新型コロナワクチンは先進国に有利か?

はじめに

先日、4月16日の2021年の新型コロナ国別ランキングを投稿した。この時に、ワクチンの接種状況を追加した。ワクチンに関しては、先進国が独占して、途上国に行き渡らないなどの批判がある。前回の投稿では以下のことを指摘した。

1。EU諸国では多くの国が22から26%の接種率になっている。

2。15カ国で1000万以上の接種が行われた。

3。イスラエル、UAE、チリ、イギリス、アメリカが接種率が50%以上になっている。特にイスラエルは100%を超えている。接種率が100%を超える国はいくつかあるが、イスラエルを除くと人口10万人以下の小国である。

4。ワクチン接種数または接種率が高いからといって、感染が減少しているわけではない。チリなど感染数が増えているところも多い。

5。感染数が多い国では、ワクチン接種が始まっている。前回は「10万を超える国では、エチオピアを除いてワクチン接種が始まっている」と書いたが、投稿後、エチオピアでは4月8日からワクチン接種が始まっていたと判明したので、今は感染数10万以上の国で、ワクチン接種が始まっていない国はゼロになった。ワクチン接種の始まっていない国で、感染数最大の国はキューバで、感染数は7万9千あまりである。

以上のことから、「2021年の感染数が多い国は、ワクチンの接種数が多い」と仮説を立てた。一般的に先進国は感染数が多い。それゆえ、上の仮説が正しければ、先進国がワクチン接種が多いと結論づけることができる。つまり、先進国がワクチンを独占しているのではなく、感染状況の特にひどい国からワクチンを供給していったら、必然的に先進国にワクチンが集中してしまった、と言うことができる。

ここでは先進国を2021年4月16日時点でG20に属している国とする。ヨーロッパの多くの国は単独ではなくEUとしてG20に属しているが、ここでは、EUのメンバーも全てG20に属しているものとして取り扱う。したがって、G20には45ヶ国が属する事になる。

新型コロナ統計は Worldometer のもの(https://www.worldometers.info/coronavirus/)を用いる。Worldometer によれば世界には235の国・地域がある。しかし、プエルトリコなど5つのアメリカ領についてはその新型コロナ統計を全てアメリカの統計に含めているので、単独の国・地域としては扱わない。しかし、イギリスやフランスなどの海外県は単独で新型コロナ統計をまとめているので、これらについては単独の国・地域として扱う。

ワクチン接種状況は GitHub のもの(https://github.com/owid/covid-19-data/tree/master/public/data/vaccinations)を用いる。GitHub には Worldometer に記されていない国・地域が出てくる。ガーンジー島、ジャージー島はイギリスの海外領土なので、単独の国地域として扱う。またコソボの新型コロナ統計は Worldometer には反映されていないようなので、コソボも単独の国として扱う。合計234の国と地域についての考察になる

使用データは、アメリカ時間の4月16日午後10時の Github および Worldometer のものを用いた。

1。G20でワクチン接種のほぼ90%を占める。

G20メンバー国の総接種数は7億8千万を超える。全世界の総接種数は8億8千万強なので、全ワクチンの89%はG20メンバー国で接種され、残りの11%が189の国・地域で分配されているわけである。下のグラフで、青い部分がG20での接種数、緑の部分がG20以外の国での接種数である。

接種感染

これを見ると確かにG20メンバー国が独占的にワクチンを摂取しているように思えるかもしれない。一方世界の2021年の感染の80%がG20諸国で発生している。感染数が多ければ感染リスクも高まるので、ちょっと多めではあるかもしれないが、感染リスクの高いところに集中してワクチンを分配していると考えられる。


2。2021年の感染数が多い国ほど多くのワクチンを接種している。

まず最初の仮説、「2021年の感染数が多い国は、ワクチンの接種数が多い」を検証する。次のグラフは2021年感染数を横軸に、ワクチン接種数を縦軸にとったグラフである。

画像1


R2=0.515なので、感染数と接種数には決して低くはない正の相関がある。つまり、感染数が高ければ、接種数も高いと言っても差し支えない。

次に、世界の国々を2021年の感染数が、0、1から999、1000から9999、というようにクラス分けした時の接種状況を考察する。下の表は、各クラス毎に、接種数0の国、摂取率1%未満の国、10万未満の国、摂取率20%以上の国がどのくらいあるかを表したものである。

