1で論じた通り措置1及び措置2はそれぞれ取引妨害・拘束条件付取引に該当するため、上記の人為性を有するといえ①を満たす。
⑵ ②について。前述の通り、措置1・措置2はY社の本件市場における事業活動を著しく困難にする効果が認められるため②を満たす。
⑶ よって、X社は単独でY社の「排除」を図ったものであり、法2条5項の行為要件を満たす。
3 では、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」という効果要件は認められるか。
⑴「一定の取引分野」とは市場を指すところ、前述の通り本件市場として画定される。
⑵「競争を実質的に制限する」とは、市場における競争が減少し、事業者がその意思で市場における価格・品質・数量等をある程度自由に左右することにより市場を支配できる状態(以下、「市場支配力」)を形成、維持ないし強化することをいう。
本件において、措置1・措置2によって他社製の甲の販売台数が減少しX社の甲製品のシェアは市場支配力の目安となる過半を超える60%に至っている。また、取引先販売店がY社製甲の積極的な推奨を取りやめ、Y社製甲を取り扱う販売店が増加しないことにより、甲の価格水準は従来通り安定し、X社の目的が達成されていることから市場支配力の形成が認められる。
⑶ したがって、効果要件を満たす。
4 また、設問1と同様正当化事由も認められない。
5 以上より、X社にX社による措置1及び措置2について排除型私的独占が成立し、X社は法3条前段に違反する。 以上
所感
・設問2の設定を踏まえて私的独占が問題となり、設問1では不公正な取引方法のみを検討すればよいという誘導は従来の問題よりも書きやすいものであったように思います。他方で、具体的な不公正な取引方法として措置①で「取引妨害」という、あまりメインになることのない行為形態を本当に検討していいのか不安に思いました(その後経済法非選択者の知人と話したところ、「措置①でも拘束条件付取引で書いていいのではないか」と指摘されました。そんな気もしてきましたがまだ詰めて考えていないので、おいおい検討したいと思います…)
・設問1の措置1の検討だけで問題用紙の半分以上を占めることになりました。以降の検討は措置1の検討結果を流用できるとの判断に基づくものでしたが、もう少し端的に書く・措置2以降独自の事情を強調するなどバランスに配慮すべきだったかもしれません。
・(6月27日追記)実際の答案からの再現率ですが「おおよそ80%」という認識です。設問1の措置1の行為要件の認定(「妨害」したといえるか)の部分を、もう少しダラダラ書いていたような気がします。
・(9月11日追記)出題趣旨(経済法は26-30頁)が出たので目を通してみました。第2問では措置1において成立する不公正な取引方法として拘束条件付取引を検討すべきか、取引妨害等を検討すべきかが悩ましかったのですが、出題趣旨にはこのように記述されていました。
措置1については、説例上、広義の拘束条件付取引と直ちに評価できるだけの十分な事実関係は示されておらず、その態様(…)等に照らせば、Y社の甲製品を積極的に推奨する販売店に対する個別の牽制ないしは圧力と評価できよう。そうすると、措置1は、Y社の甲製品を積極的に推奨する販売店に対する、販売促進等の支援における「取引条件等の差別取扱い」(一般指定第4項)、Y社の甲製品を積極的に推奨しないように仕向けて取引の内容を制限させる「その他の取引拒絶」(一般指定第2項)、Y社という自己の「競争者に対する取引妨害」(一般指定第14項)に該当するものと考えることができ、そのいずれを選択するにしても、それぞれの類型を定める条文に即して行為要件を充足するかを的確に論述する必要がある。なお、仮に、措置1が上記の態様にとどまるものであるにもかかわらず、拘束条件付取引として捉える場合には、拘束条件を付ける取引の相手方の範囲や拘束条件の内容、その実効性が確保されていることを検討…することになろう。
拘束条件付取引一択ではなく差別的取扱いやその他の取引拒絶、取引妨害といった類型を検討する余地がある(むしろ、後者の方が基本的な解答として想定されていると思われる)ことに安心しました。また、後者の諸類型は(記憶が確かであれば)ここ5,6年の司法試験で出題されていない行為類型であるため、行為要件充足性を的確に論じられた受験生は少ないのではないかとの印象を抱きました。
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