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呼ばれて飛び出て偽イラハイ〜最果ての雨の中から〜



呼ばれて飛び出て偽イラハイ〜最果ての雨の中から〜(仮)

顛末記



立派なホタルイカだなあ、酢味噌でいただくのが好物なんだなあ、なんて。此処は富山、薬売りの街、米騒動発端の地、寒ブリがうまくて黒部ダムがあって立山連峰があって、ホタルイカミュージアムがあって、、。
はじめて歌いにやってきた。ここ問屋町、問屋さんの町ということで大きな倉庫がずらりと並ぶ、その一角に家具屋、そこで歌わせてもらった。ベランダという人気バンドでドラムを叩いていた、たけおさんという方によんでもらった。その後。
学生時代の友人と飲む。彼は富山生まれで学校を卒業してから富山に帰った、軽音部の部長。わざわざ見にきてくれた。もう家を建てる算段をつけているらしい、すごい。家を建てるのにCD何枚売らなきゃいけないのかしら、、。と考える前に考えるのをやめた。久しぶりにあった友人と行きつけらしい居酒屋、社長とは懇意の仲、サービスが付いてきた、やったやった。
懐かしい話をたくさんしながら、ビールを吞み下す、彼の仕事の話を聞く、ほえ、へえ大変ねえなんて、殆どわかっていないのに訳知り顔、、うんうんと杯を干す。
これから今日のギャランティを受け取らなくちゃと僕がというと「ギャランティ」の言葉に社長が笑う。

そんな折、一件のダイレクトメールが届く。今日の見にきてくれたお客さんからであった。酔い心地で見る。

早速帰って音源のイラハイを聴いたところ、CDの内容がいちやぬぎさんのものと異なっておりました(アイドルソングのようなもの)
他の盤も確認した方がよろしいかと思います。

まずはじめに、ビール三杯分の酔いが粗方吹き飛ぶ。
アイドルソング?、、、あれま、どうしようかしら。もうレコ発はすぐそこだし、全部中身を開けて確認することなんかできやしないし、まずはレーベルオーナーのつみつさんに連絡かしら。なんて。
僕はついこの間、アルバム作品であるIRAHAI(イラハイ)といものを完成させた。
この日の二日後に京都のライブハウスでのレコ発イベントが控えており、その日から新譜を売り始めようという算段だったのだけれど、数日前にプレス工場からCDが届き、せっかくなら次いついけるかわからない富山に持って行ってしまえといことで、フライングで物販に置かせてもらった、、のだけれど。
あれま、CDの内容が違うとはこれいかに。

とりあえず宿にCDを取りに帰り、友人の車で内容を確認させてもらうことにした。友人は、もし記録されているのが僕の音源だったら開けちゃったCDを買ってくれるという、なんと心優しい男なのだろうか、さすが部長。我らが部長ここにあり。そりゃあ家の一つや二つ建つ。
しかし彼の心遣いも虚しくお客さんからのメールにあったとおり、僕の曲ではない「何か」が入っており、僕は12曲作ったはずで、うん、確かにつくった覚えがある、しかしそこに記録されているのは4曲、はて。
これには部長は笑っていたし僕も笑ったし、たけおさんも笑っていた。
歌詞をリスニングして検索をかけたところ、水花という女性アイドルグループの「最果ての雨」という曲が入っているらしかった。
まさかいちやぬぎの音源が水花の方に?てれこになっている?と考えたが、この曲は数年前にすでにリリースされている。データが入れ替わったというわけでないらしく、こちらが間違ったデータを渡したということも考えられない、しかしこの時点で工場から送られてきたCDの全てはいちやぬぎの音源ではなく、水花のであると考えるのが妥当であろう。こうなってしまった以上、もし本当のいちやぬぎの音源が「紛れていた」としても確認の手立てもないわけで、ともすればレコ発では売ることができない、ということになる。
ジャケットはとっても素敵に仕上がっているが、どうやら手元に届いたのは「偽のイラハイ」だったようだ。

部長とは別れて、宿にある自販機でちょっこし高いビールを買って、酔いを取り戻すべく部屋で飲む。なんだか風呂に入るのが面倒なのでそのまま寝てしまおうと、寝間着を探すが部屋のどこにもない、あれま。てっきり寝間着があるものと思っていたので何も持ってこなかった、そんなことあるかしらん、面倒だからそのまま寝ることにする。



こういった場合、僕はそんなに引きずることはなく、大抵まあいいやと良くも悪くなってしまうので、帰りの電車で柿の葉寿司を美味しくいただきながら割りにさっぱり帰ってきた。
レコ発当日、この日は三人編成。
コントラバスの加藤さんとマンドリン弾きのジン、二人とも音源に参加してもらっている。
ジンなんかはこの手の話が大好物で、さぞ喜ぶだろうなと思ったが案に相違して、(だいぶ喜んではいたが)さほどの反応で、少し気を遣ってるようにさえ思えた。
といっても、みんな笑ってくれて共演者のみんなも笑ってくれた。
ライブハウスの店長のもぐらさんは「もっと大きなアーティストなら裁判沙汰よ、いちやぬぎでほんとよかった」と、一体どちらをフォローしているのか。また笑う。
「この日500枚売れる予定で、、とでっちあげて、機会損失ということで訴えて、、」「いっそのこと、そのアイドルグループと共演するのなんかどうだろう」なんて話があっちこっちに飛んでいく。
リーズナブルにCDプレスやってくれている工場、いわば共闘しなきゃいけない関係の相手にはっぱをかけたって、タコが自分の足を食うようなものだ。(レーベルオーナーのつみつさんも大体同じような考えのようだった)
当日は後日発送ということにさせてもらった。

一体何が巻き起こって、偽イラハイに相成ったのかと考えると面白い。まわりのミュージシャンや関係者に聞いてみたが、そんな話きいたことないと口を揃えて言う。
「僕たちシフトが合わないからいつまでたっても一緒にいる時間がとれないじゃないか、もう我慢の限界だ、二人でここから逃げよう」
なんて、プレス工場で働いている男女二人が逃避行した日だったかもしれないし、音源データ入稿係が疲労のピークに達した、何故か。彼はプレス工場で働くのは仮の姿で、本当は正義の味方、ヒーロー。連日連夜の悪党との死闘、昨夜はついに悪党の親玉との決闘。あと一歩のところで取り逃がすも、とてつもなく大きなダメージを与えた。満身創痍、そんな次の日だったのかもしれない。高い下駄はいた天狗が巨大なうちわでデータをすっ飛ばしてしまったのかもしれない(プレス工場ではしばしばあるのだ)。もしくは僕も巨大な流れの渦中にあって偽イラハイが何処かの誰かをまわりまわって救っているのかもれない。もしくは、これは或る啓示で、アイドルグループのどなたかとこれから出会うのかもしれない。
なんて。


後日無事に本物イラハイが届きました。






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