画像2

2021年感染数が100万以上の国は12ヶ国ある。全てG20メンバーである。このクラスでは全ての国で、すでに100万件以上のワクチン接種を終えている。アメリカとインドは1000万件以上の接種を終えている。インド、ロシア、アルゼンチン以外でワクチン接種率が20%以上である。インドは人口が多すぎるため、アルゼンチンは接種を本格的に開始したのが2月と遅いために、接種率が高くないのであろう。ロシアはワクチンの供給が不足していると思われる。このクラスの平均接種率は20%弱である。

接種率は単純に接種数を人口で割ったものである。2回接種したものは別々に数えているので、実際に接種を受けた人の割合はこの値よりも低くなる。

感染数が10万以上100万未満の国は31ヶ国ある。60%に当たる19ヶ国がG20メンバーである。このクラスでは全ての国で接種が始まっていり、接種数が100万以上も23ヶ国、1000万以上もメキシコ、インドネシア、チリ、イスラエルと4ヶ国もある。接種率20%以上の国も19ヶ国あり、イスラエルは100%を超えている。UAEも98%、チリが68%にもなり、アメリカやイギリスよりも高い。この三国はいずれも G20メンバーではない。一方、接種率1%未満の国が、イラン、南アフリカ、イラク、パキスタン、ベラルーシ、エチオピアの6ヶ国ある。南アフリカ以外はG20メンバーではない。このクラスの平均接種率は7.2%と、感染数100万人以上の国のクラスと比べるとかなり低い。

感染数が1万以上10万未満の国は59ヶ国ある。そのうち11ヶ国がG20メンバーである。ワクチン接種が始まっていない国が、キューバ、リビア、マイヨット、マダガスカル、コンゴ民主共和国の5ヶ国ある。さらに、接種が始まったものの接種率1%未満の国が17ヶ国ある。接種数が10万以上の国は38あるが、100万以上の国は13にとどまる。ナイジェリア、モロッコ、ネパール、ミャンマーなどG20メンバーでない国でも100万件以上のワクチン接種の実績がある。
接種率20%以上の国は11ヶ国しかないが、モルジブ、マルタ、カタール、バーレーンの接種率が40%を超える、マルタ以外はG20メンバーではない。このクラスの平均接種率はわずか3.4%である。

感染数が1000以上1万未満の国は64ヶ国ある。G20メンバーは中国とオーストラリアの二国だけである。ワクチン接種が始まっていない国が21ヶ国、接種が始まっているが接種率1%未満の国が16ヶ国ある。接種数が10万以上の国は12しかない、100万以上の国はオーストラリア、シンガポール、香港、中国、カンボジアの5ヶ国のみである。接種率20%以上の国は11ヶ国ある。そのうち二国は100%超え、6ヶ国は40%超えである。シンガポールを除いて、いずれも、人口が30万人に満たない小国である。中国は接種数が1億を超えるが、接種率では13%である。このクラスの平均接種率は9.5%と意外に高いが、中国の接種数が大きいことが影響している。中国をのぞけば、平均接種率は1.3%と非常に小さくなる。

感染数が1以上1000未満の国は35ヶ国ある。ワクチン接種が始まっていない国が14ヶ国ある。接種率1%未満の国が3ヶ国ある。接種数が10万以上の国もモーリシャス、ニュージーランド、ブータン、ラオスの4ヶ国しかなく、いずれのG20メンバーではない。接種率が20%以上の国はリヒテンシュタイン、アイスランド、ブータン、ケイマン諸島、ドミニカ国、フェロー諸島、フォークランド諸島、セントクリストファー・ネイビス、アンギラ、モンセラートと10ヶ国あるがいずれも小国ばかりである。

2020年からの累計感染数は0ではないが、2021年感染数が0の国は、タンザニア、バチカン、西サハラ、マーシャル諸島の4ヶ国あった。いずれの国もワクチン接種を開始していない。また、2020年から引き続いて感染数が0の国地域が15ある。この中では、ガーンジー、ジャージー、セントヘレナ、ナウル、パラオ、トンガ、コソボの7ヶ国でワクチン接種が始まっている。パラオ以外はイギリス領である(あった)ところなので、アストラゼネカのワクチンを中心に接種されている。接種数10万を超える国はないが、イギリスの海外領土では人口も少ないために、接種率が本国同様60%を超える。

