黒月ミカド

はじめまして。私は黒月ミカドと申します。 私は怪談、妖怪、ホラー小説が大好きです。最近…

黒月ミカド

はじめまして。私は黒月ミカドと申します。 私は怪談、妖怪、ホラー小説が大好きです。最近では他の小説投稿サイトなどで連作の中編怪奇小説を執筆しています。 これまで執筆してきた連作の最終話が完成しました。お暇な時にでも読んで頂けると幸いです。 今後ともよろしくお願いいたします。

最近の記事

美食家の夜会

  俺は肉が食べられない。血肉の生臭さが苦手だ。以前は肉が嫌いではなかった。それが大学生の時、友人三人と行った中華人民共和国への旅行がきっかけで肉が食べられなくなった。  旅行二日目。俺は北京市内にある安宿の一室で休んでいた。友人たちと北京近郊の観光に行く予定だったのだが、俺はその日の朝から片頭痛がひどくて外に行く余裕はなかった。そこで友人たちには観光に行ってもらい、自分は宿に残って留守番をすることにした。  その後、痛み止めの薬が効いたのか昼過ぎまでベッドで休んでいたらすっ

    • 夏の白昼夢奇譚

       これはボクが小学生の時に経験した不思議な話だ。  子供の頃は小児喘息を患っていた。両親は都会の空気汚染が喘息に悪影響を及ぼすのではないかと心配して、東京から地方に引っ越すことを決心した。  小学校三年生の春にボクたち一家は<烏帽子山>という小さな山の近くにある田舎町に移住した。町の近くには小川が流れていた。清流といっても良いぐらいに水が澄みきっており、川底を泳いでいる魚やサワガニの姿がはっきりと見えた。  川の周辺には鬱蒼とした深い森が広がっていた。豊かな自然が残されている

      • 怪奇ショートその二 「あの家には幽霊が出る」

         あの家には幽霊が出る。 家というのは私の実家だ。もっとも正確にいえば父方の祖父母の家である。私は三歳の時に交通事故に遭った。運転手は父親。自分と同乗していたのは母親と生後一か月の妹だった。追突事故に巻き込まれてしまったらしい。 母親と妹は死亡。奇跡的に私と父親は生き残った。それから色々あって私たち親子は祖父母の家に居候することになった。  その家で霊が出るのだ。もちろん自分には霊感がないので目撃したことはない。ただ、目撃証言が多い。身内だけではなく、家を訪れた人間までもが見

        • 怪奇ショートその一 「ミミサケ様」

          私は走っていた。 ただひたすら走っていた。 左右にかぶりを振りながら。Tシャツが汗でぐっしょりと濡れていた。 遠くの藪の方から蝉時雨が聴こえていた。 夏休みが三日後に差し迫っていた日の夕暮れ時。 夕陽に背を向け、必死に一本の農道を走っていた。辺り一面には水田が広がっていた。小学生の自分には水田がどこまでも無限に続いているように思えた。 車や人の往来もない静寂の中を背後のなにかに捕まらないように逃げていた。 下校途中に突然、背後で殺気立った気配が沸き起こるのを感じた。そして、す

        美食家の夜会

          稲生怪幽記 最終話「神魔滅殺の霊剣」

          プロローグ 1. 文明六年。天皇の勅命によって大徳寺再建が始まった。 京の都では戦火で多くの家屋や大小さまざまの寺院が焼け落ち、五山十刹に数えられる大徳寺も焼失を避けられなかったのである。 大徳寺の住持に選ばれ、その再建を任されたのはあの一休宗純であった。 小坊主の時代からとんちで和尚や周囲のおとなたちをやりこめた逸話が有名であるが、風狂ぶりはむしろ大人になってからの方が際立っていた。二十七歳で悟りを得ておきながら師である大徳寺の高僧・華叟宗曇が与えようとした印加状を辞退し

          稲生怪幽記 最終話「神魔滅殺の霊剣」

          稲生怪幽記 第四話「妖刀陰摩羅鬼」

          プロローグ 時は戦国の世。美濃国武儀郡関郷に有名な刀工の一族がいた。とくに二代目の孫六兼元が有名である。刃の鋭さと刀身の頑強さがあることで戦場における実用性が高く、武田信玄・豊臣秀吉・黒田長政・前田利政といった戦国大名から愛用された。彼の作品の中でも前田家の家宝にされた名刀「二念仏兼元」は斬られた人が念仏を二度唱えて死すなど斬れ味で有名である。 天下に名をはせた刀工でありながらも兼元は満足できなかった。彼は向上心が高く、さらに完璧な刀剣を目指していた。だが、なかなか納得の

          稲生怪幽記 第四話「妖刀陰摩羅鬼」

          稲生怪幽記 第三話「宋代麗人図」

          ある日の夜。都内の某商社に勤務している黄田満は帰路についていた。最寄り駅で下車し、徒歩で駅前の繁華街を抜けて住宅街に向かっていく。いつもと同じ道順だった。 十月下旬。うだるような夏が嘘だったかのように今では秋の乾いた涼風がかすかに吹いている。 街路樹に植えられた金木犀の香りが夜の大気に漂っていた。 ──もう秋になったんだな。 黄田満は夜空を仰ぎながら一人で呟いた。 この男は今年で三十八歳になる。家のローンもあるので毎日、必死に働き続けている。妻はいるが子供はいなかった。いない

          稲生怪幽記 第三話「宋代麗人図」

          稲生怪幽記 第二話「神御呂司村の怪奇譚」

           清水康介(しみずこうすけ)が新岩国駅のホームに降り立ったのは五月上旬のことだった。空は清々しいほどに晴れ渡っていた。  康介は新幹線の入り口から降りると背中をゆっくり伸ばした。  ふいに初夏の爽やかな風が頬を優しく撫でる。  ──ああ、良い風だ  康介は風が自分の帰還を喜んでいるように思った。  故郷の地を踏んだのはたった四カ月前。正月に帰ったばかりだ。  それでも懐かしいと思ってしまうのはなぜなのだろうか?  自分でもよく分からない。そもそもこれほどの強い望郷の念に駆られ

          稲生怪幽記 第二話「神御呂司村の怪奇譚」

          稲生怪幽記 第一話「夏の宵に悪鬼が嗤う」

           七月下旬の某日。その年の夏は記録的な猛暑日が早くも続いていた。  体内の水分がすべて零れ落ちてしまうのではないかと思うほどの暑さだった。  実際に午前中から熱中症で搬送された人が続出していた。  その日の夜、安達(あだち)雅史(まさし)巡査は普段通りに自分が配属されている管轄内を自転車でパトロールしていた。  夜でも外気温は下がらず、汗でシャツがびっしょりと濡れていた。額からも玉の汗が零れ落ち、どんなにタオルで拭ってもきりがなかった。  安達巡査が担当をしている巡回範囲は駅

          稲生怪幽記 第一話「夏の宵に悪鬼が嗤う」

          稲生怪幽記 序章「桜花精の夜」

           俺は桜が咲き始める季節になると、恐ろしくて堪らない気分になる。  満開の桜を想像しただけで背筋がゾッとするほどに怖い。  ただ怖いのではない。心の全体が言いようのない不安感に支配されてしまうのだ。  昭和の有名な某作家はある作品において、桜は恐ろしいものだと書いている。  桜は美しいけれど、言いようのない不気味さがあるというのは理解できる。  ただ、俺の場合はその作品を読んだ影響で恐怖を理解したのではない。実体験があるからなのだ。  かつては自分も桜を恐れてはいなかった。

          稲生怪幽記 序章「桜花精の夜」