巨匠宮崎市定さんの名著「科挙」グッとくるナイスブックだった。

アジア史界の巨匠宮崎市定さんの名著「科挙」グッとくるナイスブックだった。
貴族や官僚の家での世襲制が当たり前であった官吏登用を公平な学力試験でおこないましょう、というのが最初にあった思想だそうでそれ自体はとても素晴らしい。しかもそれが始まったのが随の時代の587年。イギリスやアメリカが官吏登用に公式に試験制度を導入したのが1800年代後半なのを考えるとすごい。その後は欧米の学習制度の利点が世界的に席巻し、清朝の1904年に科挙は終結したとのことである。
科挙も現代の受験のように、科挙を受けるための試験、の受験資格を得るための試験、のための準備をする学校に入るための試験、と前倒しにかぎりがない。
この本ではその辺りを詳しく解説されているのでグッとくる。
まず科挙に到る前段階の試験、学校試というのがあり、それが県試、府試、院試、歳試と4段階ある。もちろん勝ち抜き形式で、3つの試験を勝ち抜いてはじめて歳試まで到達することができる。そしていわゆる科挙の部分は、科試、郷試、挙人覆試、会試、会試覆試、殿試、etc...とそれぞれが2泊3日ぐらいでおこなわれるそうだ。内容はアラウンド四書五経が多く、丸暗記から意見を述べよ、的なものまでさまざま。
中でもメインは郷試で、この本でもこの郷試の受験者に関わる悲喜こもごものドラマにかなりのページがさかれ、事実上科挙というのはこの郷試のことなのかなという印象である。
誰でも受験することができる公平に開かれた試験システムであることに間違いはないのだが、やはり試験を受けるにはかなりの費用がかかり、実際試験を受けることができるのは、貴族や財閥や豪農の家の者に限られていたそうで、その点では公平というわけではない。
だが、反面教師的意味も含め、欧米や日本の試験制度に多大な影響を与えたのだろうことをうかがい知ることができる力作である。

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