inu

inu is dog.

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能動的三分間

ヤカンの蓋がカタカタと踊り出し、ピーピーと泣き出したのを聞きまして、私は急いでガスコンロの火を止め、カップヌードルにお湯を注ぎました。調理工程は素早く、迅速に、が料理の基本でありますから、勢いをつけて流し込んだ大変熱いお湯が、ぴしゃぴしゃと服や腕に飛び散ったのでした。 さて、突然ですが私はカップヌードルが大の好物であります。特に日清の醤油味は幾度となく戴いた事があり、類似する即席麺の中でも、群を抜いて味が良い、と太鼓判を押すに吝かではございません。調理工程はひどく簡単であり

    • 「マンホールを踏むと恋愛運が下がる」

      昔はかなり熱心に見ていた朝の占いも、いつの間にか興味が無くなった。 夜に爪を切ると親の死に目に会えない。みたいな迷信もいつの間にか忘れ、むしろ生活リズム上、今では夜にしか爪を切ってないほどである。 そんな可愛げのない大人になってしまったものの、マンホールだけは未だに踏まないよう、無意識の内に避けている。 これは、下水が逆流してマンホールが跳ね上がる事故を見たとか、マンホールの蓋が外れて人が落ちる映像を見たとか、そんな真っ当な理由ではない。 小学校の図書室に置いてあった

      • 老婆心

        ぴりぴりと張り詰めた空間に時計の針がカチカチと鳴っていました。眼前に広げたカードは2枚。片一方のカードにはハートのA。もう一方は、両手を挙げた道化のピエロ。所謂、婆が、へらへらと媚び諂った様子でこちらを見ておりました。 カードの向こうには気難しい顔をして、私の2枚のカードを背面越しに慎重に吟味している男がおり、ちらちらとカードを取る仕草を見せては、同時に私の表情を伺ってきて、なんとか婆を引かぬまいとしていたのです。 隣には、既にゲームを上がった2名が、勝負の結末を見届けようと

        • 冷たい男

          ぎらぎらと照りつける太陽から逃げるように入った喫茶店で、ずるずると、氷がたっぷり入ったコーラを、一息に飲み干したのでした。 案内された座席は、使い古された深く沈む一人掛けの革張りのソファで、右側には外の様 子が好く見える小窓が付いている一等席でした。 好く冷やされた店内で体内に溜まった熱を逃がしてやる内に、暑さでぼやぼやとしていた視界は次第に晴れ、力が入らなかった手足の筋肉がやる気を見せ始め、狂ったように頓珍漢な幻覚を見せてきた脳は冷静を取り戻し、いよいよ全身の身体機能が、正

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          深夜の蚊戦争

          深夜、私の健やかなる睡眠を妨げた、その正体は1匹の蚊でした。そいつは騒々しいほどの高音を発しながら、私の耳元に近づいては遠ざかり、遠ざかっては近づいてを、延々と繰り返しておりました。始めは、夢現に音を聞き流していたのですが、徐々に私の顔の周りを滞空する時間が長いように感じられてきて、そうなったが最後、完全に意識を覚醒させた私は、音に耳をそばだてて、暗闇で蚊の所在を把握することに努めたのです。遂に、暗闇の中、右に左に飛び回るそいつの音が、私の右耳辺りで消息し、研ぎ澄まされた私の

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          カレーライス大論争

          カレーライスにはセロリが入っている事が、我が家の絶対的規則でありました。まさか一般的なカレーライスの具材として挙げられるラインナップの中に、セロリが入っていない事など、当時の私は知らないものですから、給食の時間に、学校で出された、セロリの入っていないカレーライスに不満を持ち、そのことを学友に話すと、皆こぞって、セロリの入っているカレーライスの存在を面白がるのです。初めのうちこそ、私はそれを口にしなければよかった、と後悔するのですが、どうやら学友の話を聞いていると、どの家にも三

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          巨象との邂逅

          突然、猛烈に「象」を見たくなった衝動に駆られた私は、9つ離れた駅にある、小さな動物園へ向かう事にしました。動物園など、幼稚園の遠足で訪れた以来の場所ですから、所持品は何を持って行くのが適切であるのか頭を悩ませ、あれもこれも必要になってくるのでは無いか、と要らぬ心配が不安を煽りましたが、結果的に「象」を見に行くのに爪切りやハサミは必要ないと判断し、1,000円札を1枚のみ、ジーンズのポケットにぐしゃぐしゃと押し込み、各停電車に乗り込みました。 平日の昼間という事もあってか、車

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          威厳ある迷子のスイカ

          茹だるような暑さの中、私は無性にアイスクリームが食べたくなり、約2週間ぶりに外に出たのでした。外に出ると、太陽がギラギラとアスファルトの地面を照り付けており、この夏初めての陽炎を見ました。しかし、夏の風物詩を酔狂がる余裕は今の私になく、頸に溜まった汗を拭いながら足早にコンビニエンスストアに向かいました。 しばらく歩いていると、遠方の道の真ん中に、何やら黒っぽい影がうごめていているのを見ました。夏の暑さに項垂れたカラスが駄々でも捏ねているのかと思いながら興味半分で近づいてみる

