疼痛

渦はその中心に様々な色を湛え、しばしば心を内側から引き裂いた。生肉を抉るような湿った暴力性を秘めたそれを私は恋と名付けた。渦は気づいた時には存在しており、その人にだけ反応した。
その人は過去になり、鈍い色をした渦は今では密度を保ったままで小さくなって底に埋もれている。削られ荒れた心の内壁は卵と牛乳と小麦粉と砂糖で埋めた。時たま降りてくる記憶の針が渦を釣り上げる度に心は散り散りのパンケーキで汚れ、渦は針が刺さった部分から霧散してまた沈んでいく。私は、徐々に渦が小さくなり、淀んでいくのに気付いている。消す事も守る事も出来ないまま、針が二度と来ないよう願っている。