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イカにまみれた憂鬱を


「イカにまみれた憂鬱なんてものがあるらしいと巷で噂になっているのは嘘が誠か(仮)」

濡れた路面にこびりついた血、一瞬ぎょっとしたが、よく見るとそれはただの赤い落葉で、驚かされた仕返しに、その紅い落ち葉を踏み抜いてから横断歩道を渡る。
濡れた落ち葉はどこか生々しい。ぬらぬらと、葉脈がしっかり見えて、木の枝についてるものには感じ得ない何かが潜んでいる、気がしてならない。今の気分と合間って余計にそれは、心の中に張り付いて葉脈が頭の中を這うようにして、離れてくれない。草いきれに包まれた時と似ているのかもしれない。生きる者の息遣いが直接肌に触れた感覚。
オブジェじゃない、景色じゃないのだと否応なく認めさせられるような、責め立てられているように感じる時がたまにある。

一日中降る雨にうんざりし、頭の中もぼんやりモヤモヤ晴れ切らず、鬱屈とした気分に苛まれている。葉脈が絡みついてくるのはきっと其のせいで、気温や気圧などの気候の変化によって体調が崩れてしまうことを気象病というらしく、思い返せば偏頭痛に悩まされている人を何人も知っているし、しかし自分は無関係、問題なしとお気楽、気ままにきたつもりだったけれど最近になって天気が悪いと体調がすぐれないことが多いということに気がついた。郷里は「雨の降る町」で悪天候の中、学校に向かうのが本当に鬱陶しく、それはただ単に学校へ行きたくないと言うだけでなく、気象病もいくらか影響していたのだろうと今さらになって一人合点。
「天気が悪いと調子を崩す」と余計なものを知覚してしまった。病は気からというし、気象病なんか知らずに生きたかった。
といってももう遅い。
昼を過ぎても眠気があって活力がない、街をゆく人の顔は心なしか、みなしかめっ面にみえる。
みんながしかめっ面している中、僕は一人昨夜のイカについて考えた。この晴れ切らない心の内は、昨日のイカが影響しているのかもしれない。

きっとそうだろう

昨夜、晩飯の調達をしに雨の中近所のスーパーマーケットに行った。
スーパーマーケットのことを大体、スーパーと省略するが僕はスーパーマーケットの、下の句、マーケットの部分の方が好みで、買い物に行きたくなるのは断然マーケットの方なのだけれど、それだと、話が通じないから、スーパーと言うしかない現実があるなあと、考えながら傘立てに傘をたてて、買い物かごをとって店内に入る。空調がしっかり効いており半袖では寒いくらいだった。腹は減っているものの、はっきりとこれが食べたいといものがなくて(僕は大体そうだ)、お値打ち価格のものから選ぼうと、店内をふらふら。しかしこれといったものがなくて、いつもより安い値段のズッキーニをカゴに入れたっきり、同じところをぐるぐる、流石に晩飯がズッキーニ一本きりというわけにはいかないから、魚を見たり肉を見たり行ったり来たり、カゴに入ってるズッキーニだってどうやって食うかも決めていない。いっそ、できあいものでと諦めかけた矢先、イカが目に入った。イカのスタミナ焼き。
味付けされたカットイカとにんにくの芽がパックされていて、あとはフライパンで焼くだけというもの。あら、楽チンだし美味しそうだし今夜はこれでいいじゃない、ズッキーニ足しても美味しそう。
帰宅後、早速フライパンにイカを大胆にぶちまけて焼く。にんにくの香りが漂う。カットしたズッキーニを足すと、いろどりがずっと良くなった。
あえていると、よくわからない具材が混ざっていることに気がついた、野菜でもない、イカのミミでもなさそう、スタミナ焼きだから、ホルモンだろうか?なんて。
焼くだけだから、すぐ出来上がり。ズッキーニもイカも美味い。ホルモンっぽい何かを箸でつまみあげて、眺めて見てもなんだかよくわからない。とりあえず口に運ぶ。
唖然とした。
スポンジだった。スタミナ焼きのタレを大いに染み込んだスポンジ。余りに横着にトレイからフライパンに開けてしまったものだからイカの下に敷かれたスポンジに気がつかなかったのだ。
抜け作で粗忽者であるということは痛いほどわかっているつもりだが、流石に自分自身に呆れてしまった。
あららら。
あらためて見ると、それはスポンジでしかなく、なぜこれを食い物と勘違いしてしまったのかと情けなくなる。
スポンジがタレを吸ったせいで味が薄くなっており、本来ならもっと美味しかったのだろう。

イカに紛れた憂鬱、路面に張り付いた落葉の憂鬱。

明日も雨が降るらしい。










追記
7月の公演情報

7月14日(日)大阪寺田町 SHADY LANE
七色ラブレターズ/佐古勇気
投げ銭制

7月15日(月・祝) 大阪南堀江knave
クボタカイ/コモノサヤ(nagakumo)

7月16日 京都河原町 三密堂書店 店先にて
配信、映像撮影(20時ごろから)
フリーライブなのでご自由にどうぞ

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