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雪組「CITY HUNTER」:「小林豊という青年」への感想

画像は公式ポスターから。縣切れちゃってごめん!

新生雪組、トップお披露目公演に参加してきました。
で、これの前に、CHに抱くありのままの呪詛を書いていたら手違いで全部消えまして(笑)
毒気を抜かれてしまったので、もう出さないことにしました。一応書こうとしていたことだけ雑にまとめておくと「無意味なセクハラをただ流すことを許さない宝塚歌劇団であってほしいんですけどね」です。

で、そんな不快が結構な割合で主人公周りにはついて回るので。
というのも少し語弊がある気もしますが、私は、小林豊とその周囲の物語に、かなり着目して観劇しています。
そして結果、かれを生き生きと舞台上で演じる彩海せらさん、あみちゃんの評価が、私の中でストップ高になっています。
どうしてかと言えば、あの物語の中で、
かれ、小林豊という青年は、とても、まっとうに「主人公」を生きているから。

…オリキャラゆえにハラスメントがないから安心して見てられるしね…(遠い目)

※以下すごいスピードのネタバレ
※筆者は望海さんのミーハーファン
※筆者は彩海せらさんを「望海風斗さんの息子」みたいに思っているところがすごくあるかわいい
※全部個人の意見というか感想というか

小林豊のストーリー

母に捨てられて孤児院で育ち、そのうちにグレて、幼馴染なのであろう敦とともに、ヤクザの下っぱとして動いていた。

そんな中で事件が起こる。敦が、ヤバい現場を目撃してしまった彼が劔会のやつらに殺される。敦に、悪意を以て、豊たち下っ端に対する、一切の誠意など、ハナから持つ気もない。
だから、彼は決意する。友人の命を奪ったヤクザたちへの復讐を。
そして、その行動に、ほんの少しの憧れを添えようとする。

「あこがれの、シティ・ハンターに!」

ここの言い方がすごく好き。
若さゆえの無鉄砲、無根拠の「オレ最強!」感が、このひとこと、ひとこえを聞くだけで溢れていて、もう、ほほえましい、かわいい。

しかしどこからかその話を聞きつけた女が現れる。母を名乗って母親ヅラして心配してこようとする。
これまで名前だけ知っていたテレビの中の女、どんなに辛くても、手を差し伸べてはくれなかった薄情もの。血のつながりがあるという、事実らしいことすら嘘のようだった、はずの女。

それが目の前に現れる、邪険にしても去ってくれない。
しかも周囲の人間は、そんな非道の女の話を聞けと、きちんと向き合えと言ってくる…。

もうね、贔屓目もあることはじゅうぶん自覚してますが(笑)
あみちゃんのお芝居が、すっごい好き。
結構屈折してぐるぐるしている、けれど、きっと根はすごくまっすぐで、かわいくて、いいやつ。そんな小林豊という青年を、全力で生き生きと演じている、彩海せらさんが好き。
今回改めてしみじみ思いました。あみちゃんのお芝居、すごくいい。
これまでも知っていた、つもりだったんですが、私の認識なんて全然足りてなかったな…!?と、良い意味の想定外に恐れおののきました。
このコメディ要素も多い話のはずが、その中でなぜあみちゃんに一手にシリアスを担わせる!?研6ぞ!?まだ研6ぞ彩海せら!!
という感想もTwitter上で拝見して笑いました。確かに。
でも実際あみちゃん以外がやってたら私この演目をこんなに面白がれてなかった確信があるので、やっぱりあみちゃんのための役なのだと思います豊君…うん…。

閑話休題。

芝居の共鳴、変化しつづける立ち位置

もうひとつ面白いのが、母・小林知花是を演じる副組長・千風カレンさんとのお芝居の共鳴、だと思っています。
あみちゃんときゃれんさん、ふたりの描き出す距離感が毎回大変に絶妙すぎて、変化が見たくていつもオペラで眺めている。
きゃれんさんが、あみちゃんに自由にさせているのが、そしてあみちゃん豊の芝居の細部までちゃんと見ているのが、すごく、よくわかるんですよ。「往年の大女優」、芸事を積んで重ねて来た重みが、こちらにもきちんと感じられる芝居をされるきゃれんさん。ワザマエ。
さすがの副組長、つよい。
そこにあることが揺らがない。積み重ねてきた芸事の、確かな年輪のひだ、奥行きを感じられる。
そして何より、あみちゃんを見守るまなざしの優しさ。なるほど「母」なのである。

細かく、その日、その日のあみちゃんの芝居を受けて、千風さんも自分の芝居を変える。変えていっている。呼応する。
それが観劇している側にも、わかる。それこそ「母」としての立ち位置を探るみたいにも、こっちには見える。
で、受けてもらえるってわかっているから、信頼しているから、
さらに、さらにあみちゃんが、のびのびと、いきいきと舞台に躍る。

とても素敵だなあと思います。いつだってふたりの心の動きが新鮮だから、展開がチープにならない。
そして何より、ふたりともすごく楽しそうなんだよ!
見てても嬉しくなるんですよ!

