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ドーベルマン・ジャイ子 その1

「今日はペッパーに会いに来る人がいるから、
いい子でね」
少し緊張した顔で、アンティが言った。

”ワタシ、いつもいい子だけどなぁ”

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仔犬の時に連れてこられたお家には赤ちゃんがいて、
パパはワタシに
「俺がいない間、ワイフとベイビーを頼んだよ」
って言ったの。
お仕事から帰ってくるとパパはいつも、
「いい子にしてたかい?俺の家族を守ってくれてたかい?」
と言いながら、ワタシの頭を撫でてくれた。
ワタシはそれがとても嬉しくて、
尻尾をブンブン振りながら、
”もちろんよ、パパ!
明日も2人のことを守るからね!”って伝えた。

赤ちゃんが大きくなって、
舌足らずな言葉でワタシに指図が出来るころ、
大きなバッグを持ってパパが出かけた。
そして、夜になっても帰ってこなくなって、
小さな女の子がママに「ダディはどこ?」って
泣くことが多くなったの。
”パパ、どこに行ったの?
ワタシ、何か悪いことした?”
”ワタシ、もっといい子になるね。
もっと頑張って、ママと女の子のことを
守るからね!”
パパに聞こえるように、
お星さまに向かって鳴いた。
そうすると、「うるさい!」って、
おじいさんがワタシを怒るの。
おじいさんはパパのお父さんで、
パパたちと同じお家に住んでいた。
どんなにおじいさんに怒られても、
叩かれても、ワタシは夜になると
遠いところにいるパパに聞こえるように、
大きな声で鳴いた。

そんなある日、懐かしい匂いと声がした。
「ただいま。いい子にしてたかい?
ペッパー、大きくなったね」
”パパが帰ってきた!
パパ、パパ、どこに行ってたの?心配したよ。
ママも女の子も元気よ!
ワタシ、パパに言われたとおり、
2人のことを朝も夜も守ってたのよ!
ワタシ、いい子でしょ?”
いけないと言われてたけど、
パパに飛びついて、尻尾をブンブン振ってパパに話した。
久しぶりにワタシの頭を
撫でてくれたパパの手は、前よりも
少しゴツゴツしてた。

それから数日間パパは家にいて、
お庭を綺麗にしたり、車を洗ったり、
ワタシとボールで遊んでくれたりした。
その合間に時間を見つけては毎日、
トレーニングもしていた。
パパが帰ってきてくれたから、
ワタシは夜、鳴かなくなった。
パパがお家にいてくれるから、
ワタシも安心して眠れるようになった。

そしてまた、パパがお家に帰って来なくなった。
ある日、ママがフェンス越しに
隣のオジサンにこう言うのが聞こえたの。
「ペッパーを引き取ってもらえないかしら」
隣のオジサンの家には大きな犬が2匹いたので、
オジサンはすぐには返事をしなかった。
「ペッパーはドーベルマンだから、
ミリタリーの住宅敷地内では飼えないのよ。
この子、性格は臆病でいい子なんだけど、
何しろ顔つきが可愛くないし。
犬種も独特だから、もらい手が
簡単に見つかるとも思えないし。
他に手立てがないなら、
保健所に連れていくしかないんだけど・・・」

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