令和3年司法試験・民事系第2問(商法)再現答案

商法(会社法)の再現答案です。個人的には、民訴法と2トップで自信のある科目です。

本文

第1 設問1
1 まず、甲社は、本件連帯保証契約は甲社にとって「多額の借財」(会社法(以下法令名省略)362条4項2号)に該当し、Aがこれを乙社と締結するためには甲社の取締役会決議を要するところ、本件において甲社取締役会決議が行われていない以上その効力は甲社に帰属せず無効であると主張することが考えられる。かかる主張は認められるか。
⑴ まず、本件連帯保証契約が甲社にとって「多額の借財」に当たるか。
ア 362条4項の趣旨は、会社の財産状態に大きな影響を与える事項について、取締役会による慎重な判断を要求し会社の利益を図る点にある。そうすると、「多額の借財」に当たるかは、当該借財の額、その会社の総資産や経常利益に占める割合、及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断される。
イ 本件連帯保証契約により甲社は乙社に対し5000万円の保証債務を負うところ、これは資本金の50パーセント、直近事業年度の経常利益の2.5倍に該当する極めて多額の保証といえ、本件連帯保証契約の履行が甲社に与える影響は大きい。
ウ よって、本件連帯保証契約は「多額の借財」に当たる。
⑵ そうすると、Aがこれを乙社と締結するためには甲社の取締役会決議を要するが、本件において甲社取締役会の決議はなされていない。この場合、本件連帯保証契約の効力はどうなるか。
ア 代表取締役は株式会社の業務執行に関し代表権(349条4項)を有しており、取締役会の決議を欠く行為は会社の内部的意思決定を欠いているに過ぎない。そうすると、心裡留保(民法93条)に類似した状況にあるといえることから原則として当該取引は有効であり、相手方が①当該取引が取締役会専決事項であること及び②当該取引について取締役会の決議を経ていないことについて悪意又は有過失のときに限り無効となる(同条1項但書類推適用)と解され、判例も同旨である。
イ 乙社代表取締役のBは、Aへの融資に際し「連帯保証についての甲社の取締役会の議事録の写し」を要求しており、本件連帯保証契約が甲社の取締役会専決事項であることについて少なくとも認識することができたといえる(①)。
 一方で、本件連帯保証契約が甲社取締役会を経ていないことについて、乙社は善意無過失であったといえる。即ち、BはAから甲社取締役会の議事録の写しではなく、本件確認書を受け取ったに過ぎないが、Aから取締役会の議事録は金融機関以外の第三者に公開していないとの虚偽の社内規定の説明を受けたこと、Aが甲社の評判を傷つけることはしないであろうと信頼したこと、また甲社との関係性維持を図ろうとしたことからこれ以上の確認をしなかったのであり、更にAに取締役会の議事録の写しを求めなかったことにつき過失があるとはいえない。
ウ そうすると、本件において民法93条1項但書の類推適用は認められず、甲社は乙社に対し本件連帯保証契約の無効を主張できない。
⑶ したがって、上記の甲社の主張は認められない。
2 次に、甲社は、本件連帯保証契約は甲社とAとの「利益が相反する取引」(356条1項3号、以下「間接取引」)に該当する結果、Aは本件連帯保証契約を締結するにあたって甲社取締役会で同契約に関する重要な事実を開示し、その承認を得なければならないにもかかわらず、甲社取締役会でそのような開示・承認はなされていないことから、本件連帯保証契約は無効であると主張することが考えられる。かかる主張は認められるか。
⑴ まず、本件連帯保証契約は間接取引に当たるか。
ア 356条の趣旨は、類型的・定型的に会社と取締役の利害が対立し、取締役の忠実義務(355条)違反などが予想される取引について、取締役の権限濫用を防いで会社の利益を確保する点にある。そうすると、間接取引に該当するかどうかの判断は、外形的・客観的に会社の犠牲の下取締役が利益を得る行為といえるか否かにより決する。
イ 本件連帯保証契約は、Aの乙社に対する金銭消費貸借契約に基づく債務を甲社が連帯して保証する契約である。また、同契約の締結に当たり、Aから甲社に対して保証料は支払われていない。そうすると、外形的客観的にみて、甲社の一方的な犠牲の下でAが利益を受ける関係があり、甲社とAの利害対立が認められる。
ウ したがって、本件連帯保証契約は間接取引に当たる。
⑵ そうすると、Aは本件連帯保証契約を締結するにあたって甲社取締役会で同契約に関する重要な事実を開示し、その承認を得なければならないが、本件において甲社取締役会への開示・承認の手続はなされていない。この場合、本件連帯保証契約の効力はどうなるか。
