日記「生体エフェクター」

私の右耳は今、期間限定生体エフェクターになっている。

気づいたのはコンビニだった。飲み物を取ってレジに向かおうとすると、BGMが何か変だな、と思った。壊れたオルゴールみたいな不協和音が混じっている。何となく飲み物の棚の方を向くとクリアな音に戻った。レジを向くとまた歪む。身体の向きを変えると、つまりどちらの耳を向けるかにより聴こえ方が変わる。なぜか。多分、治りかけの中耳炎だからだ。炎症起き始めは頭が内側から串刺しにされてるみたいな痛みが地味に辛いし、膿が溜まっているうちはモヤモヤするし聴こえないしイヤフォンもできないのでダルい。膿が減って聴こえるようになったのは嬉しいが、歪んだ音をうっかり拾って注意を向けてしまうと中々不快なものだ。

でも。帰宅後、THE NOVEMBERSの新譜を再生しながら何となく画面に右耳を向けみると…… 楽しい!!! THE NOVEMBERSの音楽が、少なくとも『The Novembers』は歪みと相性が良い気がする。そもそも歪みが多いし。中耳炎の耳を通しても時々は不協和音も聴こえるけれどそんなに違和感がない。少々歪ませすぎたけど狙った範囲内、みたいな感じだ。しかも一曲目の「BOY」には“亡霊”が出てくる。歪んだ右耳からの音と左耳からのクリアな音が重なると、小林さんの高音が木霊みたいになってる。ぴったりだ。色んな曲で試してみると、ハイテンポで疾走感のある曲の方がハマるし、スローテンポの静かな曲だとイマイチだった。歌詞のことばや内容で言うと、亡霊、届かなかった、虚構、皮肉、みたいなものと相性が良いなと思った(BOY, Game, November, James Deanとか)。でも、合う合わないは置いておいても何だか楽しい。多分、ライブハウスで音割れしちゃってる時の感覚に似ているからかもしれない。夏のTYNTとのツーマンを思い出した。曲の輪郭を保ててないんだけどそれはどうでもよくて、彼らのエネルギーの爆発そのものに高揚していた。

とか思って頭を左右に傾けながら遊んでいたらアルバムが終わっていて、右耳がむず痒いし少し疲れていた。面白いけど治療中の身体で遊ぶもんじゃない。でも明日か明後日には消えるだろうと思うともう少し…と試して、気づいたらアルバムもう一周していた。ごめんなさいノーベンバーズ。治ったらちゃんと意図されたクリアな音で存分に楽しむんだ。今度はイヤフォンでも。

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