夢の話

この間見た夢。

私は知らない場所に立っていた。
たぶん外国。絶対国産ではない、コバルトブルーの空。白い壁のちまっとしたお家。木製の物干し竿にかかった洗濯物。埃っぽくて暑い風。でも湿気はないので、じわじわと汗をかくことはない。
夢の中の私は、憧れの歌手、YUKIそっくりなボブになっていた。着ているのは、長袖で襟元が詰まった白のワンピース。膝丈のスカートが熱風ではためいていた。生地が素晴らしいのか、着ていて暑苦しいだとか、そういった不快感は全くない。そのかわり、むきだしのほっぺたは日焼けをして真っ赤に火照っていた。少し、ちりちりと痛む。

私の後ろに男の人が立っている。全身白のコーディネート。シャツもズボンもゆったりしている。ファンタジーの世界の人が、こういう格好をしている。間違いない。『十二国記』の景麒さんとか、絶対着ていそうだもの。

私はその男の人を知っている。知っているから、男の人というより、「男子」と呼びたくなる。3年前、同じ会社で働いていた、ひとつ年下のかわいい後輩だ。

「結婚して、私仕事辞めるんだ」
私が退職を表明してから、彼とは急速に仲良くなった。仕事の愚痴も、当時の彼氏(現・旦那様)への不満も聞いてもらった。それだけでなく、趣味の読書の話もたくさんした。

彼とはきっと、趣味や嗜好が似ていたのだろう。すすめられて読んだ小説は、今も売っぱらうことなく、家の本棚の「お気に入り書籍」のコーナーに鎮座している。
「絶対好きになるって!」と言われたチョコミントは、商品が現れると必ず購入するようになった。以前は、「歯磨きしながらチョコ食べてるみたい。無理無理無理」と、嫌悪に近い苦手だったのに。今や大好きなフレーバー。
そういえば、車でかけるアーティストも一緒だったっけ。煙草くさくて狭い車の中。「私煙草のにおいダメなんだって。禁煙しなよ禁煙!」と文句を言った後に、ヘビロテの曲が流れてきたのを覚えている。そういえばその後、彼は禁煙を成功させていた。私の為だったのかは、謎だ。

青い空と埃っぽい風の中、私と彼は立っている。
熱風で目が痛い。別に睨むつもりはないのに、険しい表情になってしまう。そうか、これコンタクトレンズはめてるんだ。異物感と痛みはその為か。

彼は静かに私を見つめている。何も言わない。ちょっとほほえんでいるようにも見える。人当たりのいい顔してるもんな。一重の目元がまた優しげで、彼のファンはたくさんいた。私は彼が、たまにかけているメタルフレームのメガネ姿が好きだった。まわりの評判はいまいちだったらしいけど、私だけは「あんたのメガネ姿推すよ!」と言っていた。少し、ぴりっとした感じになるのがたまらなかった。

そっか。私、こいつのこと大好きになってたんだ。
彼も入社以来、私に憧れてくれていたらしい。いつもおちゃらけていた上司からの話だから、どこまであてになるか分からないけれど。

ねえ、今どこで何してんのかな?
まだ同じところで働いてるの?
そうだ、映画館で働きたいって言ってたじゃん。映画好きだったもんね。その夢の転職は果たせた?まだかな?もたもたしてらんないよー、あんたも三十路一年目になるんでしょ?

夢から覚めれば、聞きたいことは山とあるのに。何にも言わないで見つめあってんだもん。

しかし、こういう特別な人と結婚できないなんて、不思議なもんよね。
でも、こうやっていつまでも、何となく忘れられないで胸をちりちり痛めてる方がロマンチックなのかも。一生片思い。
いつかまたどこかで会えたらな。
あ、やっぱ現実では会いたくないかも。
いつかまた、夢で会えたら。

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