見出し画像

2020/06/07

昔から母親は音楽プロデューサー・小室哲哉のファンだった。今でも週末にはDVDを見たりCDをかけたりする。取り分け母親はTM NETWORKが好きで、それなりにマニアックな品なんかも我が家にはあったりする。

僕が物心付いて間もない頃、車で家族旅行に行った帰りの事を、僕は今でも覚えている。その旅行でどこに行ったのかも、それがどんな季節だったのかすら思い出せないが、その記憶だけはハッキリと奥底にある。

その夜我が家の愛車は、暗闇に光の道のように等間隔で照明の浮かぶ、中央自動車道を上っていた。早起きして遊びまくった僕は眠さに耐えながら、その光を後部座席からぼんやりと眺めていた。

母親がドライブにTMのCDをかけるのはいつもの事だが、車内に流れるBGMより、周囲に広がる夜の世界の方が余程魅力的だった。食い入るように見つめる窓の外、大月の上空には星が輝いている。僕がそこで「12月の星座が一番素敵だと僕をドライブへと誘った」とSTILL LOVE HERを思い浮かべたのは、その時流れていたからなのかそれが12月だったのか、はたまたそのどちらでも無かったのか、今となっては分からない。

大月を抜ければ、中央自動車道でも屈指の規模を誇る談合坂のパーキングエリアがある。我が家の旅行ではだいたいいつも帰りにここに寄るのが最後のトイレ休憩である。その晩も車を止めて、トイレに行ってからジュースかなんかを買って貰ったんだったと思う。確か飲みたくて駄々を捏ねた。

そしてまた走り出した車が本線へと合流する時、車のスピーカーからはKiss Youが流れた。大人っぽい渋みのあるイントロからの、「モノクロームのTelevision」とボーカルの宇都宮隆のよく通る心地良い声を、僕は聴いた。

そこで僕は、人生で初めて「曲」という概念に対して「好き」だと感じた。TM NETWORKのKiss Youは、僕に音楽への興味を教えてくれた曲である。

あれから十年以上の月日が流れ、数多の音楽に触れてきた。星野源や椎名林檎、小沢健二にハマったりした。ポケモンやA列車シリーズ、東方、連縁などのゲーム音楽を聴き漁った時期もあった。それでも、どんな曲もKiss Youを超える感動を提供してくれはしない。自分で見つけた曲の方がきっと好きだけど、あの夜に母親が流していたCDのKiss Youは全ての始まりであって、後から好きになった曲と同列に語れるようなものでもない。どんな曲を好きになっても、結局僕はTM NETWORKに帰ってくるし、Kiss Youを一番に聴く。これはもう母親の英才教育の賜物というか、完全に布教成功と言った感がある。

今でもこの事を思い出してKiss Youを再生する夜がある。その歌詞の中に、僕はあの夜の僕を見る。今の僕と十年以上前の僕、そして1987年のTM NETWORKが確かに繋がっているんだなと感じる。これが、僕を音楽という世界に誘った大切な曲についての思いだ。


君のいる夜に 僕のいる夜に

同じ星がある 同じ朝がくる

閉じ込めた闇を 開け放つ光

動けない君を 解き放つ力

I kiss you for bright & dark

以上。2020年6月7日、25時ちょうど。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?