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伊藤美誠選手が約1年半ぶりに国際大会優勝!!

パリ五輪選考にまつわるひと騒動が過ぎて、伊藤美誠選手は気持ち新たに卓球に取り組んでいるように見える。2024年7月には、1年半ぶりに国際大会で優勝した。前回の優勝は2023年2月の国際大会だった。

20代前半にして既に2度オリンピックに出場し、輝かしい成績を持つ伊藤選手。そんな彼女がなぜ、パリ五輪に落選してしまったのか。これは彼女本人だけの問題ではない。彼女の周囲で一体何が起きていたのか。

この動画では、伊藤選手の発言、周囲のコメント、パリ五輪の代表選考を振り返る。その目的は、選手と選手を取り巻く環境について理解を深めること。そうすることで、選手の発言や行動を尊重することが出来るはずだ。

伊藤美誠の基本情報

伊藤美誠選手は2000年生まれ、身長は約152cm。2000年生まれの平野美宇選手、早田ひな選手と共に黄金世代と呼ばれている。2020年には世界ランク自身最高の2位まで昇り詰めた。

伊藤選手のプレースタイルは「前陣速攻」。直線的な軌道を描くスマッシュやプッシュで得点を量産する。バックハンドには、表ソフトと呼ばれる表面にツブツブのついたラバーを使用。早田選手や伊藤選手とは戦い方が大きく異なる。この2人は強い上回転により弾道が弧線を描く「ドライブ」を多用する。

伊藤選手は卓球製品メーカーのニッタクと契約していて、ラケットやラバーも同社の製品を使用していると推測される。

2016年のリオオリンピックでは福原愛選手・石川佳純選手と3名で団体戦へ出場。銅メダルを獲得した。当時伊藤選手は15歳。オリンピックの卓球競技で史上最年少のメダリストとなった。

続く2021年の東京オリンピックでは女子シングルスで銅メダル、平野美宇選手と石川佳純選手との団体戦では銀メダルを獲得。水谷隼選手と組んだ混合ダブルスでは金メダルを獲得した。

続く2024年のパリオリンピックでの活躍を周囲は期待したが、東京五輪でのシングルス金メダルを目指して死に物狂いで努力してきた彼女にとって、気持ちを切り替えることはそう簡単ではなかったようだ。

パリ五輪代表メンバー落選

前回の東京五輪終了後に寄せられた声に、伊藤選手は疑問を感じたそうだ。「次はパリ五輪だね、と皆に言われた。しかし私は、その時点ではパリ五輪を次の目標に設定できていなかった。東京五輪に向けて全力を出してきたから、気持ちの整理がついていなかった。自分の目標は自分で決めたいと思った。」

さらに、2023年の全日本選手権の6回選で敗退したことが大きかったそうだ。この敗退により、パリ五輪のシングルス代表2枠は早田選手と平野選手のものとなった。東京五輪で目指したシングルス金メダル獲得。叶わなかった目標のリベンジを果たす機会が失われてしまい、目標を無くしたとのこと。

まだ、パリ五輪に出場するチャンスは失われていなかった。早田選手、平野選手と共に戦う団体戦の1枠が残っていた。しかし伊藤選手は最終的に、パリ五輪の代表メンバーには選ばれなかった。代わりに代表入りしたのは、伊藤選手より8つ下の張本美和選手だ。伊藤選手の初五輪出場時と同じく、15歳で初の五輪へ挑む。

パリ五輪の団体戦には、もう1名が補欠としてチームに同行出来る。多くの人が伊藤選手が同行してチームの助けとなるだろうと考えていたが、実際はそうならなかった。

伊藤美誠選手の発言

2024年2月に伊藤選手は「私はパリ五輪女子団体の補欠メンバーに向いていない。補欠で選ばれても、チームに同行することはないと思う」と発言。続けて、選考に対する自身の考えを述べた。「オリンピックへ出場したことが無い選手こそ、補欠としてチームと行動を共にするべきではないか。私ももちろん選手をサポートしたい。補欠ではなく別の形でアドバイスを送りたい。」伊藤選手自身まだ23歳で、他のスポーツでは若手と呼ばれてもおかしくない。しかし、既に2度もオリンピックを経験しているから、もっと若い選手にこの機会を譲るという形となった。最終的に、伊藤選手より4つ下の木原美悠選手が補欠に選ばれた。

