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「美しき愚か者たちのタブロー」原田マハ

「タブロー(仏: tableau)とは、壁画ではなく、板絵やキャンバス画を指す。また、絵画に於いて完成作品を指す言葉でもある。訓練としてのデッサンとは対称を成し、完成を目的として制作されたもののことを言う。--Wikipedia」

国立西洋美術館が作られる元となった、松方幸次郎のコレクションを巡る物語である。

戦前の名士で人間的魅力溢れる実業家でありながら、フランス絵画を始めとする膨大な貴重コレクションが終戦時にフランスに押さえられ、ついに生前、自身のコレクションを手元に取り戻せず、悲願の美術館設立も叶わなかった松方幸次郎。

取り巻く吉田茂や黒田清輝などの大物、名も無き人々が、松方の生前や死後も想いを繋いで、コレクション奪還と日本初の西洋美術館創設を果たす。

熱い。読了後のみならず、のっけから最後まで、人々の想いに、その背後にある絵画の永遠なる動かしがたい魅力に、胸が熱くなる。目頭が熱くなる。

どうしてこうも人物や絵画を魅力的に描けるのか。史実に基づいたフィクションとありながら、「これだけの傑作芸術品の背後に、きっと原田マハ作品群で描かれている程の、或いはそれ以上の濃い人間ドラマがあったのだろう」と毎回思わずにいられない。

本作品は、作者の他の作品に比べても「絵画それ自体」の描写は少ないながらも、モネやゴッホらの本物の凄さが、登場人物の行動や言葉から、ありありと、本当に胸が痛くなる程伝わる。

それはきっと、作者自身がもっともその傑作達を愛している人の1人だからだろう。

タブロー、初めて知った単語だったけれども、改めて本作品の題名を噛みしめてみる。

「美しき愚か者たちの、タブロー」
とも、
「美しき、愚か者たちのタブロー」
とも、捉えられる気がする。

そしてきっと、原田マハさん自身もこの題名の仲間に含まれているのではないか。
そんな気がした。

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