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したらば尻食らえ



商店で何を買うでもなくふらふらよちよちしていると、後ろからお尻を触られた感覚があった。

当たったというのではなくて、ポンポンと確かに二回叩かれた。というより撫でるに近いかもしれない、こちら側からも相手の掌を感じるような。
その触れ方というのがこういっては変なのだけれど、親しげというか、男子学生が友達にちょっかいをかける時のようにな無邪気なものに感じたものだから僕は咄嗟に友人かな?と思ってしまった。よくよく考えれば学業を修了して久しい僕に街中で声をかける前に、そうやってちょっかいをかけてくる友人知人はほぼいないし、そうやってコミュニケイションを取ることなんて長らくしていない。
そりゃそうだ。
でもその時は余りにも急だったものだったから誰だろう?なんて呑気に振り返った。
知らないご婦人だった。
買い物かごを下げたご婦人は振り返った僕に何か反応をよこすわけでも無くそのまま立ち去る。僕がみとめたのは彼女の後ろ姿のみで、歳はよくわからないけれど僕の一回りぐらいは上だろうか。
今のはなんだったんだろうなあ。僕がぼうっとしてたからかしら、買おうってわけでもないのにのっそりのさばってたものだから、邪魔で仕方なかったんだろうか。

そんな程度。
以前から痴漢が社会問題になってて、女性なら誰しも人生に一度や二度経験があるなんて聞いたことがあるけれど、とんでもないよなあと思う。
今回はただ手が当たっただけだろう。むしろその可能性の方がだいぶ高い。どっちにせよ僕のお尻くらいなら〜とか思ってしまうが、高校生の時分に一度やられた苦い記憶を思い出した。

毎日電車に揺られていた。
満員電車。いつも通り。駅に電車が滑り込む毎に人が下りて、車内はまばらになっていく。
僕は吊り革につかまって音楽を聴きながら車窓をぼんやり眺めていた。
僕の背後におじさんが立っている、ちょっこし近い。もう十分他へいけるスペースが空いているのに。
ガッタンゴットンガッタンゴットン。
お尻を触られた。
嫌ああな感じ。はじめは、あたっているだけなのか、若しくは触られているのかと判別、分別に揺れていた。それが徐々に確信に変わっていく。しつこいし、故意に触ってきていることは明白だった。
かといって、そのおじさんに何か言うこともできずに、おじさんは僕のお尻を触って、次の駅で降りて行った。

嫌ああな感じだった。



そんな事を思い出しながら、その日は結句何も買わずに店内をうろうろ亡霊のように彷徨っていただけに店員さんに嫌ああな感じに見られてないかしらと不安に駆られた。

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