初めてのアブストラクトゲーム制作
こんにちは!ボードゲーム制作サークル 23時10分マエ です。
この投稿では新米ボードゲームクリエイターの私たちが、2作品目となるアブストラクトゲーム『GRAVITY』を制作した話を簡単にまとめています。
ボードゲームのルールを考えるところからコンポーネント製作、実際の売れ行きまで一通りを簡単にまとめておりますので、ボドゲ製作にご興味がある方は是非ご一読いただければと思います!
※ こちらの記事は Board Game Design Advent Calendar 2022(https://adventar.org/calendars/7986) に参加させていただいております。
私たちの紹介
最初に私たちのことを軽く紹介させてください。私たちは社会人2人で構成されるボードゲーム製作サークルで、趣味でボドゲを製作しています。当記事で紹介する『GRAVITY』を含め、これまでに3作品を販売しています。
※ 下記の記事は、ゲムマに初出展した時の体験談です。
アブストラクトゲームとは?
最初に、本記事で扱うアブストラクトゲームについて簡単に説明をします。
代表的なものとしては、リバーシや五目並べ、囲碁、マンカラ、ブロックスなどがありますね!ちなみに将棋やチェスも該当しそうに思えますが、駒ごとに性能が違ってそれほど抽象化されていないため、アブストラクトゲームとは呼ばない場合もあるそうです。
どうしてアブストラクトゲームを作ろうと思ったのか
私たちが2作品目にアブストラクトゲームを選んだ理由は大きく3つあります。
1作品目と毛色が異なるボドゲを作りたかった
私たちの1作品目である校歌創作カードゲーム『ああ我らが〇〇学校』は、大喜利を主なメカニクスとしたボドゲでした。その出来にとても満足した私たちですが、他にも色々なジャンルのボドゲ作りに挑戦してみたいと考えていました。メンバーの1人がアブストラクトゲーム好きだった
私たちは2人で構成されるボドゲ製作サークルですが、その内1人はチェスを趣味としています。そのため「2作品目をどうしようか?」と相談し合っていた時に、チェスにゲームジャンルが近いアブストラクトゲームが案の一つとして出たのは自然なことなのかもしれません。セカンドベストに感銘を受けた
2作品目をどうするか悩んでいた時期に、ダイキチさんのセカンドベストをプレイする機会があったのも大きな理由の一つです。このボドゲは本当に秀逸なアブストラクトゲームで、様々な可能性を樹形図のように脳内に張り巡らせて思考し最善の一手を導き出すアブストラクトゲームの醍醐味を詰め込んだような作品でした。この作品に触れてから、一気にアブストラクトゲーム製作のモチベーションが高まりました。
アブストラクトゲームの作り方
アブストラクトゲーム作りはもちろん初めてなので、最初はどのように作れば良いか全然わかりませんでした。まさに五里霧中です。そこで初めの一手として、アブストラクトゲーム(この場合は二人零和有限確定完全情報ゲームと呼んだ方が良いかもしれませんが…)がどんな要素で構成されていて、それぞれの要素にはどんな種類があるかについて考えてみました。
アブストラクトゲームを構成する要素
色々なアブストラクトゲームを調査してみると、下記の要素で構成されることがわかりました。一部の要素は調査内容を画像にまとめて過去にTwitterで公開しており、参考にそちらの画像も併せて掲載します。
① 勝利条件
・どのような条件が満たされれば勝利・敗北するのか、もしくは引き分けとなるのか。
② ゲームボード
(1) どのような図形で構成されるか。
(2) 各マスはどのような繋がりがあるか。
③ コマ
(1) 何種類、何個のコマが使われるか。
(2) それぞれのコマはどのように置かれたり、移動したり、属性が変わるか。
④ 各ターンのアクション
(1) 何を行うことが出来るか。
(2) 特殊な条件が必要なアクションがあれば、その条件は何か。
例えばリバーシであれば、
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① 勝利条件:両者コマが置けなくなった後、コマが多い方が勝ち。
② ゲームボード:8マス x 8マスの正方形で構成。
③ コマ:表裏が黒・白に塗られた平面状のコマを64個使う。
自分の色のコマで、相手の色のコマを挟めるマスにのみ置くことができる。
置いたコマが挟んでいる相手コマをひっくり返す。
④ 各ターンのアクション:1つコマを置く。
