M&A契約(吸収合併契約)の審査(1)
はじめに
法務初心者向けに、「(取締役会設置会社である)株式会社と株式会社」の「吸収合併」を念頭に、吸収合併契約書の審査の審査ポイントをまとめる。
吸収合併契約とは
吸収合併契約とは、合併により消滅する会社(消滅会社)の権利義務の全部を合併後存続する会社(存続会社)に承継させる吸収合併(会社法2条27号)を行うために、当事者間で締結される契約のことである。
合併をする会社は、合併契約を締結しなければならない(会社法748条)。
印紙税は、合併契約書1通につき4万円である(印紙税法2条・別表第一の5号)。
取締役会設置会社の場合、合併契約の締結は、会社法362条4項柱書における「重要な業務執行の決定」に該当するため、取締役会の決議を経たうえで、会社の代表取締役が締結することとなる。
合併契約の締結のタイミングについては、明文の規定はないものの、事前備置書類として開示しなければならない合併契約書は当事会社間において締結済みの契約でなければならないと解されていることから、合併契約は、事前開示書類の備置開始前までに締結されなければならない。
存続会社・消滅会社の両方に重要な事項
吸収合併契約の審査では、以下の点が重要となる。
会社法が定める「必要的記載事項」の充足
株主総会による吸収合併契約の承認
まず、吸収合併契約における審査では、会社法749条に規定されている必要的記載事項を満たしているかがポイントとなる。
仮に、必要的記載事項が欠いていた場合には、その契約は法定の要件を満たさず、吸収合併契約自体が無効となるリスクがある。
合併契約の記載事項とは
合併契約の記載事項としては、必要的記載事項(会社法749条1項)と任意的記載事項に分けられる。
合併契約の必要的記載事項は、以下のとおりである(会社法749条1項)。
また、任意的記載事項については、合併の効力発生により、消滅会社が解散・消滅するため、効力発生後の権利義務(たとえば損害賠償)を記載しても意味がない。
たとえば、当事会社の状況について表明保証を行い、合併の効力発生後に表明保証違反があったことが判明した場合に補償請求権を発生させても意味がない。
そうすると、任意的記載事項として記載する意味があり得るのは、主に、①合併の効力発生までに当事会社が行うべきまたは行ってはならない事項を記載することと、②合併の効力発生のための条件を記載すること。
そのため、合併契約は、株式譲渡契約や他のM&A契約に比べて非常に内容が薄く、短いものとなっている。大規模な会社同士の合併の場合でも、合併契約自体は、A4判で2枚程度、条文数にして10条程度の内容であることも少なくない。
まとめ
合併契約の記載事項には、必要的記載事項と任意的記載事項がある。
必要的記載事項が欠けている場合には、合併無効となる可能性がある。
任意的記載事項においても、記載する意味がある事項が限定的である。
合併契約は、他のM&A契約に比べ非常に内容が薄く、短い。
参考文献
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