ア 前述した利益相反取引規制の趣旨から、取締役会への開示・承認の手続を欠いた間接取引は私法上無効といえる。しかし、取引の安全の観点から、会社が第三者に対して同取引の無効を主張するためには、第三者が①当該取引が間接取引であること及び②当該取引について取締役会への開示・承認の手続を経ていないことについて悪意又は重過失であることを要すると解され、判例も同旨である。
イ 前述の通り、BはAからの本件確認書の提示や説明等により、Aが甲社の取締役会において本件連帯保証契約に関する重要な事実を開示し、その承認を得たと信じており、信じたことについて重過失があるとは評価できない。よって、Bは少なくとも②について悪意又は重過失とはいえない。
ウ そうすると、本件におい甲社は乙社に対し本件連帯保証契約の無効を主張できない。
⑶ したがって、上記の甲社の主張は認められない。
3 以上より、甲社は乙社からの本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行の請求を拒むことはできない。
第2 設問2
1 まずCは、本件株式の実質上の引受人はCであるため、本件株式の発行当初からCが本件株式に係る株主となると主張することが考えられる。かかる主張は認められるか。株式引受人の判断基準が問題となる。
⑴ 他人の承諾を得てその名義を用い株式を引き受けた場合、株式引受人の決定については一般私法上の法律行為の場合と同様、契約当事者として申込みをした者と解すべきであるから、名義貸与者ではなく実質上の引受人たる名義借用者がその株主になるのが原則であり、判例も同旨である。
⑵ 本件株式の株主名簿上の株主はAであったが、本件株式の発行に必要な事務手続はCの指示に基づいてなされていることや、払込金額である2000万円は全てCの貯金によって賄われていることから、Cが実質上の引受人として本件株式に係る株主になるとも思われる。
 しかしながら、CはAが「多少の株を持っておく必要がある」と告げた上で本件株式の発行に及んでいるから、名義を借りて自己を契約当事者として申込みをした場合とは異なり、Aを本件株式の株主にさせる意図で上記の手続を行っているといえる。そうすると、Cは払込等を代理したにすぎず、株主名簿上の株主であるAが本件株式に係る株主に当たる。
⑶ よって、Cの上記主張は認められない。
2 次に、Cは、仮に本件株式の発行当初の株主がAであるとしても、本件株式の発行後、本件株式に係る剰余金配当がCに振り込まれていたこと、本件株式に係る招集通知等はCの下に留まりAに送られなかったこと、本件株式に係る株主の議決権についてもCの株式に係る議決権と併せて行使されていたこと等の事情により、実質的には本件株式に係る株主の地位はCに移っていたことを主張することが考えられる。
 しかしながら、本件株式に係る株主の地位はAC間の株式譲渡契約によってのみ移転されるといえ、上記の事情は失念株等の問題としてAのCに対する不当利得返還請求の根拠になるとしてもCが本件株式に係る株主であることを基礎づける事情にはなりえない。よって、上記主張も認められない。
3 以上より、Cの請求は認められない。
第3 設問3
1 CがGを退場させたことについて
 まずAは、議長CがDの代理人であるGを退場させ、その議決権行使を認めなかったことは310条1項に違反し、本件決議には決議方法の法令違反(831条1項1号)があり取消事由が認められると主張することが考えられる。かかる主張は認められるか、議決権行使における代理人を甲社の株主に限る定款の有効性と、定款に基づきCがGを退場させたことの妥当性が問題となる。
⑴ まず、このような定款の趣旨は、株主総会が株主以外の第三者によってかく乱されることを防止し、会社の利益を保護する点にある。そして、310条は議決権の代理行使に関して一切の制限を認めない規定ではなく、上記のような合理的な理由による相当程度の制限を許容するものといえる。
 そうすると、本件において甲社の上記定款自体は310条に反さず有効といえる。
⑵ もっとも、①代理人として選任された者が株主総会に出席し議決権を行使しても株主総会がかく乱されるおそれがなく、②代理人による議決権行使を制限すれば、事実上株主の議決権行使の機会を奪うことにつながるような場合には、相当程度の制限とはいえず、定款の効力は及ばないと解するべきであり、判例も同旨である。