合わせて、自身が補欠選手に支えてもらった経験も語った。「16年のリオ五輪では平野選手、21年東京五輪では早田選手がそれぞれ補欠を務めていて、彼女たちのサポートのおかげでメダルを獲得できた。コーチや監督には出来ない役割だ。」補欠選手の役割が重要であることは理解したうえで、自身とチームの両方のために出した結論だと分かる。

周囲のコメント

東京五輪に落選した伊藤選手に対して、「東京五輪後の伊藤選手は技術的な進歩が無く、その成績を見れば落選は仕方がない」と指摘した海外メディアもあったそうだ。

また、2024年2月には伊藤選手がベンチコーチを置かずに試合に望んでいたことを週刊誌が取り上げた。伊藤選手が小学生の頃からコーチを務めていたMさんが姿を消したという事で伊藤選手の母親も絡めたゴシップネタとして取り扱い、様々な憶測を掲載した。

かつての日本最強女子選手の衰勢を揶揄するノイズが渦巻く中、水谷隼さんは状況を冷静に分析。SNSなどでコメントした。

ちなみに伊藤選手と水谷さんは旧知の中だ。伊藤選手が幼いころに通っていた地元静岡の卓球教室でコーチを務めていたのが、水谷さんの父親。当然、水谷さんもその教室で卓球に打ち込んでいた。15~16歳で、既に海外でも活躍していた。

水谷さんは、伊藤選手が補欠でパリ五輪へ同行するつもりはないと発言したことに対して理解を示し、「伊藤選手はバック面に表ソフトと呼ばれる異質ラバーを貼っている。伊藤選手のようなプレースタイルの選手は少ないから、練習相手として最適であるとは言えない。」とコメントした。日本選手が国際大会で常に意識する相手はもちろん中国選手だ。その中国代表選手は異質ラバーを使用していない。伊藤選手が補欠だと、オリンピック会場で直前の調整をする際、伊藤選手も代表メンバーの練習相手を務める。しかし彼女のプレースタイルは中国選手と全く違うため、本番を想定して取り組むことが出来ないのだ。

水谷さんは続けて「卓球は選手が怪我することが少ない。そのため補欠選手が試合に出場する可能性も低い。チームに同行せず、次の目標に向けた準備に時間を費やしたいという事だろう。」と発言。団体戦の補欠としてチームへ同行しても、出来ることは直前の練習相手を務める他は、選手を応援するくらいだ。それなら、まだ五輪へ出場したことがない選手へ、会場の空気に触れる機会を与えた方が良いと考えることも納得できる。

また、張本選手が選ばれたことについては、彼女の伸びしろと伊藤選手の近年の状態を考慮すると順当であると述べた。

水谷選手は、そもそもパリ五輪代表メンバーの選考方法に問題があり、それが伊藤選手のモチベーションへ悪影響を与えた原因の1つである可能性を指摘。選考方法が原因で試合スケジュールが過密となり、練習時間が減ってしまう。多くの選手が伊藤選手対策の手を打ってくるが、対応できていなかったと分析した。2022年の全日本選手権で優勝した国内最強の一角である伊藤選手へストレスを与える選考基準を採用したことに対して苦言を呈した。

パリ五輪の選考方法への不満

問題となった選考基準は、国際大会の成績で決まる世界ランキングよりも、国内の大会やTリーグでの成績を重視するというもの。日本卓球協会(JTTA)によるとこの選考基準を採用した理由は2つ。

1つはコロナ禍により国際大会の中止が続いたこと。国際大会で獲得したポイントを基準とする世界ランキングというシステムが機能不全に陥るのではないか、と危惧したということだ。

2つ目は世界ランクを重視すると、元々世界ランクが高い選手が専攻に有利になってしまうから。世界ランク上位の選手ほど国際大会への出場機会を多く得られる。そしてその選手たちは上位大会に出場するため多くのポイントを稼ぐことが出来る。一方、国際的に無名な選手はまず下位大会に出場して名を挙げる必要がある。この下位大会で得られるポイントは、上位大会よりも少ない。既に国際的に活躍している選手ばかりに目を向けることになり、国内にいる原石を発掘できないのでは、ということだ。

