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その先はでっかい群れ



白昼、東の都のとある町を友人と歩いていた。
やはり都会。コンクリートジャングルとはよく言ったもので

人が多い多い。
ビルが高い高い。

僕たちはというと、お腹を賑やかす為適当なご飯処を探し求めていたのだった。
あらゆる人間のあらゆる食欲を満たすことを一義として町が形成されているのではないかと思われるほど多くの店が軒を連ね、あれやこれやに目移りして決めあぐねていた。
そうやってお腹と問答している内にある物に目が留まった。
大通りから外れたところに何やら大きな建物がある。
学校の体育館かしらと思ったが、それは違った。唯の住居だったのだ。

友人曰く、喧騒から一歩外れたあちら一帯は高級住宅街とやらになっており、元首相の邸宅があるとかないとか。
遠目から見てもこちら側とは何やら雰囲気が違うのがわかる。
本当に体育館ではないのか確かめに行ってしまったほどで、近くに行ってみると確かに、まごうことなく人が住む家屋の体をなしており表札もきちんとあった。
見回してみると、驚くことにその周辺の家屋が、一々立派なのだ。そこで興味をそそられ、誘われるようにして住宅街をのこのこと散策することにした。

皆んなが一等賞を競うかのようにして、あらゆる趣向を凝らしたのであろう個性豊かで立派な住居が、凛として建っておられる。
こんな立派なものはおいそれと建つものではない。ここに住んでいる家人はどのような人なのだろうかと思いを巡らせる。

もはや城壁とも言える邸宅を囲う壁は、一体何を守っているのだろうか。何故それほど高くしなければならないのか。やはり壁の高さは守るべきものの多さ重さを物語っているのだと思えてならない。
コソ泥の侵入を拒むことをあからさまに意識したつくりに幾らかの疑念が沸いたのも束の間、駐車されている一台のある自動車が目に入る。そして丁度ドアが開く。
しかしながらドアの開き方は僕の知っているそれとは違った。(僕が自動車を知らな過ぎるだけかもしれないけれど)
普通は冷蔵庫や電子レンジなんかと同じように横に開くが、そいつはトランクのように縦に開き、ドアが翼のようにして広がるのには驚いた。
それを見た友人が「ドアの開き方調子に乗りすぎだろ!」と冗談めかしく吐き捨てるようにつっこんでいたのには笑ってしまった。

ラッパを持った天使の像が窓に張り付いていたり、商店なのかと思われるほどの大きな表札や、いつまでも続く外壁に、ほー、とかへー、とか言いながら博物館を見てまわるかのごとく歩く。大体の家に監視カメラがついていたから、僕がぼけえっと眺める姿をしっかり捉えたことであろう。

ボガンボスの、どんとが「でっかいおうち」という曲を、豪邸の庭先で歌っている映像を思い出した。
「こんなにもいい暮らしをしている人は心も寛大で怒らないと思うので、一曲聞いてください」そう言った後にこう歌うのだ。

でっかいうちで緑に囲まれて

育ったお前には何もわからない

自分が誰だかそれさえわからない

どこからやってきたのか知りたくもない

そのうちお前の家が真っ赤に焼ける頃

その理由がわかるよ




カラスが、カアと一声鳴いたのだが、なんだか不思議とその声すらもお上品に聞こえてくる。そしてお腹がグウ。
こんなところで腹をすかしてたんじゃあ、よりさもしい気分になるのではないかと思われ、僕たちはそのファンタジーのような世界から踵を返し、元いたところへ舞い戻り、なんとも有り難い、ご慈悲を感じる価格で麦酒が提供されている蕎麦屋へと駆け込んだのだった。











追記
先日はとある録音で急遽東京へ。
来月は頭とお尻で二本、東京でのライブがきまっております。どちらも演者が多い大きなイベントです。ぜひご予定あいましたら遊びにきてください。

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