褒めたたえる。ひたすら嬉しかった部分。

あみちゃん、まだ高めだけど、声がいい、発声がいいんですよね。
二階席後方にいても、第一音からはっきり日本語として届く。よく響く、おおらかな、明瞭な声。
歌がなかったのが残念です。きっとあの青年ルイより、さらに進化した彩海せらを魅せてくれていただろうに…!
少しずつ少しずつ、あみちゃんが、男役としての声を、低くしながら創り上げていっているのが、その努力が手に取って見えるようで、そのまっすぐさがとても心地が良い。

きっと、もっと変わりたい。

その野心、ええ敢えて野心と呼びましょう。
そんな感覚が、淡い焔になって、からだのまわりにまつわって見えるようで、なんとも頼もしい。
やっぱりね、変化が目に見える方が好きなので、驚かせてくれる役者さんが好きなので、すごくあみちゃんには期待していて。
その(めちゃくちゃ勝手なこっち側からの)期待を裏切らない、どころか、期待を超えていってくれる彩海せらさんが、本当に頼もしく、おもしろく。
これからも目が離せないな、見に行きたいな、と思わせてくれるのが、素直に嬉しい。

きゃれんさんとの共鳴の項でも少し書きましたが、細かいお芝居にまで、余念がないところもすごく好印象だったりします。
スポットライトが当たっていない、暗い部分であっても、あみちゃん豊は板上に立っている限り「豊として」存在している。豊として、そこで息づき、躍動している。
ので、思わずオペラをのぞきたくなってしまうんですよねえ!
走り方、誰かを目の前にしたときの、その場の居方、ひとつひとつ。とても丁寧で、意識があって、かわいい。

年若い青年であることが、その一挙措だけでもわかるような全力疾走。
「母」である、千風カレンさんとのやり取り、変遷していく互いの距離感。
誰かの言葉に対する反応。若さゆえの向こう見ずな虚勢、そして、同時に見える、「考えていること」。

たとえば、最後までちかぜママと視線を合わせようとしないところとか。
それでいてラストのラスト、幕が下りる直前、敦と視線を合わせて笑い→ママと目が合って、ちょっとためらうような表情になったあと、もう一度笑顔になって、ママの肩に腕を回すところとか。
冴羽獠の背中で劔会の面々をこっそり威嚇したり、くるくると逃げ回り、アルマ王女を守ろうとする気概も見せたりして。

ああもう、なんて!
なんて、なんてかわいいの! なんて、楽しそうに舞台上に息づいているの!!

もう豊が出ているときは、ずっと豊を追っていたくなる、追ってみたくなるおもしろさ。ひとりの、舞台上にいる、息づく「人間」としての躍動感が、そこには見える。
そして、オペラをのぞいたときに見える小さな動き、そのどれもが「なんとなく」やっているんじゃないところに、凄くぐっとくる。
お芝居が好きなんだなあ。
すごく、そうやって「お芝居すること」を、楽しんでいるんだなあ、あみちゃん。

そして、かわいいだけじゃなくて。
ふと目線を落とした瞬間、劇場の天を仰ぐ、そのしぐさに。
先日までずっと、私がここでオペラで追っていたひとの面影を見るのです。勝手に。本当に勝手に。

つづきの未来

あみちゃんは望海風斗さんにはなりません。
なれないし、ならなくていい。あたりまえ。別にだれもそんなの望んでいない。
だってあみちゃんは彩海せらさんだから。これまでの、ほかのだれとも違う、あみちゃんだけの男役が、これから、きっと創り上げられていくのだと確信しています。
そして、その創り上げられていくものの中には、あみちゃんがこれまで見て、聞いて、教わって、ずっと学び続けてきた、あこがれ続けてきた無数の過去の先達の姿がある。そのきらめきの、プリズムの中に、そしてどうしても、私は、私が好きになったひとを見る。
きっと、いっぱい教わって、学んで、必死に身につけようとしてきたことが、わかるから。
ひとつひとつ、まだ粗削りながらも、たしかにこちらに、感じさせてくれているから。

改めて凄い文化ですね、宝塚ってね。
だってさ、既に、今の時点ですごい勢いで魅せてもらっているのです。
あみちゃんが望海さんから受け取ったのだろう、男役として、舞台人としてのいろんなものが、種となって、あみちゃんに根付いて、芽吹いて、新芽のような煌めきを放ちはじめているのを。
きっとこれから、あみちゃんを光り輝かせていく華になるんだろう、そんな可能性を。
なんだかもう、眩しくて、思わず目を細めて見てしまう。
継承ってこういうことなんだねえ、って、ぴかぴか、魅せて貰っていて、
そのかけらを見させてもらうたび、胸がいっぱいになるのです。

どうか、急がなくていい。
じっくり、しっかり、自分だけの翼をつくって、飛び方を覚えて、羽ばたいてほしい。

何もかもうまくは行かないだろうけれど、それも含めて、眺めさせてもらいたいんだ。

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