この選考方法には2つの問題点がある。

ひとつは、選手の負担が大きいこと。世界ランク上位の選手は競争するため、世界中で開催される試合に参加し続けなければならない。しかし日本独自の選考基準により、パリ五輪代表メンバーに選ばれるためには、国内試合へ出場して選考ポイントを稼ぐ必要がある。スケジュールは過密となり、大会が重なってしまうこともある。実際、卓球の世界選手権が開催されている間、日本ではTリーグの試合が行われていて、なんとそのTリーグの試合の成績が選考ポイントとなるという事態も起きてしまった。ちなみに世界選手権は、オリンピックと並んで卓球の世界最高峰に位置づけられる大会である。

ふたつめは、国内で成績を残した選手が、必ずしも対海外選手の試合で優れているとは限らないこと。オリンピックでは海外の選手と戦うことになる。それならば、海外選手に勝てる選手を選ぶべきだ。にもかかわらず、対国内選手の試合を判断基準にすることがおかしいのは明らかだ。

水谷さんは「世界ランキングと国内選考ポイントをうまく組み合わせて選考基準とするべきだ。そうすれば、国内外で最強の日本選手を選ぶことが出来る」と述べた。さらに「中国に勝つための練習をしなければならないが、日本選手に勝つための練習をしている現実が実際にある」と指摘した。

また、「選手へ公平な機会を」という考えにも反論した。「最強のメンバーを選ぶなら、現在強い選手を8名ほど選んで競わせた方が効率的だ。国内で9~10番目の選手が、世界に対する最強選手である可能性は低い。試合数をやみくもに増やしてしまうと、選手たちは各試合の目的を見失ってしまう。国内で格下選手に勝利して喜んでいても仕方がない」と現実的な考えを提示した。

伊藤選手も「試合が多いのは良いことだが、負担はある。休息が欲しい訳ではなく、自分の練習をしたい。試合の調整練習ばかりでは、成長出来ない。」と述べた。

当時、伊藤選手の心身の不調を見た水谷さんは「不満があっても、現実を受け入れるしかない。技術が衰えたわけではなく、調整したり怪我を治したりする時間がないだけ。」と冷静にコメントした。

最終的な選考順位では伊藤選手が3位、張本選手が4位だった。世界ランクも伊藤選手の方が上だった。しかし、伊藤選手は怪我や士気の低下という問題を抱えていた。そして、既に多くの国際大会に出場しているため、海外選手が対策を練っている可能性も高い。特に中国選手は、伊藤選手との戦い方を既に研究済みだそうだ。一方、張本選手は伸びざかりだ。代表チームの監督は、期待をこめて張本選手を3人目の団体メンバーとした。

この代表メンバー選考プロセスについて、日本卓球協会や代表チーム監督に対して、多くの批判が寄せられた。反省点が残る選考となった。

伊藤美誠と張本美和の現在

パリ五輪の代表メンバー選考でのひと騒動が過ぎた今、伊藤選手は自分を取り戻して充実しているように見える。

伊藤選手はパリ五輪へ出場することは出来なかったが、現在は世界ランク1位を目標に、国際大会へどんどん出場して活躍したいそうだ。パリ五輪の選考が終わったが燃え尽きたわけではなく、気持ちを切り替えて新たなスタートをきることが出来た。本人いわく最近は「笑顔が戻った」と言われる事が増えたらしい。心身ともにリフレッシュできたことが、冒頭で述べた1年半ぶりの国際大会優勝にも繋がったのだろう。

代表入りした張本選手も、選考が終了してから現在まで、さらなる成長を見せている。特に中国選手に対する活躍が期待されていた中、2024年4月のワールドカップ女子シングルスにて、中国の王 艺迪選手を撃破。彼女は最高世界ランク2位、2024年7月時点では3位の強豪である。準決勝で同じく中国の王曼昱に敗れて3位となった。15歳でのワールドカップ女子シングルス銅メダル獲得は史上最年少だ。

オリンピック代表メンバーや伊藤選手を擁する日本女子卓球の今後の活躍から目が離せない。

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