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たった一つの小さなメロンパンで

左の窓の向こう側を確認する。最近は天気もいい。綺麗な水色みたいな青空で、今年の冬は冬が喜んでいる。

月曜日になった。私はおとといに散歩して出会った美味しいパン屋のパンを焼く。はちみつ入りの全粒粉で、バターを付けなくても十分美味しい。

今日が始まって、もう夜がいい。

そんな感情はとっくに通り過ぎた。もうたった一つの小さなメロンパンで沁みるような感動を味わうこともなくなっていた。グレーがかった世界が、私にしか分からない世界だけで鮮やかさを取り戻し、取り戻した以上に私は私を取り戻している。未来の私さえも引っ張り戻して、今の私には未来まで貼り付いて今を生きている。動いている。歩いている。裸足で足裏で何を踏んでいるかしっかりと認識しながら歩くことができている。

今という瞬間を、その瞬間の連続を、朝から夜までずっと生きていて、何もしていないといえば、何もしてないし、何もできていないといえば何もできていないのかもしれない。何もかもを失ったといえば何もかも失った。失わされたといえば失わされて、傷ついたといえばめちゃくちゃ傷ついた。だからといって、私は私を失ってはないなかったし、失わさせていなかった。

私という人間の中で流れている時間に存在している日常の全てがなくなった私は、私だけの私になった。

その事実がかえって、私を私にさせてくれた。

小さな声であなただけに言いたい。

「私には翼が生えたよ」


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