短歌的実験(6)

短歌的実験(6)

肌の服のままで闇夜を彷徨えばボッティチェッリの波音を聴く
石に滲む薔薇色の指が走りだす死人の口にコインを入れれば
だれよりも深く関わりあうひとの脂色(やにいろ)の肌に帆を張っている

*可能性とは、すでに過ぎてしまったことを後ろ向きに見直すことによって形成されるだけのものなのである。だがそれは、流れる時間を、流れた後で、空洞化して捉えているにすぎない。
洲から洲へでき得ることを振り返るレジ袋がまた風を娶って
心臓のおと蝋燭の燃えるおと手弱女(たおやめ)が爪を切るおと、足音
養鶏場の一羽が見える羽根のまま服を着たまま啄んでいる
金網のなか白い目でうずくまり花にも似ないで妹は鳴く
妹は金網の外か内なのか、卵を産まずに水ばかり飲む
白くて小さい者らは帰港して紫陽花のような眸を並べる
死場所を探して街を彷徨えばからだは菊のにおいを放つ

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