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MBAホルダーが薦める絵本2000選(88冊目)

【題名】お化けの真夏日

【作者】川端 誠 (著)

【評価】★★★★☆(77点)

【感想・寸評】

1,「お化けシリーズ」のこと

 冒頭、川端先生がシリーズにかける思いをかかれています。「お化け」とはなにか?!

人が暮らしのルールを守らなかったり、自然のルールを守らなかったりして、場所や時間を違えて行動すると出てくるのがお化けなのです。(中略)ですから、「お化け」は庶民が考えた正しく暮らすための方便といっていいでしょう。

 非常に納得できる解説です。集団規範を作るための、「物語」として生み出されたものが、「お化け」という存在であり、身近に物語を感じる事により、人々の行動を変える。神話に近い物がありますよね。

 世代を超えて、時間を超えて、効力を発する物語にするには、「お化け」というような媒体があるといいんだと思います。

 フィンランドの話で、世代を超えるために、危険性を伝え続ける宗教的なものをつくろうとの構想があったと聞きます。これが「お化け」なんでしょうね。

 川端先生の話は続きます。

ということは、お化けたちはこの日本という風土の正しい暮らしをしているのではないか、私たちをみまもってくれているのではないか。そう考えて作ったのが「お化けシリーズ」です。(中略)でも、僕は未来の人たちに、私たちの風土を愛し、活気ある一日とは何かを感じてもらいたくてお化けシリーズを作っています。

 人は、何に、風土を感じるのでしょうか?!生まれ育った土地、空、風、空気。。。。じつはこれを書いているのは2021年3月11日ということで震災10年の節目。故郷を奪われた人たちの話を数多く見聞きする一日です。

 震災後、10年たって戻った人の話が載ってました。

「ここにくると、空は一緒なのに、地元の感じがしない」

 全部、作り替えてますから、そうなのかもしれません。自然は変わらなくても、人間が望郷の念を感じるのは、人との記憶が結びついた風景なんだと思います。

 「ここのラーメンが一番美味しかった」「店主はいま、仙台でセブンイレブンの手伝いをしている」味の記憶とともに人の記憶ですよね。

 ちょっと違った視点で。今後、地方はどうなっていくのか?!人口減少が続く日本では、消滅していくエリアが増えるというのが現実。そこは、建物が朽ち果て、獣が跋扈し、人が入れなくなる。そして、そこに暮らした人たちが全て亡くなったときに、存在が消える。良い、悪いではなく、消えざるを得ない。

 それをリアルに感じた時に、痛み、悩み、苦悶し、その先に何があるんだろうか。想像の範疇を超えるので難しいですね。

2,今村光彦先生の「里山物語」

 この本の雑木林のシーンは写真集「里山物語」(今村光彦/新潮社)の写真を参考に描かれたとのこと。

1995年刊行ということで、25年前ですね。

今村先生の連載記事を発見しました。

 都市住民の、息子たちには「里山」というのは遠い存在です。この絵本を通じて、少しでも感じてもらえたらいいなと思いますし、親として、自然を感じる体験をさせる、自然の中に連れ出そうと思いました。

 一方で、学生時代にゼミで諸々、都会と田舎の関係を議論している時に学友が言い放った「田舎は住む所じゃねぇ、行くところだ」という言葉を思い出します。言い悪いではないんですよね。田舎出身の彼のリアルなんだと思います。わざわざ行くところとなり、そして消滅をしていく。のかもしれないですね。人口が減るということはそういうことです。

3,古き良き日本の夏

 この絵本の中の夏は、古き良き日本の夏です。エアコンはありません。うちわと手脱ぐいと、蚊取り線香。スイカを井戸で冷やし、子どもたちは雑木林で虫を捕る。打ち水、流しそうめん、花火。どれも、都市住民にとっては物語の中の話

 いや、いっぽうで、少し田舎に行くと、これが日常。子どもたちには、様々な経験をしてもらいたいと思うと、田舎の暮らしを少しは体験させてあげたいものですな。

 仕事で田舎を担当したときに、普段は誰もいない待ちが、お盆、人であふれかえっていて驚きました。そういう町、日々の生活を見に行く、体験させるのも一つの方法ですよね。




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