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というような具合ですね。単純な考えかもしれませんが、この①〜④に対してそれぞれ好きな内容を選べば、簡単にアブストラクトゲームの原案を作ることが出来ると思います。
どのようなアブストラクトゲームにするか
初めてのアブストラクトゲーム製作においてどうしても盛り込みたかったことは、セカンドベストの「セカンドベスト宣言」(各手番で一度だけ宣言でき、宣言されたプレイヤーは別の手に変えなければならないルール)のように、目玉となるギミックを入れることでした。
そこで前述のアブストラクトゲームを構成する要素から、目玉ギミックを盛り込めそうな箇所を探してみたところ、③コマの動きにおける「盤上に働く力が作用して移動する」が良さそうだと思いました。それを起点に発想を膨らませていったところ、「盤上に働く力」として重力が良いのでは?というアイデアが浮かびました。スーパーマリオに代表される横スクロールアクションで働く重力のように、下方向にプレイヤーコマを動かす作用のイメージですね。この重力が、映画『インセプション』におけるホテル内の戦闘シーンのように各手番でめまぐるしく動くと、重力の影響を受けるプレイヤーコマの位置もめまぐるしく変わり、なんだかとても面白いゲームになりそうな気がしました。重力の変化はランダムでも面白そうだったのですが、アブストラクトゲームを作りたいと考えていたのでランダム要素は盛り込まず、それぞれのプレイヤーが任意に操作できるようにしました。というわけで、製作するアブストラクトゲームの目玉ギミックは『盤上に働く重力を操作できること』に決めました。
このギミックを活かして何を目標とするか?ですが、こちらはシンプルにゴールを目指すのが分かり易くて良いのではないかと考えました。プレイヤーコマ自体の動きと、重力操作によるダイナミックな動き、その二つを組み合わせて最小手番でゴールを目指す…まるでパズルのようなゲーム性ですね。そこに相手プレイヤーという存在が加わると、自身の重力操作が相手の動きを助ける場合も出てくるのでジレンマも生まれます。
あとは、
・壁になったり、重力が働いて落下した時にストッパーとなるような障害物が欲しい。⇨ プレイヤーの動きを制限する妨害コマを導入する。
・互いのプレイヤーで重力が働く向きが反対方向だと、重力が変化した時におけるお互いの利益と損害が相反しやすくなり、更にゲームが奥深くなるのでは?⇨ 各プレイヤーは互いに反対方向に重力が作用するようにする。
・重力が反対方向だと、互いのプレイヤーコマがぶつかる場合の処理が難しい。⇨ 各プレイヤーコマは互いに干渉しない設定にする。ついでに妨害コマもプレイヤーごとに色を変え、同じ色のプレイヤーコマにのみ干渉するようにする。
というような具合にルール開発が進み、メンバー間のテストプレイによる調整を経て現在の形に落ち着きました。
前述のフォーマットに合わせて説明してみると、こんな感じです。
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① 勝利条件:相手よりも先に自分のプレイヤーコマがゴールに到達した方が勝ち。
② ゲームボード:5マス x 5マスの正方形で構成。
③ コマ:プレイヤーコマ2個(赤1個、青1個)と妨害コマ8個(赤4個、青4個)を使う。
ゲーム開始前に、それぞれのプレイヤーは相手の色の妨害コマを4個ずつ置く。
妨害コマは、同じ色のプレイヤーコマの移動を制限する。
プレイヤーコマは左右に1マス移動でき、重力の影響を受けて落下する。
④ 各ターンのアクション:プレイヤーコマの移動と重力操作を任意の順番で行う。
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最後に、ルールを説明するようなテーマや世界観、ストーリーを後付けします。
※ テーマを決めてしまうとアブストラクトゲームの定義から外れてしまう気がしましたが、コンポーネント製作はテーマが決まっていた方がし易いと思ったのでこのような判断にしました。
・重力が目玉ギミックだし、タイトルは「GRAVITY」にしよう(安易)
・なんとなく宇宙が舞台となるのが良いかな?
・じゃあプレイヤーが操作するプレイヤーコマは宇宙飛行士という設定にしよう!
・妨害コマは、宇宙に漂っているもので…アステロイド(小惑星)とか?
・互いのプレイヤーで重力が反対方向となる理由…別次元の宇宙だからということにしよう!マルチバース!
・勝利条件の「相手よりも先に自分のプレイヤーコマがゴールに到達した方が勝ち」はどうやって説明する?⇨ ゴール地点に重要なアイテムがあって、それを先に手に入れた方がそれぞれの宇宙を救えるという設定にしよう!
