"ミステリアスなイケメン"「ラ・トゥーレット修道院(ル・コルビュジエ,1959)」[建築探訪記]
ル・コルビュジエの最高傑作
設計者はル・コルビュジエ(1887-1965)です。彼の作品は「近代建築運動への顕著な貢献」ということで代表的な17作品が世界遺産に認定されています。
もちろんこの建築も世界遺産に選ばれており、日本だと上野にある国立西洋美術館も選ばれていますね。そんな中、私個人としては実はこの建築が最高傑作ではないか、と思っています。
場所はフランス南東部リヨンから北西へ車で30分ほどです。
この建築は名前のとおり、修道院です。内部には、礼拝堂、宿泊室、食堂、図書室、教室などいろいろな機能があり、きちんと予約すれば泊まれます。
断片が集積した複雑で謎でめちゃくちゃカッコいい建築
建築をやってる方が見たら稚拙な表現だと言われてしまうかもしれません(あくまでいろんな方に理解してもらえたらと思うので砕いた表現です)が、私個人の感想はこれに限ります。
謎が多い人には惹かれてしまいますが、建築も一緒です。外観だけでも、その出で立ちに惹かれてしまいます。かっこよすぎです。
この建築は壁柱で浮かせながら斜面に建っていて、一番低い位置からすると5階建てです。1階は厨房や洗濯室、2,3階は教室や図書室や食堂などの共用スペース、4,5階は宿泊室になっています。
外観には、それぞれの部屋の特徴に合わせて外との関係性が表現されていて、これらの要素を謎にまとめ上げています。
しかし困ったことに、中はもっと謎です。外観の写真からはわかりづらいですが、この建築は、礼拝堂とそれ以外(コの字)のシンプルな中庭型の平面となっています。
がしかし、この中庭には[コの字と教会を繋ぐ地形に沿った回廊] [礼拝室] [アトリウム]等が配置されていることにより、圧倒的に複雑に謎に、そして立体的な建築となっているのです。
ヤニス・クセナキスという天才
この建築を語る際、実はコルビュジエ以外にもう一人絶対に欠かせない人物がいます。その人物がコルビュジエ事務所のスタッフとしてこの建築の担当していた「ヤニス・クセナキス」です。
彼は、建築家でありながらも、現代音楽作曲家としても知られていて、とりわけ、数学の理論を応用しながら作曲をしているような天才?変態?です。
クセナキスの音楽について解説してあるサイトがあったのでリンク貼っておきます。興味がある方はぜひ。かなり暴力的な音楽です。
話は逸れましたが、そうした彼の才能は、この建築にふんだんに活かされています。
外観や中庭の回廊部分に現れている縦ルーバーの窓 [通称]「波動式ガラス壁」。これは彼の発明した数学的秩序に基づいて配置されています。
実際に体験してみると、その空間を通過するときに感じるリズムや、床に落ちる影は不思議な感覚にさせます。
[波動式ガラス壁]もそうですが、それとは別の[グリッドのような窓] [水平連窓]など中庭形式だからこそ、全ての空間が外部に接しているため、移動の中で異なる光の体験をさせられます。
こういった経験の断片の集積みたいなものが強烈に記憶に残ります。
禁欲的な礼拝堂
ちなみに、「ル・ランシーのノートルダム教会(オーギュスト・ペレ,1923)」でも説明しましたが、コルビュジエはル・ランシー教会の設計者オーギュスト・ペレの事務所で働いていました。36年後建てられましたが、同じ礼拝堂機能で同じRC打放しであっても、師の建築表現とは対照的に外部に対して禁欲的な全く異なる表現となっています。
圧倒的な簡素さ、限定された光、この建築にはないスケール感、そうした構成によって、光がより崇高なものへ変わっていく感覚になりました。そしてシンプルかと思いきや、この空間にも断片は埋め込まれています。
[上]の写真左側に天井の丸いトップライト [通称]「光の大砲」です。(実は右手には [通称]「光の軽機関銃」がありますが、写真がなかったので割愛)
この下には小さな祭壇があり、大砲から光が注ぎます。外からみると[下]のようになっています。大砲と呼ばれる所以です。
謎に包まれたまま
色々と簡単に説明してしまいましたが、この建築は本当に断片的で複雑で立体的で謎が多い建築です。私が訪れたのは5年前ですが、今回この記事を書くにあたって当時撮った写真を再度見ているとまた新たな発見が出てきています。また実際にいま行ったら、新たな発見があるに違いありません。
もっと詳しくラ・トゥーレット修道院について知りたい方は「マニエリスムと近代建築-コーリン・ロウ建築論選集」の1論文「ラ・トゥーレット」を読むことをオススメします。他に掲載されている論文もキレ味抜群です。(余談ですが「透明性ー虚と実」は本当に素晴らしいです)
最後にこの建築から望める風景を。絶景ですね。
長くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました。
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