忘備録 助成金

1. 助成金の特徴

1-1. 「補助金」との違い

  • 助成金

    • 一定の要件・条件を満たせば、基本的に申請すれば支給される可能性が高い制度。

    • 審査そのものはあるが、比較的要件に合致しているかどうかが判断基準となり、主観的な採択・不採択よりも「要件を満たしているか」を重視。

    • 雇用・人材育成・福祉分野などで多く用いられている。

  • 補助金

    • 国や自治体が推進したい政策に応じて募集し、採択審査(コンペ形式)によって交付対象が決まる制度。

    • 採択件数や予算枠が設定されているため、必ずしも申請すれば支給されるわけではない

    • 研究開発や設備投資など、幅広い政策分野で利用される。

1-2. 助成金の一般的なメリット

  • 要件を満たせば受給できる可能性が高い

    • 企業規模や雇用形態が合致し、必要な提出書類を整えていれば、不採択になるリスクが比較的低い。

  • 返済不要

    • 使いみちが助成金の目的に沿っていれば、基本的には返済を求められない。

  • 雇用や人材育成、福祉などで大きな支援を受けられる

    • 社会保険料負担や賃金の一部負担など、企業にとってコスト削減につながるケースが多い。

1-3. 一方での注意点

  • 手続きが煩雑

    • 申請前・申請時・受給後と、複数のステップで書類提出が求められることが多い。

  • 厳格な要件をクリアする必要がある

    • 雇用関係助成金であれば、雇用保険加入や労働時間管理、労働条件通知書の整備など、労働法令順守が必須。

  • 不正受給に厳しいペナルティ

    • 助成金は公的資金のため、不正や虚偽が判明した場合は返還を求められるだけでなく、事業者名の公表や今後の申請制限など厳しい処分が下ることもある。


2. 主な助成金の種類と事例

2-1. 雇用関係助成金(厚生労働省管轄)

(1) 雇用調整助成金

  • 概要

    • 経済上の理由などにより事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、「休業」「教育訓練」「出向」などを行い、従業員を解雇せずに雇用を維持した場合に助成される制度。

    • 休業手当や賃金など、企業が負担した一部を国が補填する。

  • 代表的な活用事例

    • コロナ禍で利用客が激減した旅館・ホテルが従業員を休業扱いとし、休業手当を支払う際に同助成金を活用。

    • 経営悪化時に解雇を回避し、人材を確保したまま経営再建をめざすケースが多い。

(2) キャリアアップ助成金

  • 概要

    • 有期契約社員やパートタイマー、派遣労働者など非正規社員の「正社員化」「処遇改善」などを行った企業に対して助成する制度。

    • 支給額は正社員転換の人数や、転換後の賃金上昇率などで変動する。

  • 代表的な活用事例

    • 長年働くパートタイマーを正社員に登用し、賃金や福利厚生を改善。

    • 従業員のモチベーション向上や組織力アップにより離職率を低減。

(3) 人材開発支援助成金(旧:建設雇用改善助成金など)

