カムバック・レモンサワー


日付が変わる頃。その日のバイトで処理をミスして売れなくなった物をこっそり買いに行った。オーナーに知られる前に無かった事にしておきたかったのだ。
「あぁまた失敗したの。ハァ、本当に出来が悪いね。」内なるオーナーの声が聞こえるようだ。「君ねぇ、転職したいって言うけどそんな事も出来ないようじゃどの職場でもやっていけないよ。」気が滅入る。「すみません。はい、承知しております。ご迷惑をお掛けしまして申し訳御座いませんでした。再度手順を確認し、今後同じ間違いを繰り返さないよう気を付けて参ります。確認を怠りません。手首も切ります。これでいいですか。すみません」
ついでに缶のレモンサワーを買った。帰りの登り坂を歩きながら、行きに乗ってきたチャリを駐車場に置き忘れてきた事に気付く。たまらずレモンサワーを開封した。よく冷える日だ。指先が冷えて痛む。辺りの排気ガスも街灯の光も氷漬けになったかのように留まっていた。ただ眩しくて臭い。歩いて飲むほどに炭酸が胃を圧迫する。電光掲示板によると8℃だそうだ。ヴィンテージのてろてろしたシャツなんか着て。寒すぎるちくしょう。ふと上を見ると、銀色の丸い月があった。綺麗だ。綺麗ですね。ちくしょう。添い遂げる事が叶わなかった元カノを思い出して死ねば良いと思った。ちくしょう、でも月が綺麗だ。しかしなんか既視感があると思ったら、これは。今や空っぽのレモンサワーの缶を上から見た図だ。