令和3年司法試験・民事系第3問(民事訴訟法)再現答案

民訴法の再現答案です。民訴は元々得意科目だったのですが、それなりに実力を示せたように思います。

本文

第1 設問1
1 課題1について
  裁判所がXの申出額と各段の相違のない範囲を超えて増額した立退料の支払との引換給付判決(以下、「本件判決1」)を出すことは、処分権主義の審判対象特定の場面における現れである申立拘束原則(民事訴訟法(以下法令名省略)246条)に反しないか。
⑴ 処分権主義及び申立拘束原則の趣旨は、私的自治の訴訟手続への反映及び当事者への不意打ち防止という点にある。そうすると、①判決内容が原告の合理的意思に合致し、また②被告に対する不意打ちとならない場合には、申立拘束原則には反しないと解する。
⑵ア まず、申立額と格段の相違のない範囲で増額した立退料支払との引換給付判決と比べると、本件判決1はXの予期しないものであり、その合理的意思に反しているとも思える。
 しかしながら、本件判決1ができないとすると、裁判所はXの申出額では建物収去土地明渡請求を認めるための正当事由(借地借家法6条)を補完するに足りないとの心証を抱いている以上、Xの敗訴判決を出さざるを得ない。かかる判決が出るとXは本件土地の明渡しという目的を達成できないうえ、本件訴訟の確定判決の既判力(114条1項)として、本件訴訟の事実審の口頭弁論終結時における建物収去土地明渡請求権の不存在が認められるため、再訴が困難になりかねない。
 また、本件において第1回口頭弁論期日におけるXの釈明内容を見ると、Xは1000万円という額に強いこだわりはなく、裁判所がより多額の立退料の支払が必要であると考えられるならば検討する用意があるとの意思を有している。
 そうすると、敗訴判決と比べれば、本件判決1はXの合理的意思に合致するといえる(①)。
イ そして、Yは本件レストランの経営継続が困難になるため立ち退きに応じられないことを主張すると共に、Xから申出があった程度の立退料では補償として不十分である旨を主張しているのであるから、Xの申出額から増額した立退料支払との引換給付判決である本件判決1はYに対する不意打ちとはならない(②)。
⑶ したがって、本件判決1は申立拘束原則に反さず、裁判所が本件判決1をすることは許容される。
2 課題2について   
 裁判所がXの申出額よりも少額の立退料の支払との引換給付判決(以下、「本件判決2」)を出すことは申立拘束原則に反しないか。1⑴で述べた基準に基づき検討する。
 本件において第1回口頭弁論期日におけるXの釈明内容を見ると、Xは1000万円という額に強いこだわりはなく、早期解決の趣旨で若干多めに提示したものである以上より少ない額が適切であるとの意思を有している。そうすると、本件判決2はXの合理的意思に合致するといえる(①)。
しかし、YはXによる1000万円の申出額を認識した上で、その額では補償として十分でない旨主張しているのであるから、申出額よりも少額の立退料しか得られずに本件土地の明渡しがなされる本件判決2はYに対する過度の不意打ちとなる(②不充足)。
 したがって、本件判決2は申立拘束原則に反するため、裁判所が本件判決2をすることは許容されない。
第2 設問2
 本件においてZが「訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継した」(50条1項)として、本件訴訟の訴訟承継が認められるか。訴訟承継制度の意義が問題となる。
1 訴訟承継は、訴訟係属中に紛争主体の変動を生じさせるような実体法上の地位承継があった場合には、承継人と相手方当事者の間で一から訴訟を行わせるよりも、従来の訴訟状態を承継人に引き継がせ、その審理を続行させる方が訴訟経済であり、かつ当事者間の公平に合致するために認められる制度である。そうすると、訴訟物自体の承継がなくとも、訴訟物の基礎をなす実体法上の関係、即ち紛争の主体たる地位の承継があれば、「訴訟の目的である義務の全部または一部を承継した」といえる。
2 本件において、XのYに対する訴えの訴訟物は、賃貸借契約の修了に基づく目的物返還請求権としての建物収去土地明渡請求権であり、XがZに対して定立した請求の訴訟物は本件土地の所有権に基づく妨害排除請求権としての建物退去土地明渡請求権であるところ、建物収去義務は建物退去義務を執行方法上包含する関係にある。
 また、XZ間の訴訟においてZの建物退去土地明渡義務の存否の判断は、Zに本件建物を賃貸したYが本件土地の占有権原を有しているか、即ち本件契約が終了せず更新されているか否かに関する主張に依存しており、本件訴訟の訴訟資料を利用できるといえる。
 したがって、ZはYから紛争の主体たる地位を承継したと評価できる。
3 以上より、Zは「訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継した」といえ、本件訴訟の訴訟承継が認められる。
第3 設問3
1 課題1
 時機に後れた攻撃防御方法の却下(157条1項)の要件は、①攻撃防御方法の提出が「時機に後れ」たこと、②提出が時機に後れたことについて当事者の故意又は重過失が認められること、③「訴訟の完結を遅延させるもの」と認められることであるところ、Xとしては、以下の理由からYが最終期日に本件新主張をすれば①~③を満たすため時機に後れたものとして却下されるべきであると主張すべきである。
⑴ ①について。「時機に後れ」たとは、より早期の適切な時期に提出できたことを指すところ、本件新主張の提出は弁論準備手続(168条以下)後であることから「時機に後れ」たことが推定される。そして、本件新主張は、BからAに対し更新料の前払の性質も含む権利金が支払われていた旨の主張であるところ、支払いの事実自体は本件契約締結時に生じたものであり当然ながら弁論準備手続以前の事実であること、かつ当該事実につきYは把握していたことから、弁論準備手続中に本件新訴訟を提出することは可能であるため上記推定を覆す事情は認められない。
 よって、本件において①が認められる。
⑵ ②について。当事者の故意・重過失は、主張の種類・性質、当事者の法的知識の有無などの諸事情を踏まえて判断される。また、①とは異なり弁論準備手続終了後の提出であることをもって当事者の故意・重過失が推定されることはないが、相手方当事者の求めによりなされる、弁論準備手続の終了前に提出できなかった理由の説明(174条、167条)は、②の判断の参考となる。本件において、Yは法的知識に乏しいと考えられることから、本件通帳により立証される本件新主張の重要性について判断できず、Lの指摘があるまで提出できなかったことについて善意無過失であるとも思える。しかし、YはBから「本件土地の更新時にもめるといけないからきちんと保管しておくように」と告げられており、実際に本件通帳を本件契約の契約書と共に厳重に保管していたのであるから、弁論準備手続の際に本件通帳を提出し、併せてその振込額についての主張をすることは容易であったといえる。そうすると、本件新主張が時機に後れたことについてYの重過失が認められる。
 よって、本件において②が認められる。また、XはYに対して本件新主張を弁論準備手続前に提出できなかった理由の説明を求め、Yから得られた説明をもって②の立証を容易にすることができる。
⑶ ③について。「訴訟の完結を遅延させるもの」かは、その攻撃防御方法を却下した場合の最終期日と、攻撃防御方法についての審理を続行した場合に想定される最終期日から判断される(絶対的遅延概念)。
 本件新主張は最終期日になされており、これを却下すれば同期日をもって審理は終結する。一方で、本件新主張についての審理を行おうとすると、本件新主張を立証するために本件通帳についての証拠調べに加えAの証人尋問を実施することになり、改めて期日が指定されることになる。そうすると、本件新主張により「訴訟の完結を遅延させる」ことになるといえる。
 よって、本件において③が認められる。
⑷ 以上より、①~③を満たすことから、Yが最終期日に本件新主張をすれば時機に後れたものとして却下されるべきである。
2 課題2
⑴ Xの立論について。訴訟承継が認められる場合、承継人は従前の訴訟状態を引き継ぐことになる。そして、訴訟経済及び当事者間の公平という訴訟承継制度の趣旨を鑑みると、承継人は、譲渡人が行った訴訟活動や訴訟資料の提出の結果を引き継ぐだけでなく、本来すべき訴訟活動をしなかったという消極的な訴訟状態をも引き継ぐことになると解される。
 そうすると、本件においてYからZの訴訟承継が認められる結果、Yが最終期日に本件新主張をしたとすれば時機に後れたものとして却下されるという訴訟状態がZに引き継がれることになり、Zによる本件新主張も時機に後れたものとして却下されるべきである。
⑵ Zの反論について
ア 訴訟承継制度の下で、承継人が従前の訴訟状態を引き継ぐことになるのは、譲渡人による訴訟追行が承継人の代替的手続保障として認められることが前提となっている。そうすると、譲渡人が相手方当事者と馴れ合い訴訟をしていたり、適切な訴訟活動をしなかったことにより代替的手続保障として認められない場合には、承継人は特段の事情がない限り当該訴訟状態を引き継がず独自の地位に基づいて主張立証が許されると解する。
イ 本件において、Yが最終期日に本件新主張をしたとしたら時機に後れたものとして却下されるとしても、これはYが適切な訴訟活動をしなかったためにZの代替的手続保障として十分でないことを意味する。よって、上記のYの訴訟状態はXに引き継がれるものではない。
 また、Zは、本件訴訟中にYから本件建物を借り受けて紛争に関与することになった者であるほか、訴訟承継が認められてから直ちにLに訴訟委任をして本件新主張に係る事実を発見するに至っているから、上記のYの訴訟状態の作出に関与していたりZ自身が適切な訴訟活動をしなかったといった事情は認められない。
ウ 以上より、Yが最終期日に本件新主張をしたとしたら時機に後れたものとして却下されるとしても、Zによる本件新主張は認められるべきである。 以上