…というような具合です。大分製作者の趣味が出ていますが、これで一通り設定が決まりました。次はコンポーネント製作です。
コンポーネント製作
重要視したこと
コンポーネント製作で重要視したことは下記の3点です。
目玉ギミックを容易にし、なおかつ際立たせる仕様にする
目玉ギミックである重力の操作は、ゲームボードを任意の向きに変えることで表現されます。普通に1枚の板、もしくは厚紙をゲームボードにして、重力の操作を行う度にゲームボードを持ち上げて向きを変える仕様にしても良かったのですが、少し工夫が出来そうだと思いました。そこで思いついたのが、2枚の板とベアリングを用いることです。一枚を下に敷く板、もう一枚を上に置く板とし、2枚の間にベアリングを挟めば上板だけがクルクル回るようになり、一々ゲームボードを持ち上げなくても向きを変えられるようになります。これによって重力操作が容易になり、なおかつクルクル回るゲームボードという特徴が追加されたことで、重力操作そのものが際立ちました。テーマや世界観を意識した素材選択を行う
クルクル回るゲームボードという構想が固まったところで、次はどのような材質で作るかについて考えました。ここでは、前述のテーマや世界観を意識しています。ゲームボードは上板と下板の2枚で構成されますが、上板を透明な板にして下板に宇宙のイラストを描けば、まるで宇宙空間を漂っているような印象が得られるのではと考え、板の素材はアクリルにしました。また統一感を持たせるために、コマも同様にアクリルにしました。他の必要なパーツとして、ベアリングや回転の軸となるシャフトなどがありますが、これらは宇宙船や人工衛星のような無骨な印象となるように、銀色のステンレス素材のものを選びました。
※ アクリル板は株式会社アクセア様、アクリルコマは株式会社ポプルス様にそれぞれ注文しました。耐久性やプレイアビリティを意識したサイズ選択を行う
使う素材が決まったところで、次はどのようなサイズにするかについて考えました。今回のコンポーネントにおいて最も重要となるのはゲームボードのサイズ、すなわち上板・下板となるアクリル板のサイズです。
サイズの候補は、厚みが3mmと5mmの2種類、面積が10cmx10cmと15cmx15cmの2種類です(発注先によって異なります)。当然サイズが小さいほど安価になりますが、ゲームボードの耐久性が低下したり、ゲームボードが狭くプレイアビリティが低下するという懸念が生まれます。そこで事前にホームセンターで実物をチェックしたり、紙で試作して検証してみたところ、どちらも大きい値である厚み5mm、面積15cmx15cmが良さそうということになり、それらを採用しました。
製作の苦労話
コンポーネントの仕様が完全に決まったところで、いよいよ実際に製作に移ります。製作は、発注作業と組み立て作業の2つがあり、発注作業はスムーズに完了しました。一方で組み立て作業には色々な苦労があり、代表的な苦労話を紹介します。
接着剤の選択ミス
今回は、アクリルとステンレスという2種類の素材を使ってゲームボードを組み立てます。組み立てには接着も必要で、最初は接着剤に瞬間接着剤を使いました。ただ、これが悪手でした。瞬間接着剤には、接着剤のはみ出し部が白く変色する白化現象があり、上手く狙って塗布しないとアクリル板が汚れてしまいます。これが一部の接着では思いのほか難しく、僅かなはみ出し量でも結構広い領域が汚れることとなります。そして汚れた箇所をリカバリーすることは出来ません。ミスした瞬間に不良品です。
以上の出来事を受けて、近所のホームセンターにいた接着剤に詳しい店員の方に、今回のシチュエーションに最適な接着剤を相談してみたところ、3M社のScotch プレミアゴールド スーパー多用途2をおススメされました。実際に試してみると、硬化に時間がかかるものの、瞬間接着剤ではないため白化現象は生じず、なおかつ十分な強度が得られていそうだったので、こちらをメインに採用することにしました。テーブルの選択ミス
ゲームボードは、下板の中心部にシャフト、ベアリングを接着し、その後上板を載せるという手順で組み立てを行います。ここで下板には、接着時における位置合わせ用の穴や目印を設け、正しい位置で接着が出来るようにしていました。しかし実際に接着が終わった下板を見てみると、シャフトが傾いていたり、ベアリングが中心からズレてしまっていました。
これは、組み立て時に用いたテーブルが原因でした。組み立て作業は全て私の自室で行ったのですが、最初は部屋にキャンプ用の折り畳みテーブルを広げて、その上で接着作業を行っていました。このキャンプ用テーブルが僅かに傾いていたため、完全に硬化する数時間の間に、接着途中のシャフトが傾いたりベアリングの位置がズレたりしたのです。これが分かってからすぐにキャンプ用テーブルの使用をやめ、きちんと水平なテーブル(リビングのこたつ用テーブルを使いました)を用意して事なきを得ました。組み立てに時間がかかる
