怪奇ショートその一 「ミミサケ様」
私は走っていた。
ただひたすら走っていた。
左右にかぶりを振りながら。Tシャツが汗でぐっしょりと濡れていた。
遠くの藪の方から蝉時雨が聴こえていた。
夏休みが三日後に差し迫っていた日の夕暮れ時。
夕陽に背を向け、必死に一本の農道を走っていた。辺り一面には水田が広がっていた。小学生の自分には水田がどこまでも無限に続いているように思えた。
車や人の往来もない静寂の中を背後のなにかに捕まらないように逃げていた。
下校途中に突然、背後で殺気立った気配が沸き起こるのを感じた。そして、す