ベランダにて

くすんだ顔色をして荒れた指先で煙草をつまみ紫色の唇に運ぶ。風に揺られた髪の先が焦げた。冷えた身体のあちこちが震え出す。この身体を慈しむ事が出来るのは自分自身しかいないのだと知っていても蔑ろにするのをやめられずにいる。むしろ、傷付く程に安寧を感じるのだ。それは私という存在に寄り添い慈しむ者がひとりもいない事に対する当て付けのようなものかもしれない。誰も触れない指先などいくら冷えようとも構わない、と。虚空を通過する風は歪に姿を変え、冷える春に髪を焦がしていくのだった。