ある意味これが一番の苦労かもしれません。前述の通り、組み立ては全て私の部屋で行ったため、使えるスペースは限られていました。それに加えて、組み立てには複数の接着工程があり、それぞれ数時間の待ち時間が発生するため、結果として生産可能な量は限られたものとなります。今回は50個ほど製作でしたが、それでも結構な時間がかかっており、量産の目途は一切立っていない状況です。
ついに完成
ルール作り、コンポーネント製作、組み立て作業と色々な段階を経て、ついに『GRAVITY』が完成しました!完成した外観は下記画像の通りです。上板には、プレイヤーコマが移動するマス目を印刷しました。星のきらめきをモチーフに、マス目の分かり易さと見た目のバランスをこだわったデザインとしています。また下板には、戦い合う2つの宇宙の星を赤、青の2色で表現したイラストを印刷しています。この2つの板が重なり合うことで、狙い通り、宇宙空間を漂っているような浮遊感が感じられる出来となりました。また株式会社ポプルス様に発注したアクリルコマも、綺麗に成形されていてとても良いです。
上板はこんな感じで、スムーズにクルクル回ります。クルクル回しているだけでも結構楽しいです。
下記は、説明書と遊び方説明動画です。
実際の売れ行き
『GRAVITY』は、今年開催された北海道ボドゲ博4.0で初披露・販売を行いました。値段は3,000円で製作費用とトントンです。もう少し高い価格設定にしても良かったのかもしれませんが、初めてのアブストラクトゲームということもあり、ちょっと勇気が出ませんでした。
肝心な売れ行きですが、北海道ボドゲ博では製作個数の半分程度が売れました。購入いただいた方の傾向としては、独特なコンポーネントだったからか、なんとなく同じボドゲクリエイターの方が多かったような気がします。残りはゲームマーケット2022秋に持っていき、そこで全てが売れました。この場で改めて御礼を言わせていただきたいのですが、『GRAVITY』をご購入いただき、改めまして、誠にありがとうございました。
今後についてですが、前述の通り量産の目途が立っておらず、第2版の時期は未定です。また『GRAVITY』のゲームボードを活かした別ルールの着想も生まれており、色々と検討を行っている状況です。また状況が変わりましたら、Twitterでアナウンスさせていただきます。
感想
『GRAVITY』の制作話は以上となりますが、最後に一連の制作活動を通じて感じたことをまとめます。
アブストラクトゲーム制作のフロー
今回は私たちにとって初めてのアブストラクトゲーム制作でしたが、ルール作りは思いのほか順調に進みました。その理由としては、事前にアブストラクトゲームを構成する要素を調査し、書き出していたことが大きいと思います。そのおかげで割と少ない手順で原案を作ることができ、テストプレイや調整、コンポーネント製作に移ることができました。こういった独自の枠組みは他にも様々なやり方があると思うので、今後も他の方の記事や投稿を参考に勉強をしていきたいですね。アブストラクトゲーム制作の醍醐味
1作品目である校歌創作カードゲーム『ああ我らが〇〇学校』は、大喜利を主なメカニクスとしたボドゲでした。大喜利系ボドゲは、制作者側が用意したコンポーネントだけでなく、遊ぶプレイヤーや場の雰囲気など、制作者からは未知の要素が複雑に絡み合うことでプレイに彩りが生まれ、それが多様な面白さを生むと考えています。一方でアブストラクトゲームはそうではなく、面白さを生むのは全て制作者にとって既知な要素です。その責任感に向き合うのがアブストラクトゲーム制作の醍醐味と言えると思いますし、他方難しさでもあると感じました。制作活動自体はとても楽しかったので、今回学んだことを活かしながら、より良いボドゲが作れるよう邁進していきたいと思います。コンポーネント製作の重要性
今回はコンポーネント作りにかなりの力を入れました。色々な苦労もありましたが、作品自体を完成させて無事披露・販売まで持っていけたことはとても良かったと感じています。突然話が飛びますが、最近のゲームマーケットの参加者数、出展ブース数推移を見る限り、今は大ボドゲ戦国時代です。様々な魅力的なボードゲームが、過去最速のペースで生まれている現状で、一人でも多くのお客様に自分たちが制作したボドゲを手に取っていただくためには、ゲーム性だけでなくコンポーネントもより一層魅力的にする必要があると強く感じています。コンポーネント製作についても、より良いものを作ることが出来るよう、工夫を続けたいと思います。
さいごに
ここまでお読みいただきありがとうございました!大分長くなってしまいましたが、お読みいただいた方に何かしら得るものがあれば幸いです。
『GRAVITY』制作については色々な出来事があり、いつかまとめたいな~と思っていた矢先、Board Game Design Advent Calendar 2022(https://adventar.org/calendars/7986)のことを知りました。このような魅力的なイベントに参加させていただき、ありがとうございました。こちらの記事をお読みいただいた方で、まだ他の記事をご覧になっていない方は是非ご覧ください。