【読書】常設展示室 原田マハ~優しい美術たち

本書は美術を題材にした、さまざまに悩む人々の生活に入り込む作品が印象的な、小説短編集である。

さっそく感想、推しポイントを挙げようと思う。

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ひとつめ 「群青」

ニューヨークのメトロポリタン美術館で念願かなって働く美青に訪れる不幸。それを優しく包み込むラスト。ピカソの群青が包む。

優雅さにニューヨークの競争を含んだ美術館で、少女がふたり、静かに青に包まれ呼吸を合わせる。芸術の価値に切り込む一作。

美術館はやはり特別だ。そして多くの人が惹かれ、さまざまに関わる。そんな関係もわかる。常設展示室に来ませんか?

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ふたつめ 「デルフトの眺望」

世界を飛び回る姉と、うだつのあがらない弟が父のために奔走していく話。

医療福祉を勉強したものとしては心苦しい描写もあったが、それに怒った姉に弟も背中を押され、幸いな結末へと向かう。

美術の仕事いっぽんだった姉が、幼い頃に父がきっかけで出会った少女によって、家族へとすこし向かうようになる話。

悲しくもいい話ですよ。

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みっつめ 「マドンナ」

二つ目が老齢の紳士の話で、身につまされたのだが、みっつめは明るいスマートフォンの話ではじまる。しかし、すこし休憩してから読んでよかった。こちらもヒヤヒヤする。

マドンナという作品名ではないが、主人公にとってのマドンナが随所に出てくる。そして、それは心づかう老齢の母にも重なる。

心温まる話だが、ヒヤリとさせられた。しかし、きっとうまくいく。そんな余韻を残して「マドンナ」は終わる。

僕も父が手術するかもしれないので、心配でいれなくなったら、美術館でも行ってみようか。

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よっつめ 「薔薇色の人生」

いやはや、面白い裏切られ方をした。これは秘密。恋の描写がよかった。

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いつつめ 「豪奢」アンリ・マティス

豪奢であるとは・・・若くして凄まじい財力に見初められた女性の、その時の結論。いちばん浮世離れしたストーリーだったが、主人公が帰途につくころには、夜の空気に爽やかさを覚えるような、そんな帰り道の気持ちが重なった。

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ラスト 「道」

栄華を極める時代のアイコンになった女性の目に留まったものは「道」の絵。大賞の選考に残った作品群のなかで、画用紙をつらねた「道」の絵は主人公翠をとらえた。記憶は過去に飛ぶ。そしてひとつひとつが絵を結んでいく。ラストは悲哀もあるけれど、優しい、「道」に降り注ぐ日光のような感動で、ぼくを包んだ。

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「絵」は商業に組み込まれているが、やはり、ひとつひとつが大切にされ、人の心を動かし、多くの贈り物をくれる。

そんな息遣いの感じられる一作だった。

本とは別の話だが、

障害者にアートを教えるワーカー達にデッサンを習っている。
ワーカー達はまだ20代だが、それぞれが信じる「道」を歩みながら、

障害を個性として形にすることを促したり、
気持ちの良さを描かせたり、ツラさを吐き出させたり。

ギャラリーに息を吹き込んで、そして、おのおのの戦いをしている。

障碍者側もそのステージによって、安息を得たり、卒業して仕事したり、疲れた夕方にふらっと来てコーヒーを飲んだりする。(コーヒーは200円だったかな?)

さまざまなアートでそのギャラリーはいっぱいである。
ワーカーたちのトライは始まったばかり。

末永く通いたい気もするが、ワーカー達も変わりゆき、メンバーも変わる。

ぼくもそのメンバーの一人。

アートは時に残酷でもあるが、そのギャラリーはすべてを包むような街の中にある。

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