⑶ 本件において、Gは甲社の株主ではない弁護士であるところ、弁護士は高度な職業倫理や弁護士法等の規律が及ぶ以上株主総会をかく乱するおそれがないとも考えられる。しかしながら、弁護士によるかく乱のおそれの有無については会社が株主である場合の従業員等の場合とは異なりその判断が容易とはいえず、受付事務を混乱させ株主総会の円滑な運営を困難にさせるおそれがある。本件では甲社の受付担当者はGの出席を認め、議長により退場させられているが、このように判断の結果が分かれる可能性も否定できない。
 更に、仮にGによる議決権行使が認められなくとも、Dは本件株主総会の招集通知に同封された、本件株主総会における議決権行使等につき甲社代表取締役に委任する旨の包括委任状を用いることで、議決権行使をすることが可能であった。
⑷ そうすると、①②の要件を満たさず、本件において甲社の上記定款の効力は否定されない。よって、Cが定款に基づきGを退場させたことは310条に反さず、この点についてのAの主張は認められない。
2 CがFによる出席や本件修正議案の提出を認めたことについて
 次にAは、丙社の内規に基づけば、丙社による甲社の株式に係る議決権行使は丙社の総務担当の代表取締役専務であるE、ひいてはEから包括委任状による委任を受けたAに委ねられており、Fは甲社の株式に係る議決権行使の代理人になり得なかったのであるから、CがFを丙社代表者として出席を認め、本件修正議案の提出を受けて投票を行ったことは、代理人でない者を代理人として扱った点で決議方法の法令違反があり取消事由になると主張することが考えられる。
 この点について、後述の通り議決権行使の代理権に関する制限につき民法の意思表示に関する規定の適用が認められるものの、本件においてCは丙社の内規の存在を知らなかったのであるから、Fを代理人として扱うことが認められる。よって、上記のAの主張は認められない。
3 CがAによる投票が無効であり、Fによる投票が有効であると評価したことについて
 またAは、丙社の議決権の行使について、Cが①Aによる投票が無効であるとしたこと、②Fによる投票が有効であるとしたことについて、決議方法の法令違反があり取消事由になると主張することが考えられる。かかる主張は認められるか。①②それぞれについて以下検討する。
⑴ ①について。前述の通り、AはEから有効に丙社による甲社の株式に係る議決権行使の代理権を授与されていることから、その後Fが丙社代表者として現れても丙社の代理人として有効に議決権行使ができるとも思える。
 しかし、本件のような会社取締役に議決権行使等の包括委任を認める趣旨は、書面による議決権行使(311条)と同様、株主自身が株主総会に出席せずに議決権行使をすることを認める点にあるところ、委任状の送付により代理権授与がなされた後も株主自身やその職務代行者が株主総会に出席すれば当該代理権授与は撤回されると解する。
 そうすると、外観上丙社の代表者であるFが出席し、議決権を行使したことをもってEのAへの代理権授与は撤回されるといえ、Aによる投票は無効となる。よって、上記の点についてのAの主張は認められない。
⑵ ②について。Fは2で述べた通り丙社の内規上代理人とはなり得ず、またFは独断により本件修正議案の提出及び議決権を行使している。この場合、民法の意思表示に関する規定を適用し、Fの議決権行使は無効とならないか。
ア この点について、株主の指示は委任事務処理の内部的指図に過ぎず、その違反は委任契約上の問題を生じさせる一方議決権代理行使の効力には影響を与えず有効とも考えられる。しかし、代理人と会社が通牒して株主の指示等に反する議決権行使を行った場合にも有効とするのでは株主の意思に反することになる。
 そうすると、代理人による議決権行使についても民法の意思表示や代理に関する規定が適用されると解する。
イ 本件において、Fの議決権行使が内規に反すること・独断であることはそれぞれ心裡留保に類似する状況として、甲社が当該事情につき悪意又は重過失であれば議決権行使は無効となる。そして、Cは前者については善意であるものの後者については悪意である。
ウ よって、民法93条1項但書の類推適用により、Fによる議決権行使は無効となる。
⑶ そうすると、②の点について決議方法の法令違反があり、取消事由になる。また、Aの投票が無効であるとしても、Fの投票が無効となるのならCは出席株主の議決権の過半数の賛成を得られていないことから取締役として選任することはできず(341条)、本件における瑕疵は本件決議の結果に影響を及ぼすといえる。よって、本件において裁量棄却(831条2項)は認められない。
4 以上より、Aは上記の点を主張することにより本件決議の取消しを求めることができる。  以上

