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おならと緩いカーブとおなら

へ。へっぴ。放屁。おなら。

人間であるならば避けられぬ生理現象。
生まれついてのオプションで、幾度となく体の内に巻き起こり噴出する風。人間風(にんげんかぜ)これを人前で致すことは失礼千万、恥ずかしい事とされていて、大勢の前でやってしまったならば赤面の到りな訳で、異性の前ではもちろん、同性の前でも気心知れた仲でなければ恥ずかしい。(仲がよくたって恥ずかしい)
とーちゃんが一家の主人の威厳を見せつけるべく一発かますなんて事はどの家庭にもある事かもしれないが、そんなとーちゃんだって会社ではちんと大人しくしていることだろう。社会はそれを許さない。ところかまわず遠慮なくぶーすかやる大人に出会ったことがないのはそういうことだろう。
避けようがない生理現象を恥ずかしい事としてしまったのは人間の過ちの一つなんじゃないだろうか。礼儀作法としておならを人前でしては行けない事を刷り込まれ、元々はなんの気兼ねなくこいていた筈なのに、できない体に矯正されてしまったのだ。なんと悲しい事か、、。


7.8歳の頃だったろうか、小学校の遠足で霊山、白山の麓にあるわんぱく公園へ出かけた。
マイクロバスに乗り込みみんな大はしゃぎ。隣の席の友達と、しりとりをしていたらあっという間に登山道の入り口まで来た。
もふもふとした黄色の毛玉に目ん玉と手足がついたよくわからないキャラクタアが描かれた立看板には、「ようこそ白山へ」の文字が。文字はハゲかけて長い間塗り直されていないらしく遠目からでも木目が目立つ。
何を考えているのか判然としないぎょろついた目玉が不気味で、決して僕たちを歓迎しているようには見えなかった。

手を繋ぎながら二列となってわんぱく公園を目指す。
クラスには「あ行」の生徒がいない為、僕は一番前を歩くことになり、副担任のK先生と手を繋ぐことになった。担任の先生は少し離れた後ろの方で特別学級の女の子と一緒にいた。
K先生は偶に担任の先生が不在の時に代わりにやってきた。先生連中の中で一番若く綺麗な先生で、背は小さく、6年生なら先生より身長が大きい生徒が幾らかいた。今にして思えば、学業を終えたばかりの20代だったのだろうと思う。彼女の授業にぎこちなさを子供ながらに感じていた。
たとえぎこちない授業であっても男子の中ではダントツの一番人気で、先生というよりお姉さんという感じだった。授業がつまらんと文句ばかり垂らす男子生徒達は、K先生が話す時に限って、飼い慣らされた犬っころのように大人しくなった。
僕の後ろのU君は先生と手を繋いでることを冷かしたが、そんなU君もEちゃんと手を繋いでいるからか、いつもにも増して落ち着かない様子で、よりいっそうお喋りになって、海賊の話や、モンスターの怖い話をした。彼の声が大きいから自然と前にいる僕たちも巻き込まれていき、先生も時々後ろを向いてU君の話に相槌をうち、Eちゃん含めた僕たち三人が彼の話をうんうんと聞いて時々笑った。彼は時たま、びっくりするくらい面白いことを言うのだ。Eちゃんはモンスターの話には退屈そうで、時折後ろにいるFちゃんに話しかけていた。度々来る面白い波が押し寄せた時にだけ一緒になって笑っていた。

うららかに光が溜まるじゃり道を歩く。
手を繋いだ時、K先生の手は木陰のように冷んやりした。そして柔らかかった。
先生と手を繋げたのが嬉しくって、僕はU君の話を殆ど聞いていなかった。頃合いを見計らって先生と二人で話そうと目論んでいたのだが、U君の話はいつまで経っても止まらず、このままでは公園についてしまう。段々と焦りが生じた。
陽が溜まった手は汗ばみ、何度も繋いだ手が離れそうになって、その度握り直してE先生の手の柔らかさを確かめた。
最初は威勢の良かった生徒たちも段々と口数が減って黙って歩くようになり、U君もようやっと静かになり跫音と息づかいが辺り一帯にとぐろを巻く。
心臓の音がこめかみから鳴るのを感じながらK先生と何を話そうかと考える。先生は綺麗な花が咲いていたり、鳥がいたりすると教えてくれた。U君は頻りに疲れたと文句を垂らして、あとどれくらいで着くのか先生に何度も聞き、その度彼女はもうすぐよと笑う。僕は一度たりとも文句を言わなかった。

緩やかなカーブをえがく坂を登ると、白山連峰が顔を出した。
山々が連なり先っちょにはかき氷のように白い雪が積もっている。あまりにも立派であまりにも綺麗なものだから言葉を失ってしまう。K先生もみんなも「わあ」と小さく溢したっきり、立ち止まってだんまりと遠く向こうを見つめている。

その時である、僕のおならがしじまを破ったのは。何故ここで出てしまうのか。本当にわからない。僕は自分の体を心底恨んだ。
K先生は僕が出した音に明らかに気づいた様子で、遠くを見つめていた目玉が、刹那僕の方を向いたのを確かに認めた。それからすぐに、山とっても綺麗ねえ、なんて急に喋り始めたのだ。先程まで黙っていたのに。僕は一人でどこか遠くへ行きたくなった。あの山々に慰めて欲しくなった。もう何処かへ帰りたかった。顔が焼けるほど熱かった。
後ろのU君は気づいてない様子で、どうせなら、彼に冷やかされた方がおどける事が出来て幾らかましだったかもしれないと思った。

僕は緩いカーブのある坂道と遠く向こうの光景を未だに忘れられないでいる。そしてあの音も。

しかしK先生の顔はぼんやりとしか思い出せない。


























追記



ぷかと頭に浮かんだ



なんでこんな事を急に書きつけたのかというとビイルの泡は、微生物のオナラであるという話をふいに思い出したからだ。(バーテンダアからきいた)
微生物は遠慮しないらしい。
やっぱりそれでいいような気がする、だってビイルがあれだけ美味しんだもの。

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