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でんえんぼっか


今日は三日月がお空に浮かぶ明るい夜


双子の男の子二人が原っぱで腰掛けながらお話をしています。
二人は顔と背丈と服装がだいたい同じで、兄の方は鼻の先っちょがほんのり赤くて、弟は耳が大きいので、みんな「赤っ鼻の兄」と「でか耳の弟」で覚えていました。この2人は仲良しでよく一緒にいます。


「今日は月が綺麗な夜で気持ちがいいなあ。
あのバナナみたいな月の上からしょんべんしてみてえな。さぞ気持ちいいんだろうな」
と兄は言います。

すると弟が
「確かに気持ちが良さそうだ。空からしょんべんが降ってきたらみんなびっくりするだろうな。今にも壊れそうなあのガラクタ屋敷に住んでる貧乏じいさんなら、雨が降ってきたと喜んで口を空に向かって、めいいっぱい開けて飲んじまうかもしれない」と言いました。

二人はヒヒヒと笑いながら座っているすぐそばに生えている雑草をむしってはなげて、むしってはなげています。
辺りは寝静まり、虫の鳴き声もろくに聞こえてきません。ここら一帯はみんな早く寝てしまうのです。しかしこの双子の兄弟はそんなのお構いなしに大きな声でうたを歌います。厄介な奴が来たと、ため息をついたのは木の上にいるフクロウです。

風が山のほうから降りてきて、彼らの帽子をひょいと飛ばしてから、月を隠そうとする雲の方へと舞い上がりました。そして腰掛けているそばの葉っぱがくねくねと踊りだしました。彼らの歌で目覚めてしまったかのようです。転がる帽子を追いかけながら、二人のおうたは続きます。
お互いが、お互いの帽子を拾いあげて、ひょいっと被せ合います。それはなんだか踊りの振り付けようです。




「でんえんぼっか、でんえんぼっか、でんぼんっかよいよい。雲が流れてお月を隠す」

「でんえんぼっか、でんえんぼっか、でんえんぼっかよいよい。花につられて狸がおどる」

「でんえんぼっか、でんえんぼっか、でんぼっかよいよい。実り多けりゃ ばあやが笑う」

「でんえんぼっか、でんえんぼっか、でんえんぼっかよいよい。仏にゃわるいがお餅をくらう」

「でんえんぼっか、でんえんぼっか、でんえんぼっかよいよい。みなで輪になってお歌を歌う」

双子の兄弟2人は交互に、時には一緒に歌い、腰につけたひょうたんを振り回して、チャポンチャポンと音を鳴らしながら踊ります。息はぴったりとあっています。
この歌は2人のお気に入りで、死んだ父親がお酒に酔っ払うと必ず歌ったのでした。
小さい頃から何百回何千回ときいているので、兄が5つになる頃にはそらで歌えるようになっていました。弟の方は兄から教えてもらって3つになる頃には、二人と一緒に歌ったものでした。

あまりにも二人がご機嫌なので、眠ってたや虫や動物たちが目を擦りながら、なんやらほいと起きてきました。
そしてつられて歌い出す者がでてきました。

最初に一緒に歌い出したのは狸で、(歌詞に自分がでてくるもんだからつい嬉しくなったんですね)お尻をふったり、お腹を太鼓のように叩きます。
それにつられて鳥たちが、それはそれは綺麗にさえずり、虫たちは合唱をしました。みんな小さい体ですが、力を合わせると、オーケストラのように大きな大きな音をだせます。
うさぎたちが、兄弟の周りをぴょんぴょん飛び跳ねたりでんぐり返しをしてサーカスのようです。

最後はフクロウも一緒に木の上からホーホーと歌いました。



この宴会はガラクタ屋敷に住むじいさんが、「いつまで騒いでるんだ、はやく寝なさい!」
と怒鳴り込んでくるまで続きました。

みんな笑いながら蜘蛛の子散らすようにそれぞれ帰ってゆきました。





おしまい。








あとがき

この短いお話は、「でんえんぼっか」という歌をつくる際にできたものです。お話が先で、歌が後からついてきたのかな?そこらへんは曖昧ですが、、。
この「でんえんぼっか」は会場限定で販売している、マンドリン弾きのジンと共作した音源集に収録されていて現在売り切れとなっています。今後増販するか、また違う音源集に収録するかどうかは未定です。

だいぶ前に、バンドセットでのライブで披露したことがあって、1人で楽器も弾かずにアカペラで歌ったのを覚えています。(音源ではちょこちょこと色んな音を足しています)

携帯電話のメモ帳の中に眠っていたのを見つけて、読んでみると案外いいなと思ったので(近頃児童書を読んでるせいだろうけど)
少し加筆して投稿してみることにしました。これを読んでくださる方はほんのちょっこしだろうし、こっそりとね。

絵が上手だったら絵本にしたかもなあ。

「でんえんぼっか」が収録されている音源集。
ジャケットの絵は、さんぜう通りというバンドをやっている漫画家の中口くんに描いてもらいました。

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