6.創造的思考力を伸ばすためにー鴨川の飛び石ー
飛び石とは?
万葉集第七巻1283に、柿本人麻呂による歌が収められている。
はしたての倉橋川の石の橋はも
男盛りに 我が渡りてし石の橋はも
歌の意味は、「倉橋川の石の橋はどうなったでしょう。私が若いときに、渡るように置いておいた、あの石の橋はどうなったでしょう。」である。
人麻呂が懐かしんだ「石の橋」は、恋しい人を訪ねて対岸へ渡るために置いた「飛び石」のことである。
奈良時代には、川を渡るために利用した飛び石を石の橋と呼んでいたので、飛び石は橋の起源といっても差しつかえない。人麻呂が置いた飛び石は自然石であったと考えられる。
水平思考と垂直思考
創造的思考力を伸ばすために、水平思考(展開)と垂直思考(展開)について考えてみよう。
水平展開とは、対象とする技術や知識などを他の分野や領域に適用することである。一方、垂直展開とは、対象とする技術や知識などを深めて進化させることである。
人麻呂が置いた飛び石は自然石であったと考えられる。これを人工石に置き換える程度では、水平展開の域を出ない。
しかし、飛び石を基台として、板状の石や丸太を上に置いてつなぐことを創造すると、これは垂直展開である。飛び石は、橋脚となり、橋脚の上に橋桁を乗せると立派な桁橋となる。
京都鴨川の飛び石たち
しかし、水平展開をバカにしてはいけない。比較的容易に創造できて効果の大きいことがある。現在でも、飛び石は多くの河川で見ることができる。
例えば、京都市内を南北に流れる鴨川であるが、賀茂大橋付近で賀茂川と高野川が合流して鴨川となる。
三つの川には多くの著名な橋が架けられている。この三川合流点の付近には飛び石も多く設置されている。残念なことに名前はないが。
現在、使用できる飛び石で一番北にあるのは賀茂川の北山大橋の下流で、上流に向かって尖った三角形ブロックが一列に設置されている。途中には、すれ違いのためか菱形ブロックと三角形ブロックも配置されている。
一方、高野川の高野橋の下流には、上流を向いた亀と長方形の飛び石が一列に設置されている。列から離れた3匹の亀は、川面の景色にアクセントを添えている。子供達の水遊び用か。
賀茂大橋の上流側で高野川と賀茂川の合流点の手前に、上流を向いた亀と千鳥と長方形のブロックが一列に設置されている。下流側に千鳥が点々と配され、多くの人が集まり、親水の場として賑わっている。
鴨川に入ると荒神橋の上流に、両岸を向いた亀形と長方形のブロックが一から二列に設置されている。この列から離れて上流を向いた3匹の亀は、高野川の亀と同じ形であるが、異なった景色を作り出している。
最下流に位置するのは二条大橋上流に、両岸を向いた千鳥と長方形のブロックで、一から二列で設置されている。この列から離れて上流をめざす4隻の小舟は、動の中に静を感じさせる。
飛び石の新たな役割り
なぜ、加茂川と高野川が合流して鴨川となる付近で、多くの飛び石が設置されているのか?疑問が出てきたら、早々に調査を開始して多くの情報をかき集める。情報収集することで、飛び石の新たな役割が見えてくる。
京都府京都土木事務所によると、6カ所の飛び石が設置されたのは1992年(平成4年)ごろと比較的新しく、河川を管理する京都府土木課が設置したものでコンクリート製である。
飛び石は川床の安定を図る目的で作られ、正式名は横断構造物(帯工)と呼ばれ、水位が低い時だけ人が渡ることができるという二次的な役割を果たすとしている。
飛び石の役割りは、人が川を渡ることは二次的であり、川床の安定化を主としている。飛び石の横展開による新たな役割の出現である。
京都市を南北に走る賀茂川、高野川、鴨川には、帯工と呼ばれる飛び石のほかに、より多くの落差工も設置されていた。
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