最期までトイレに行きたいなら、基本動作のトレーニングを〜終活カフェ

 終活について専門家の話を聴きながら、参加者も語り合う、葬儀社・ライフネット東京(小平知賀子代表)主催の「終活カフェ」が8月27日、東京・東五反田の同社事務所で開かれた。今回のテーマは「最期まで自分でトイレに行きたい! 生活リハビリって知っていますか?」。理学療法士の吉村覚(よしむら・さとる)さんを講師に迎え、「最期までトイレに行く」ためにどんな準備をすればいいかを学び、感想などを語り合った。

理学療法士の吉村覚さん

 吉村さんは、まず、リハビリの仕事について説明した。
 「いつも、これからリハビリを始める人と、リハビリ計画や目標を定めるのだが、ある時、『具体的な目標などありません。明日のために歩くのよ』と言われた」。リハビリの専門職は細かく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士と分かれ、達成すべき目標は異なるが、大きく捉えれば、どれも「生きがいをもって暮らせること」や「大切にしていることを実現できるようにすること」を助ける仕事だ。吉村さんはそう大きく捉えて理学療法士を続けている。
 好きな曲はミスチルの「花の匂い」。「これから逝くひとの顔が一瞬、ほころぶような最期を実現したい」と吉村さん。
 リハビリは一直線に進むわけではないから難しいと言う。
 吉村さんが担当した腸の部分切除手術をした91歳の男性患者は筋力アップのリハビリに取り組んでいたが、食べることに対する自信を失い、どんどん体重が減っていったという。
 そこで担当ケアマネジャーが管理栄養士に入ってもらうことを決断。管理栄養士の提案で、体力が消耗する通所リハビリはいったん休みにして、リハビリは最小限の自宅での日常生活動作の訓練にとどめ、食の改善を進めた。
 体重は回復。その後、筋力アップのリハビリが再開できたという。

それぞれに関心の深いテーマ。参加者は熱心に聞き入った

 自分らしい生活を維持するためのリハビリを目指している吉村さんが日々、感じるのは、多くの人は、怪我や病気をしないように気を付けているが、いざ、怪我や病気でリハビリが必要になった時の準備をほとんどしていないことだ。
 「加齢変化は止められない。筋肉はだんだん落ちていく。怪我や病気は避けられない」。介護予防のトレーニングをしている高齢者は「ちっとも筋力が高まらない」と言って途中でトレーニングをやめてしまうことが多いそうだが、「筋力が落ちていくスピードを抑える」のが高齢期の介護予防の目的だ。
 「大事なのは、体が衰えたり、怪我や病気をした時の備え、準備をしておくこと」と吉村さんは強調する。
 吉村さんの次女がハードルの練習中、転倒。骨折して「松葉杖の練習をしておけばよかった」とつぶやいたと言う。「それと同じ」と吉村さん。
 「高齢になってからではなく、今から杖や歩行器を使って上手にあるく練習をしておくのも無駄にはならない」。
 そして、本日のテーマ「最期までトイレに行きたい人へのアドバイス」に。
 トイレ動作は「移動」「更衣」「排泄」「清潔」などの動作に分けられるが、「便座に座る動作一つとっても、体が弱ってくると簡単ではなくなる」。「縦手すり」「横手すり」「囲い手すり」などの福祉器具を用意するのも手だが、「それだけでなくしゃがみこむ際の動作は、いまから練習しておいた方がいい」と吉村さん。
 例えばーー。立つ時は①少し浅く座る②脚を少し手前に引く③おじぎをしてから④ゆっくり立ち上がる。座る時は①おじぎをしながら②股関節と膝を曲げ③ゆっくり座る。
 この会に参加していた介護予防運動指導員のKさんが、この動作をする時の掛け声を教えてくれた。立ち上がる時には「ありがとう」と言いながらおじぎをして立ち上がる。座る時には「お疲れ様」と言いながらおじぎをして座る。

ありがとうとおじぎをしながら立つ

 この辺りから「終活カフェ」の面目躍如。尿漏れなどを防ぐための方策や座位を保持するための日頃のトレーニングなど、参加者からもいろいろな意見が出て盛り上がった。
 リハビリは各人がいかに動くのかを知り、普段から意識することでうまく進む。サポートをするのがリハビリ専門職だ。
 吉村さんは「リハビリ病院などは入院期間に制限があり、まだ十分でない段階でも退院となる。でもその後も訪問リハビリなどを地道に続けてほしい。体の動き、鍛えなければならない体の部位を理解してリハビリに努めれば、回復できる」という。
 怪我や病気をする前の「準備」とそうなってからの「地道なトレーニング」がトイレに限らず、最期まで基本動作が続けられるようになるコツのようだ。

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