遺言無効確認の訴え(最判昭56.9.11民集35-6-1013)の固有必要的共同訴訟該当性と共同訴訟参加


 本判決はこの論点について、「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件遺言無効確認の訴が固有必要的共同訴訟にあたらないとした原審の判断は、正当として是認することができる」とするのみである。そこで、同判決第一審をみると、「被告らは遺言無効確認の訴は相続人全員が当事者となるべき必要的共同訴訟であると主張するが、確認訴訟として許容せらるべき遺言無効確認の訴は、その実質が相続財産に対する相手方の権利の全部又は一部の不存在の主張であること及び相続財産に対する共同所有関係は合有ではなく共有と解すべきであることに鑑みれば、遺言無効確認の訴を、当事者以外の者にまで判決の効力を及ぼすべき特種の訴と解さなければならない法的根拠に乏しいものといわなければならない…。即ち遺言無効確認の訴は通常の確認訴訟であつて、固有又は類似の必要的共同訴訟と解すべきものではない」としている。

 第一審は、遺言無効確認訴訟一般において、通常の確認訴訟(通常共同訴訟)と読むことのできる判示をしている。しかし、最高裁判決が、「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて」と述べていることからすれば、第一審のように一般的な判示と解することはできず、事例判断にすぎない。

 すなわち、同判決の事案は、遺言の内容が、相続分の指定または遺贈もしくは特定財産承継であり、遺言が無効とすることは、相続財産につき持分権の確認または所有権の不存在確認となるため、共有者間における共有持分権の確認が通常共同訴訟とする判例(最判昭40.5.27判時413-58)または所有権不存在確認に類似するため、「当事者以外の者にまで判決の効力を及ぼすべき特種の訴と解さなければならない法的根拠に乏しい」ということができたにとどまる。
 そのため、たとえば遺言が推定相続人の廃除(民法893条)を内容とする場合[1]、その遺言の無効確認は、廃除されるとされた推定相続人と共有関係にあることの確認の訴えということができ、共有権の内容に関わるため、共有権の帰属している共有者全員が当事者となる必要がある固有必要的共同訴訟となる余地があるというべきである。たとえば、東京高判平18.10.25判タ1234号159頁(東京高判平15.3.12も同旨)がある。すなわち、「本件遺言は,前記のとおり,相続関係につき法的効果を生じさせる事項としては,特定の不動産を特定の相続人に相続させることを内容とするものであり,遺産分割の方法の指定を内容とする遺言である。そうすると,本件遺言の無効確認を求める訴えは,被控訴人が本件遺言に基づいては特定の不動産を取得しないとして,当該不動産に係る被控訴人の所有権の不存在確認を求める訴えに類似したものと解されるので,本件の事実関係のもとでは,固有必要的共同訴訟に当たら」ない。

 発展的な内容として、遺言無効確認訴訟に、当事者となっていない相続人が共同訴訟参加することができるかが争われた事案がいくつかある。共同訴訟参加をするには、「合一確定の必要」が要件とされており、固有必要的共同訴訟において当事者となるべき者が欠けている場合または類似必要的共同訴訟において後発的に当事者となる場合がこれに当たるとされている。
 遺言無効確認が類似必要的共同訴訟であることを否定しない裁判例は2つある(東京地判平30.2.26文献番号 2018WLJPCA02268021、東京地裁平23.11.7文献番号 2011WLJPCA11078001)。前者は、類似必要的共同訴訟であると明言し、後者は留保的に述べるにとどまる。しかし、前者も、「遺言無効確認の訴えは,類似必要的共同訴訟であると解される」と述べるのみで理由を付していない。その上で、本件は遺言無効確認訴訟の原告がその相続分を他の相続人に全部譲渡した事案であったため、当事者適格を否定して、共同訴訟参加を認めなかった。すなわち、「共同訴訟参加が認められるためには,それが補助参加と異なり,原告又は被告の共同訴訟人として訴訟に参加するものである以上,参加人が相手方との関係で当事者適格を有することが必要であるというべきである。…遺産の分割方法を定めた遺言が無効である場合には,別に遺言があるような場合でない限り,共同相続人が法定相続分に応じて遺産を共有するものとして(民法898条),共同相続人において遺産分割審判の手続等において遺産に属する財産につきその分割を求めることになるのであるから,上記の遺言が無効であるかどうかは,遺産分割の前提問題であるというべきである。しかるに,共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分をすべて失うことになり,遺産分割審判の手続等において遺産に属する財産につきその分割を求めることはできないのであるから,遺産分割の前提として,遺産の分割方法を定めた遺言が無効であるかどうかを確定すべき必要性はない。そうすると,共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,遺言無効確認の訴えの当事者適格を有しないものと解するのが相当である」。

