総じて芒野は墓場になりけり

世界から赤を搾り取って隔離されたような空間だった。
起伏のある丘が並び、短い植物を赤々と夕日が染め上げる。
研究所は東の丘の上にぽつんと建っている、しかし、景色と同じように緋になり、研究所はまるでどこにもないように感じられた。
もしくは、この景色すべてが研究所だったのかもしれない。

ここは何も変わらないなと隣の男は言う。
我々を外から運んだ車も、光に照らされて、赤く馴染んでいる。

「久しぶりでいいのかナ」
赤い髪の女性が室内で我々を待っていた。
射貫くような瞳の横には皴一つ見えない。美しい容姿だが近寄りがたい。
赤には、警告の意味もあると、なぜか頭の中で浮かんだ。
どうだ、と隣の男は言う。
逃げた視線の先の男はだぶついた瞼を覗かせて女を見ている。

「ぜーんぶ成功だヨ、あんたたちの出してきた検証依頼もナ。知ってて聞くなんて趣味が悪いネ」
仕事において確認は重要だ。言質を取らせることもだ。
「そりゃ悪いネ。契約も投げっぱなしの助手なもんでサ。でもだいぶいいダロウ?このハリツヤサ。いくつに見える?死んだ双子がいるなんて見えないダロ」
「ああでも完全な比較対象にはならんのだヨナ……。あーつめ、子供なんて産んだらその分老化が早まるンだからヤメロと」

風が室内に吹いた。窓は全部開け放たれているのに、外の赤が室内に一切侵入していない。オークのタンス、活けられた花と花瓶、少し年季の入ったカーテン。リアルが室内を支配している、一層不気味に感じれた。
女はぶつぶつと小言を言うために頭を抱えて腰を曲げている。赤の長髪が体にかかり、美しき艶は濡れたようにも見え、それは全身に血を被ったように紅く見えた。
ふと、妻の出産を立ち会った時の、赤子を見た時の記憶が過る。

「……どうでもいいという顔を向けるな。計画全体のフローは別の部屋にある。後で見つけといてくレ。」
「そんなことより、他にやるべきことがあるダロ?」


私は、銃口を女に向けていた。

「そうだ。こういうことが”おかしい”って言われる世界のうちに、サ……」


窓際から、緋が室内に垂れ始めた。


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