所感

・設問1は、期末試験で類似問題を解いたことがあったので安心して取り組めました(が、分析会では講師の方に「善意無過失の認定の仕方がおかしい」と指摘されました。その通りだと思います…)。

・設問2については、株式引受人に関する論点をそのまま使っていいのか、使ったとして事後的な事情をどう評価すべきなのかよく分かりませんでした。原則からの修正という形で具体的事情を取り上げたものの、判例の事案との対比をもっと強調することができたように思います。

・設問3については、偶然にも事案の基になったと考えられるアドバネクス事件(東京高判令和元年10月17日。令和元年の重判に載っていたと思います)をロースクールの授業で扱い、報告係として詳しく調べた経験がありました。実際の争点とは異なる問題設定となっているので答案に直結したかは微妙ですが、知っている事案を目にしてかなり落ち着いて解くことができたように思います。

・(6月27日追記)実際の答案からの再現率ですが「おおよそ80%」という認識です。答案構成や当てはめの記載事項はほとんどそのままですが、設問3を中心に規範の文言が雑であったように思います。

・(9月11日追記)出題趣旨(商法は9-12頁)が出たので目を通しました。設問1は概ね問題ないと思います。設問2も、株式引受人の判断基準につき判例同様の実質説を採れているので、その後の修正について「より実務的な観点からの考察」と善解されていればかなり良い点数が付いているんじゃないかと思います。問題は設問3で、出題趣旨は

設問3においては、Aとしては、➀他の株主1名を代理人としてその議決権を行使することができる旨の定款の規定(…)に基づいてDの代理人である弁護士Gによる議決権の行使が認められなかったこと、②丙社の内規に従って包括委任状が提出されていたにもかかわらず、内規によって権限が制限されているFによる議決権の行使が認められ、包括委任状に基づくAの議決権行使が認められなかったことが、それぞれ決議の方法が法令に違反する場合(…)に該当すると主張することが考えられる。

としています(11頁)。そして、➀では本件定款規定と310条の関係、②では内規による代表権の制限が第三者との関係で有効かを349条5項を踏まえて論じることを検討の中心としているようです。また、Fの代理権濫用についても検討の余地があると出題趣旨は述べています(私が心裡留保とか書いちゃっているところですね)。上記の説明には概ね納得できるものの、②について「Aの議決権行使が認められなかったこと」の掘り下げが出題趣旨上載っていないことが気になりました。
 仮に349条5項により内規の記載にかかわらず第三者との関係でFが代表権を有すると解しても、Fが議決権行使可能な状況で、なお代表権を有するEから包括委任状を受けたAが議決権行使することはできるのかについては別途検討が必要になるように思われます。例えば、本件の状況を「法人の代表者が第三者に議決権行使の代理権を授与していたが当日代表者が直接株主総会に出席し議決権行使をした場合」と解した上で、かかる場合は株主本人が代理権を授与したが結局自分で出席・議決権行使した場合や事前に株主が書面による議決権行使をした上で株主本人あるいはその代理人が出席・議決権行使した場合と同様と捉え、このような場合には代表者の出席等をもって第三者への代理権授与が撤回されると解するならば、本件においてFが出席したことをもってAの議決権行使が認められないとすることは適法といえます。設問3の事案の基になったアドバネクス事件は書面による議決権行使と職務代行者の出席の関係性が争点となっており、本問においても当該争点が上記のように形を変えて問題になっていると考えていたので、出題趣旨で全く触れられていないのは少々意外でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?