 また、遺言無効確認訴訟は必要的共同訴訟にあたらないとしつつ、共同訴訟参加を認めたものがある(東京地判平29.1.13文献番号2017WLJPCA01138022)。すなわち、「一般に,遺言無効確認の訴えは,特段の事情がない限り,必要的共同訴訟ではないと解するのが相当であって(最高裁昭和54年(オ)第1208号同56年9月11日第二小法廷判決・民集35巻6号1013頁参照),全ての相続人,受遺者及び遺言執行者を当事者としなければ提起することができないというものではない。しかしながら、遺言無効確認の訴えにおいて確認の利益が認められるのは,当事者間の紛争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによって確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされるからであって(最高裁昭和43年(オ)第627号同47年2月15日第三小法廷判決・民集26巻1号30頁),そうだとするならば,相続人,受遺者及び遺言執行者のうち遺言無効確認の訴えの当事者又はその訴訟に当事者として参加しようとする者については,その目的が合一に確定されなければ,前記のような確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされるとはいい難い。そうすると,遺言執行者が遺言無効確認の訴えに係る訴訟に当事者として参加しようとする場合には,その目的を合一にのみ確定すべきであって,遺言執行者は,遺言無効確認の訴えに係る訴訟に共同訴訟参加することができるものと解するのが相当である」。

 この裁判例の理解は分かれるように思われるが、まず遺言無効確認訴訟一般の論点として、「特段の事情のない限り」必要的共同訴訟でないとしていることから、本件ではこの特段の事情に当たるとして、既判力の拡張による既判力の矛盾抵触に限られない意味での合一確定の必要性を認めて、類似必要的共同訴訟とした上で、共同訴訟参加を認めたものと解することができる。しかし、その説示は、遺言無効確認訴訟における訴えの利益を認める一般論に依拠しているため、これに従うなら、遺言無効確認訴訟はむしろ原則として必要的共同訴訟と理解されることとなる。そのため、「特段の事情」という一般の用語法に従う限り、必要的共同訴訟に当たらないことを認めた上で、レイヤーの異なる意味での「合一確定の必要性」から共同訴訟参加を認めたものと解される。この場合、類似必要的共同訴訟の成立を、既判力の拡張による同一人への矛盾する既判力が生じることの防止という伝統的な基準にかからしめたために、遺言無効確認訴訟は類似必要的共同訴訟に当たらないとした上で、既判力の拡張はなくとも、「遺言無効確認訴訟の紛争解決機能」という意味での合一確定の必要性を認めたものとなる。

 このように、遺言無効確認訴訟の実際は、理論的根拠ではなく、遺産確認訴訟や相続人不存在確認訴訟が固有必要的共同訴訟であることと対比して、相続人間における紛争解決手段としての柔軟かつ迅速な実効的紛争解決手段としての側面が強く反映されている訴訟類型であるといえる。そのため、遺言の確認が何であれ、これを固有必要的共同訴訟と解されない、と結論づけられる場合も十分にあると思う。しかしやはり、理論的基礎なくその訴訟形態を決定づけることの問題意識については共有すべきであろう。



[1] 実際には、推定相続人の廃除は家庭裁判所によってなされるため、別個の民事訴訟を提起する必要があることはほぼないと考えられる。

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