余命10分 / 2023年1月8日 — いろんなにおい。

待つ人のいない古い日本家屋は外気温、もしくは陽が当たらない分、外よりも冷えているように感じた。白い息を吐きながら電気をつけると、同時に父が部屋中に置かれたストーブたちにスイッチを入れる。灯油の燃える香りが部屋中に漂う。この匂いが好きだ。

電気とストーブをつけると部屋があくびをしているみたい。

奥の仏間に行って、母や、祖父母、曽祖父母たちに線香をあげる。この匂いも好きだ。

ぼくは車から途中のイオンで買ってきたたくさんの食材を台所へと運び入れる。母が寒くないようにと台所の足元に置かれたストーブにも、父は火をつけてくれていた。これがあればここでの料理も辛くない。

買ってきた食材や調味料、お酒は母に預ければ、母がそれぞれ好きな勝手で使えるように冷蔵庫や棚にしまっていたが今回はぼくが自分のためにしまう。料理中、何かを使いたいと思うたびにすべての引き出しをあけなければいけないと思うと、片付けが必要だと思った。明日は片付けをしよう。そんなふうに思いながら、しゃぶしゃぶ鍋の用意を進めた。

晩年、母が使っていた出汁はぼくが気に入ってプレゼントしたやつ。

鍋に火をかけると、香ばしいにおいが台所を包んだ。いろんなにおいが、天国にいる母に届いてそうな気がした。


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