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人類みな菌類


気がつけば部屋に大きなキノコが生えていた。



背は低いものの笠の幅を比べてみると家に置いてある電子レンジよりもテレビジョンよりも大きい。
カーペットを突き破って部屋の中央に位置するちゃぶ台の下にさもありなんと、ちんとしておられる。昨夜雷とともに酷く雨が降ったものだからそのせいかもしれない。そういえば今日は部屋が湿気ている。
昨日は一日中外にいて、夜遅く帰ってすぐ寝てしまったから気づかなかったのかしら。

ベッドに寝転びながらそのキノコをしばらく見つめる。マホガニーブラウンで、ところどころに小さく赤い斑点があり白い粉がふいている。じくは親指ほどの太さで、笠に比べてひょろいため、頭でっかちな印象を受ける。
なぜ小さく揺れているのだろうと思ったが、閉め忘れていた窓からすきま風が入ってきたためであるらしかった。じくが細いものだから、微弱な風でさえも揺れるのだ。
カーペットはだいぶと古いものでもうじき買い替えようと思っていたところだから良いものの、このキノコをどうしたものかと思案した。今日は何もすることがないからたっぷりと時間がある。(明日も何もすることがないんだけどね)
図鑑を開いてみたが、こんなキノコはどこにも載っていない。手触りや匂いは殆ど椎茸だった。
手についた白い粉を払って、ベッドに腰かけてギターを手に取り爪弾き、昔よく耳にしたきのこのコマーシャルソングを歌った。(コードはわからないから適当にね。考え事する時にギターを手に取ってしまうのは癖なのです)

足で拍子をとるとそれに合わせてキノコも揺れる。
あっさりと、この憎たらしいキノコに家宅侵入を許した体となってしまったわけだけれど、もし菌類と人類が争うことになった場合、人類は敗北してしまうのではないだろうかと不安に駆られる。
もしかすると、人類と菌類の戦いが自分が知らぬ間にはじまっていて、戦禍に放り込まれてしまったのではないか。
となると、ここは争いの最前線であって人類のためにも、菌類に屈してはならないぞと歌いながら心を奮い立たせる。




そうだ食ってしまおうっ




そう決起して冷蔵庫を開けバターを掴み取る。そうしてフライパンに火をかけバターを放り込む。
そうと決まれば話は早い早い。

ちゃぶ台を部屋の端によせて、キノコを鋏でちょん切ってフライパンに放り込む。
笠はフライパンの直径よりも大きいが、火が通ってくると段々と萎びてきてなんとか収まった。バターの香りに鼻をくすぐられながら、菜箸で程よくバターとキノコを絡ませる。そして今度は凱旋気分でコマーシャルソングを歌った。
もう勝利はすぐそこなのだ。

最後に醤油をひと垂らしして、旅行先で焼いたお気に入りの皿に盛り付け、お供として缶ビールをあける。
味は不味くもなければさして旨くもないのだった。


もぐもぐ。うーーむ。





無事人類の勝利という形に相成ったと思われたが、その翌日腹痛をもってして報復を受けたのだった。




















追記

なんてね。

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