  • 概要

    • 企業が従業員に職業訓練を実施し、スキルアップを図る際にかかった経費や賃金を補助。

    • 経営革新や業務効率化、社員の資格取得支援など、人材育成施策に活用できる。

  • 代表的な活用事例

    • 製造現場で新しい生産技術を導入するにあたり、社内研修や外部セミナー受講費の一部を助成金でカバー。

    • ITスキルの習得や資格取得を促すため、教育研修プログラムを整備。

(4) 高年齢者雇用安定法関連助成金

  • 概要

    • 高年齢者(65歳以上)の雇用継続や定年引上げなど、高齢者が働きやすい職場づくりを支援。

  • 代表的な活用事例

    • 65歳以上も継続雇用する制度設計を行い、就業規則を改正。

    • 高年齢者にも対応可能な作業環境改善(機器導入や負荷軽減措置など)。

2-2. 教育・文化・芸術分野の助成金

(1) 文化庁関連助成

  • 概要

    • 舞台芸術や伝統文化の保存・振興、国際文化交流などに対する助成事業。

    • 芸術団体が公演を行う際の会場費や渡航費、舞台装置費などを一部支援するものなどがある。

  • 活用事例

    • 地域の伝統芸能団体が後継者育成のためのワークショップを企画し、その実施費を助成金でカバー。

    • 国内外でのアートフェスティバル出演にかかる旅費・運搬費を一部補填し、団体の芸術活動を活性化。

2-3. 自治体独自の助成金

  • 概要

    • 地方自治体が地域課題に特化した助成制度を設けている例も多い(起業支援、子育て支援、商店街活性化など)。

    • 例:空き家活用や地域商店街の魅力向上に向けたリノベーション助成など。

  • 活用事例

    • 商店街活性化のため、シャッター商店を借りて新規出店する際の初期改装費を助成。

    • 地域の空き家・空き店舗を活用した起業家に対して家賃補助や改修補助を行う制度など。


3. 助成金の申請から受給までの流れ

  1. 情報収集

    • 厚生労働省の「助成金のご案内」サイト、労働局、ハローワーク、地方自治体のHPなどで最新の募集情報をチェック。

    • 雇用・労務関係は社会保険労務士、創業や事業拡大系は中小企業診断士や行政書士など専門家に相談するのも有効。

  2. 要件確認・計画策定

    • 受給資格や、満たすべき要件(雇用保険加入状況、就業規則整備、労働条件通知書の交付など)を確認。

    • 必要書類・証憑(給与台帳、出勤簿、労働条件通知書、就業規則など)の整備を行う。

  3. 申請手続き・書類提出

    • 各助成金の申請様式に沿って書類を作成し、所轄の労働局やハローワーク、もしくは自治体に提出。

    • 書類不備が多いと、申請不受理や審査に時間がかかる場合がある。

  4. 審査・認定

    • 所轄機関が書類をチェックし、要件適合性を審査。

    • 必要に応じて追加書類やヒアリングを求められる場合あり。

  5. 実施・報告(事後報告)

    • 助成金交付が決定すれば、計画通りに事業・雇用施策を実施。

    • 実施後、賃金の支払い実績や研修実績などを証明する書類をそろえて実績報告。

  6. 助成金の支給

    • 最終的に審査を通過し認定されれば、助成金が交付(振込)される。

    • 受給後も必要に応じて一定期間は書類の保管・報告義務が課される場合もある。


4. 助成金申請のポイント・注意点

  1. 労務管理や就業規則の整備

    • 雇用関係助成金の多くは、従業員が雇用保険に適正に加入していること、労働条件通知書を交付していること、就業規則が整備されていることなどが必要条件。

    • 労務管理が不十分だと不支給になるリスクが高いため、社労士のサポートを受ける企業も多い。

  2. 事前申請が原則

    • 例えば「雇用調整助成金」で休業を実施する場合、事前に計画届を提出する必要がある(特例措置で事後提出が可能な場合もあるが、期限や条件に注意)。

    • 事後に「もうやってしまったので助成金を出してください」は認められない場合が多い。

  3. 受給額は“後払い”が基本

    • 助成金は原則的に「いったん企業が支払った経費や賃金の一部を後から補填する」形。

    • 一時的に資金のやりくりが必要となるため、キャッシュフローを意識した計画が重要。

  4. 複数の助成金を同時に利用できる場合もある

    • ただし、同じ支出を重複して助成金・補助金で受ける“二重取り”は認められない。

    • 人件費を別の制度で重複支援していないか、設備投資費用などの使いみちが重複していないかを要確認。

  5. 年度途中や時限的な特例措置に注意

    • コロナ禍などの社会情勢変化や政策的理由で特例が出される場合がある(例:雇用調整助成金の特例措置)。

    • 制度内容・要件が頻繁に変わるため、最新情報の確認が必須。

  6. 不正受給に対する厳格化

    • 近年は助成金・補助金の不正受給が社会問題化し、審査・監査が厳しくなっている。

    • 虚偽報告や水増し請求、書類改ざんなどが発覚すると助成金の返還だけでなく、企業名公表や将来の申請制限など重いペナルティが科される可能性が高い。

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