          威厳ある迷子のスイカ

          透明で不透明な身体

          どなたか。私の身体をお見かけした方はいらっしゃいませぬか?困った事に、今朝布団で目を覚ましてからと言うもの、どうにも身体が欠如しているのです。いえ、感覚的な喩え話ではございません。視力が著しく低下してしまったとか、歩いた時の感覚が無いとか、そう言った訳でもありません。ご覧の通り、(と言っても貴方から私は見えていないかもしれませんが)私自身は視力も良好ですし、地を踏み締めている感覚は寧ろ以前よりも強く感じる程です。ただ問題は、全身が物理的に欠如してしまっている、という事なのです

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          見覚えのない痣

          寝ぼけ眼を擦りながらトイレに向かう途中、ゴツンと通路の壁に腕をぶつけた時、ちょっとした痛みを感じて、ふと見てみると、右腕の肘の辺りに500円玉程度の大きな痣ができている事に気が付きました。今ぶつけた時に直ぐに痣が出来る訳もなく、極度な引き篭り癖がある私としましては、そのような痣が出来てしまうような行いをした覚えは毛程もなく、分かりやすいように頭を悩ませ、不思議がっておりました。初めのうちは、ああ、知らない間に何処かにぶつけたんだろうなあ、程度に思っていたのですが、思慮に思慮を

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          カルピス盆

          原液4に水が6。これは私の割り方でした。 原液5に牛乳が5。これは弟の割り方でした。 原液3に炭酸水が7。これは姉の割り方でした。 原液1に麦茶が9。これは母の割り方でした。 母子家庭で育った私たち兄弟の、唯一の贅沢品が”カルピス”でした。深夜帯のスーパーマーケットで、ごく稀に割引されているカルピスの原液を、母が購入してくれたのを見ては、私たち兄弟は飛び上がって喜んだものでした。しかしカルピスの戴き方は、母も含めてそれぞれで異なり、それぞれが自分の飲み方に誇りを持って

          カルピス盆

          正しい信号の渡り方

          赤信号は止まるべきであり、青信号は進んでも良い、と言う社会的に普遍的な事実、は一体どなたが規則付けなさったんだろうなあ、と思いながら、私は本日も、律儀な小市民を演じるのでありました。信号の規則は幼稚園児、人に拠ってはもっと幼き頃から「周りの大人」に拠ってその普遍的事実を、脳に、体に刷り込まれる訳でありますが、現実、街を見渡せば多くの小市民的歩行者は規則を最も簡単に破ってしまわれるのです。こちらは由々しき事態であります。 本日、私は大きな作戦を実行すべく、この場所へ参りました

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          100円均一での出来事

          貧乏ったらしいと言われますが、私は100円均一という処が非常に好きなのであります。家にある(可能な範囲の)家具や日用品は全て100円均一で揃えたのは勿論のこと、修学旅行の自由行動で独り向かった先も、長年想い続けてきた女性との初めてのデートも、あらゆる場面で、100円均一を選択するほどには100円均一愛があり、私の唯一他人に誇れる点であると自負しております。 私は日がな一日中、近所の100円均一で過ごしており、(こちらは自慢となってしまうのですが、)その100円均一に関して言

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          オフトゥン軟禁事件

          日頃、起床を急強いてくる目覚まし時計が、本日は庭の瓢箪の如く大人しくしておりました。ああ、今日もやってしまったんだなあ、と、ふと時計を確かめると、実に起床予定時刻の1時間も前に、独でに目が覚めていた事実に気が付いたのでした。ふと窓の外を見ると、白いレースカーテンの向こうから薄らと、青々とした空が広がり、陽光を受けた雲が切れ切れに飛んでいるのが見えました。早朝だというのに、窓越しに蝉時雨が降っており、懸命で美事な昆虫だと、怠惰な私は、依然として布団の中から嘆じていたのです。

          オフトゥン軟禁事件

          冬の蝉

          その日は十数年に一度の大雪の日だったそうです。私は死に場所を求め、雪が降り頻る深夜の街を、当ても無く彷徨い歩いておりました。これから死する予定であるというにも関わらず、厚手のソックスに長靴、ニットのセーターに、モンクレールのダウンをしっかりと着込み、挙げ句の果てに手袋までしているというお粗末ぶりでした。足元には既に雪が10センチほど積もっておりました。 大雪のため人の姿は無く、眼前に広がる白い世界は自分だけのために存在しているようでした。ぶらぶらと彷徨っていると20メートル

          冬の蝉

          ブチネコとの6秒間

          20時に目が覚めた私は、無駄にしてしまった1日への悪あがきをすべく、散歩に出かけました。実に、20時間睡眠でした。 既に日の落ちて暗くなった本日の天気などは知りようもありませんが、薄らと地面が濡れている所と、雨季の夜に相応しい程に不愉快に纏わり付いてくる湿度から見るに、昼過ぎ頃までは雨が降っていたのでしょう。水捌けのよい公園のベンチでは大学生と思われる男女数人が酒を持ち寄り、煙草を呑んでおりました。以前煙草の煙が家の中に入り込んで、しばらくの間匂いが残ってしまった経験がある

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