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立派な生活者のかおり

アイロンをかけて服の皺をなくす。

とってもさっぱりする。
服がしゃんとしていい子になる。そんな心持ちがする。
学生時分、、いや嘘はいけない。
学業を修了して何年も経ってさえ僕は服にアイロンをかけてシワを取るなんて事を碌にしないでいた。
もっともっといえば、今だって小まめにアイロンをかけるなんて事をはしなくて、良く皺くちゃの服のまま外出してしまう。

アイロンをかけて衣服を伸ばすと気持ちが良い、そんな単純な事に気がついてから、そういえば僕の洋服はいつも皺くちゃだらけだなあ、もういい歳なんだからちゃんとしなきゃと思ったりもするも、どこまでもだらし無くできているこの体を通る服は、やっぱり皺くちゃな事が多いまま。
アイロンが洗いたての衣服の上を滑る時のぬくい匂い。あれほど優しい匂いはこの世に多くは存在しないだろう。
きわめて文化的でかつ人間的な営みのように思える。
なんて言ったそばから、猫の毛繕いを思い浮かべた。
暮らし良くするその行為に含まれた優しげな匂い、余裕のある安楽な心持ち。
アイロンはとても平和的だ。
生活をヨレをただす結束させる柔らかい紐のように。アイロンがけからは、僕からは程遠い立派な生活者の匂いがする。心地よさの中にちょっこし後ろぐらさを感じるのは多分そのためだ。僕にそぐわない行為だという気持ちがほんの少しだけある。

小さい頃住んでいた家の近所に個人店のクリーニング屋があって、店主のおっちゃんが、行くたびにUFOキャッチャーで獲ったぬいぐるみをくれた。プレイすること自体を楽しんで、景品はいらないのだと親についって行った僕に毎度くれるのだった。
おっちゃんはとっても優しいのだけれど、ダミ声の黒キャップを被った、立ち飲み屋なんかで出会しそうな様相で、子供だとおっかなくって距離をおきそうな類の大人。
笑うたびに光る銀歯や、指に付けられたでかい指輪は、自分の記憶の塗り替えなのかどうか定かではないが朧げに覚えている。
そんなおっちゃんと、ぬいぐるみ、綺麗にクリーニングされたしゃんとしたカッターシャツどれもがちぐはぐで、当時子供ながらに、出鱈目な組み合わせを面白がっていた。
大変失礼な話だがおっちゃんが、シャツを綺麗に洗ってアイロンをかけているところを想像できなかったし、ゲームセンターに出掛けてUFOキャッチャーを熱心にプレイするおっちゃんも想像がつかなかったのだ。
おっちゃんは職人だったのだ。子供の頃の僕にはわからなかったけれど、、。


いつまでたっても僕にはアイロンがけはそぐわない。
ぼうっとしてるうちに白いシャツにやけた跡がついてしまった。








追記
今週末 京都の西院という街で行われる
西院フェスに参加させてもらう予定です。
投げ銭でふらっと来ていただけますので是非

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