所感

・設問1の申立拘束原則・設問2の訴訟承継及び設問3課題1の時機に後れた攻撃防御方法のいずれも典型的な事例の処理の枠を超えず、極めてシンプルな問題との印象を抱きました。

・配点割合(設問1:設問2:設問3=40:20:40)に対して設問1の分量が少なく、(現在に至るまで)書き落とした論点があるのか不安が残ります。設問2は、訴訟承継に関する最判昭和41年3月22日の判旨をある程度詳細に覚えていたので当てはめも書きやすかったです。設問3課題1も、弁論準備手続後の攻撃防御方法の提出に対する157条の検討については要件ごとの記述内容を決めていたためスムーズでした。

・設問3課題2は考えたことがない問題でしたが、「前主の訴訟追行が馴れ合い的であるなど信義則に反する場合、承継人は独自の主張立証が許される」という旨の論証を予め準備していたので、これを応用する形で対応しました。

・(6月27日追記)実際の答案からの再現率ですが「おおよそ90%」という認識です。設問3課題1で「絶対的遅延概念」というワードを最終的に消したか消してないか覚えていない、とかそんな感じです。

・(9月11日追記)出題趣旨(民訴法は12-14頁)が出たので再現答案と比較してみましたが、大体合ってるんじゃないかなと思います

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