見出し画像

毛糸のオムライスと海

目を覚ますとクレヨンの匂いがした。
懐かしい匂いだ。クレヨンで絵を描かずに匂いを嗅いでばかりいた時期があった。それは遠い昔の話。のように思える。

海の絵を描きたくて青のクレヨンをたくさん使った。しかし僕の想う海は濁りがある。真っ青なんかじゃない。潜ると煙って前が見えず、スノードウムの中のように砂が舞っているのだ。だから黒を入れてみる。青色に胡麻粒が浮かぶ。黒いクレヨンは青色を掬い取り、先が青くなる。海を掬い取る。
黒いクレヨンの先っぽに海が浮かぶ。此方のほうがよっぽど海らしいかもしらん。いっそうのこと画用紙は黒で塗りつぶそうか。
どうもイメイジ通りにいかない。あの頃見た海、、、。画用紙に顔を近づける。
第一海の匂いはこんな匂いでない。もっと生臭い香りがするはずと一旦違和感を感じると気色悪く心がずれていく感覚に見舞われて、とうとう途中でやめてしまった。
波打ち際に立った時にクレヨンの匂いなんかしないのだ。
クレヨンは、ボウルペンや鉛筆ほど正確な筆致で描くことができない。クンクンと音を大袈裟に立てて鷹揚に描く。今はそれが楽しい。
僕の絵は決して上手くないし、寧ろ下手くそである。此れは画家の中で比べればなんて程度のものではなくて、街で10人適当に集めて絵を描かせて上手い順に並べると下から2.3番目くらいにあたる腕前であるということだ。
(流石にドベっけつではないだろうという自惚れはしっかり持っているのだけれど、、)

今もやっているのかわからないが、少し前にある番組でオフィス街にいるサラリイマンに声をかけて今日食べた昼飯を絵に描いてもらうというコーナーがあった。
描いた絵と共に定食屋也の紹介も兼ねるのでこれはよく出来た面白い企画だなと思わず見入ってしまった。
絵を描いて紹介するのは画家でもないサラリイマンなのでもちろん下手っぴの人もいればそこそこに上手な人もいる。
会社ではそれなり役割を任されているであろう中年のおっちゃんが小学生のようななんとも可愛らしい絵を描いたりする。それなりの大人になると絵を描く機会なんか殆どないから大人の拙い絵をみると、その人のちょっこし奥を覗いた気になって心くすぐられるのだ。スーツをびしっと着こなすオフィスレディが毛糸が絡まったような線でカレーやオムライスを描いていた。あれも良かった。その飯屋で食いたくなった。綺麗な映像を見せられて、飯を饒舌に語られるより断然其処へ足を運んでみたくなった。
どれだけ大人の言語を使ったってスーツを着たって、どんな地位があったって関係ないんだ。その筈だ。


そのはずさね。


海はそこたらじゅうに広がっておる。
クレヨンの香りがする海でめいいっぱい泳いでお腹を空かせてから毛糸のオムライスを食べる。


















追記
僕はふわふわオムライスより、かたいオムライスのが好みです。そしてケチャップ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?