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アコヤガイ大量死の原因は新種ウイルス!今すぐできる対策と現状を解説

「アコヤガイが大量死する原因は何?」
「アコヤガイの大量死をなんとか食い止めたい……今すぐできる対策方法はないの?」

このような悩みを抱えていませんか?

自然の恵みから生み出される産業において、当事者である漁業・養殖業を営む方だけでは解決できない問題が実際に存在します。
そのため、国・都道府県・研究機関・生産者が連携して、日本の恵まれた自然を生かした地域基幹産業を守っていく必要があります。

問題解決には行政や研究機関の対策実行はもちろん、対策課程での情報共有が欠かせません。

そこで今回は

  • アコヤガイ大量死の原因

  • アコヤガイ大量死への対策方法

以上の2点について解説します。
現時点で判明している情報を把握し、アコヤガイ大量死問題について解決の見通しをつけましょう。

アコヤガイ大量死の現状

アコヤガイ大量死は、2019年以降、愛媛県・三重県を中心に発生しました。
大量死を境にアコヤガイ生産量・販売量は半減、被害額は愛媛県宇和島市・愛南町で約3億円にも上ります。

さらに、2023年5月25日にも愛媛県愛南町において、海水や同年春に海に入れた稚貝からウイルスの遺伝子が確認されました。
大量死はまだ確認されていないものの、アコヤガイ大量死の被害について未だ根本的改善には至っていません。

真珠の希少価値は上昇している

アコヤガイ大量死問題は解決していませんが、真珠の販売額はアコヤガイ(母貝)生産量ほど落ち込んでいません。

新型コロナの影響により海外商談会が2年間中止され、TASAKIやミキモトなどの商社、世界の富裕層が真珠を買いたくても手に入らない状況だからです。

真珠を作れば売れる環境下にあることから、真珠の希少価値は上昇しています。

アコヤガイ大量死の原因は新種ウイルス

アコヤガイ大量死の原因は、ビルナウイルス科の新種ウイルスです。
2022年に国立研究開発法人水産研究・教育機構と愛媛県農林水産研究所水産研究センターがアコヤガイ大量死の原因ウイルスを特定しました。

新種ウイルスは貝類だけでなく、鳥類・魚類・昆虫類・軟体動物からも発見されています。
感染した稚貝は、軟体部(身)に萎縮が見られるのが特徴です。
新種ウイルスの大きさは約0.06ミクロン、髪の毛の太さ1,000分の1程度。
原因のウイルスと特定されたことで、海水や貝からPCR検査でウイルスの検出が可能になりました。

アコヤガイが大量死した2019年当初は原因が解明されず、温暖化による海水温上昇や毒物などさまざまな推測がありました。
原因ウイルスが特定されたことで、大量死発生時に健康な貝を病原体のいない海域に移動させるなどの対策が取れるメリットがあります。

アコヤガイ大量死への対策方法

アコヤガイ大量死の原因は新種ウイルスと理解したところで、ここからは対策方法についてご紹介します。
対策方法は、根本的対策と今すぐ実行できる具体的対策の2つです。

  • ウイルスに強い貝を作る

  • シリコン養殖かご・避難漁場を活用する

それぞれ詳しく解説します。

ウイルスに強い貝を作る

結論として、大量死への根本的な対策はウイルスに強い貝を作るしかありません。

新型コロナウイルスにおいて、人間はワクチン接種により体内に抗体を作成し発症を防いできました。
家畜や養殖の魚の場合も、人間同様の対策が可能です。
しかし、アコヤガイには抗体がないため、ワクチンが効きません。
アコヤガイのような二枚貝には、抗原抗体反応という防御機能がないからです。
ウイルスに強い貝を作るには感染しても死ににくい貝を見つけて何度も交配させ、耐性の強い貝を作るしか方法はないのです。

ただ、実現には長い年月がかかることが予想されます。
過去にも、赤変病によるアコヤガイ大量死が発生したことがありました。
愛媛県水産研究センターによると、赤変病に強い貝を作るのに10〜20年かかったとのことです。
このようにウイルスに強い貝を作るには時間がかかるため、短期的にできる別の対策も同時に進めていく必要があります。

シリコン養殖かご・避難漁場を活用する

今すぐ実行できる具体的対策は、シリコン養殖かご・避難漁場です。
それぞれ詳しくみていきましょう。

シリコン養殖かご
アコヤガイ養殖は、養殖かごを海中に長期間吊るすため、かごの掃除・交換が欠かせません。
しかし、この作業はアコヤガイに大きなストレスを与えてしまいます。

かごの掃除・交換作業を最小限に済ませるには、シリコン養殖かごがおすすめです。
シリコン養殖かごとは、シリコンの防汚処理をほどこしたものです。
水をはじいて汚れをつけにくいシリコンの特徴を活かし、アコヤガイへのストレスを軽減させましょう。

避難漁場
避難漁場は貝が死にやすい時期に、通常の漁場と異なる漁場で稚貝を育てる実証実験です。
事前にPCR検査を実施して、ウイルスが検出されていない海域を選んで養殖場所を移動させます。
新型コロナウイルスの密を避ける考えと同様に、貝が多く集まる場所では被害が大きくなる傾向にあるからです。
結果的に、避難漁場で育てた稚貝は異常死の割合が低く、成長も良くなっているとのことです。

ただし、ウイルスに強い貝が開発されるまでの緊急的な対策としては有効ですが、あくまで時間稼ぎです。
避難漁場は通常の漁場から離れた場所にあるため、作業場との行き来には時間・労力・費用がかかります。
貝を大きく育てるためには海藻や汚れがつかないよう、定期的なお手入れが必要不可欠です。
天候が悪ければ船を出すこともできず、潮の流れが速いところに移動させていると台風が来たときに漁場が壊れる恐れもあります。
そのため、従来の通常漁場と避難漁場の両立は困難を極めるでしょう。


ウイルスに感染して死に至る貝もあれば、復活して通常の貝のように元気になる場合もあります。
そのため、詳細な仕組みが完全に解明されているわけではありません。
今後、異常死の予兆などの情報を適切な方法・タイミングで、研究機関・行政が生産者に提供できるかが重要です。

まとめ

アコヤガイ大量死は真珠生産に携わる多くの方に深刻な影響を与えています。
原因は新種ウイルスであると特定されたものの、根本的な対策はウイルスに強い貝を作るしか方法はありません。
しかし、強い貝を作るには、10〜20年という長い年月がかかる恐れがあります。

また、真珠養殖業は養殖業者の高齢化が進んでおり、後継者不足が問題となっています。
アコヤガイ大量死により収入が激減する状況が改善しなければ、廃業する方さえ増えてくるでしょう。

真珠は鉱山を掘る宝石とは異なり、自然を傷つけないサスティナブル(持続可能な)宝飾品として中国や欧米などで再注目されています。
北海道・三重県・愛媛県などの地域の基幹産業であるため、貝類の養殖は必ず次世代へつないでいかなければなりません。
産業を残すためには国などによるウイルス対策・生産者支援が求められ、一刻も早い根本的対策の実現が望まれます。


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