各クラスの接種数0または摂取率1%未満の国の数は下のグラフのようになる。

ワクチン jk-4:16 接種数-1a

このグラフを割合で表示すると、次のようになる。

ワクチン jk-4:16 接種数-1b

感染数が少ないクラスほど接種数や率の低い国の割合が多くなる。以上のことから、感染数が多い国はG20メンバーが多く、ワクチン接種数も多い。人口が多すぎなければ、また接種実施期間が短くなければ摂取率も高い、と言えそうである。逆に、感染数が少ない国では、G20メンバーは少なく、ワクチン接種が始まっていない国も多い。また、このような国では、接種数が多くないのに接種率が高いところも多い。これは人口が少ないことを示しており、単に人口が少ないのでワクチン接種も少なくて済むと言えそうである。ワクチンを先進国に多く配分している言い方は正しくない可能性がある。


3。G20メンバーは感染数が多い。

G20メンバーに限定すれば、2021年感染数が100万以上が12ヶ国、10万以上100万未満が19、1万以上10万未満が11、1000以上1万未満が2、1000未満が1となっている。世界全体と比べれば、感染大国の数が多いと言える。G20メンバーの感染数の平均は100万件で、中央値は約29万件(ベルギー)である。全ての国のクラス分布は下のグラフのようになる。

画像5

しかしG20に限定すると各クラスの分布は下のようになる。

画像6

G20は一般に比べて感染数の高い国が多い。


4。G20メンバーは接種数接種率が高い。

次のグラフはG20メンバー45ヶ国のワクチン接種数である。

ワクチン jk-G20 接種数

アメリカ、中国、インドが接種数1億を超えている。45カ国の平均値は約1740万件であるが、これはアメリカ、中国、インドが群を抜いて高いから実態を表していない。この3国抜きでの平均は650万件になるがこれも高すぎる。中央値は約243万件(チェコ)になる。接種数10万未満が11、10万以上100万未満が21あり、合わせて32とG20メンバーの中の70%以上を占める。世界全体では、10万以上の接種をした国が

ワクチン接種率のグラフは以下のようになる。

ワクチン jk-G20 接種率

接種率20%以上の国が29ヶ国と過半数を超える。接種率1%未満は南アフリカの1国のみである。G20で接種率の高いところは、アメリカ、イギリス、マルタで、60%以上になっている。次いで、ハンガリーが45%以上と高い。接種数では2、3番目の中国インドでも、接種率となると10%前後と低くなる。トルコも含めたヨーロッパ勢の多くが20から30%の接種率であるが、中南米は10から20%、アジア太平洋地域は10%未満のところが多い。日本の接種率は1.47%で、下から2番目に低い。一番低いところは南アフリカの0.49%である。接種率の平均は22%、中央値は23.28%(スロバキア)である。


5。G20でも感染数と接種数に正の相関がある

次のグラフはG20の2021年感染数を横軸に、ワクチン接種数を縦軸に取ったグラフである。

ワクチン jk-G20 相関

R2=0.4649なので、やはり感染数と接種数には決して低くはない正の相関がある。つまり、感染数が高ければ、接種数も高いと言っても差し支えない。ワクチン接種数と感染数との相関をEUに限定すれば、R2=0.8035と非常に強い正の相関がある。

ワクチン jk-EU 接種数

従って、EU諸国では感染の規模に比例したワクチンの配分がなされていると考えられる。それゆえ、COVAXプログラムで供給されるワクチンもその国の感染の規模によって分配されている可能性がある。

接種率が極端に高い国はジブラルタル、セーシェルなど人口が少ないか、あるいは、イスラエル、UAE、チリなどG20メンバーではない国ばかりであった。これらの国では中国製やロシア製のワクチンを使っているところが多い。G20の計画とは関係なくワクチン接種を進めていると考えられる。



6。終わりに

おそらくG20では、感染状況のよりひどい国から優先的にワクチンを配布しようとしている。特にEU内ではその傾向が強い。感染状況のひどい国は先進国が多いので、必然的に先進国はワクチンを独占している、ように見えているだけである。

ワクチン接種が始まった国のスケジュールを見れば、医療従事者化や優先的に接種をしている。これは、医療従事者が最も感染のリスクが高いからである。一方、感染数が多い国ほど感染リスクが高まるのは当たり前のことである。この観点からすれば、感染者の多い国から優先的にワクチンを供給することは理にかなっている。

しかしG20メンバーではあるがOECDメンバーではない中国とロシアがG20の思惑を無視して、世界に中国製ロシア製ワクチンを供給している。また、イギリスはアストラゼネカ製ワクチンの成功を受けて、おそらくCOVAXプログラムを通し、世界各国にアストラゼネカ製ワクチン供給している。ただし、旧イギリス領にはより多く配分しているのは間違いない。


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